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日本人はなぜ玄関で靴を脱ぐのか

2013年09月15日 | 現代に生きる縄文
本ブログは、日本文化のユニークさを8項目の視点から論じているが、その一番目の項目は、以下の通りである。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

これまでも現代日本人が縄文文化をいかに受け継いできたかを折に触れて論じてきた。(→現代に生きる縄文

以下に紹介するのは、縄文文化の記憶が、現代日本人の生活のどんなところに生き続けているかをユニークで具体的的な視点から論じた本だ。

◆『縄文人に学ぶ (新潮新書)

この本の著者・上田篤氏は、もともと「未来を設計する建築学徒」であるが、「日本人のすまい」に興味をもって研究するうちに、その謎を追って結局は縄文時代にたどり着いたという。「日本人のすまい」の謎とは、たとえばなぜ日本人は玄関で靴を脱ぐのか、なぜ家の中に神棚や仏壇を祭るのかといったものである。

著者はこのような謎に対してひとつの「試論」を持つに至ったという。それは、「日本の家は神さまのすまい」というものだ。やがて、その「神さまのすまい」という発想のルーツが、縄文時代の竪穴式住居にあるのではないかと考えるようになったという。

1万2千年ほど前(縄文早期)に日本列島はしだいに暖かくなったが、にもかかわらず北海道から沖縄まで北方住居を思わせる竪穴住居が一斉に作られた。温暖な沖縄までなぜ竪穴住居なのか。それは竪穴住居が人間のすまいというより、「火のためのすまい」だったからではないのか。つまり、気候の温暖化で生じた激しい風雨から火を守るための囲いという意味が強かったのではないか。

著者がこのような「発見」に至ったのは、沖縄の古い家を見たことによるという。沖縄の田舎の旧家では、ついこのあいだまでいちばん大切な神さまは家の奥の地炉のなかの「火の神」だったという。沖縄では稲作文明が流入したのが13世紀であった。すなわち、それまでは稲作以前の「縄文時代」が続いていたわけで、縄文時代をルーツとする文化が色濃く残っているということである。

とすれば、縄文時代の人々も竪穴式住居によって「火の神」を守ったのではないか。火を風雨から守ることは生活に欠かせないだけではなく、神さまを守ることでもあったのだ。縄文人は、神さまの家に住んで、神さまをまもっていたのだ。

そう考えると「日本の家の謎」も解ける。日本の家は「火という神さまを祭るすまい」だった。だからこそ玄関で靴を脱ぐという世界に類のない習慣がある。家の中に神棚や仏壇を設けるも「神さまのすまい」という縄文の記憶にルーツがあるのだろう。

縄文が火を神さまとしたのは、それが定住を保証したからだろう。旧石器人は大動物を求めてさ迷ったが、縄文人は「大自然」そのものを相手にする道を選んだ。彼らは、親族単位で海に近い尾根筋などに住み、女が火を焚き、男が火を絶やさないためのすまいを作った。その住まいを中心とした数キロのテリトリー内で、女たちが木の実や茎、根、小動物、魚介類を採集し、土器で煮炊きした。つまり大動物を追い求めるのではなく、周囲の自然の恵みそのものに依存して生活するようになった。火がそうした定住生活の中心にあった。

そうした縄文人の宗教心はその後の日本の歴史に受け継がれる。たとえば古くからの日本の庶民の家の中心は囲炉裏だった。板敷のリビングに囲炉裏が切られ、その部屋に神棚がおかれた。現代の都会の家でダイニングとキチンが一緒になっている場合が多いのは、リビングと囲炉裏が一体となった古い庶民の家の名残りかもしれないと著者はいう。

今でも日本料理には鍋料理が欠かせない。家族が火加減しながら鍋を囲んで食事をするというスタイルは、欧米料理にはあまり例がないという。鍋料理は、縄文人が炉を囲んで炉の火にかけられた土器から食物をとって食べたであろう伝統を引き継いでいるのかもしれない。日本人が冬になると鍋料理が恋しくなるのは、私たちの中の縄文DNAのなせるわざなのだろうか。

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