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森の思考と母性原理:相対主義の国・日本02

2012年12月29日 | 相対主義の国・日本
日本文化のユニークさ8項目に従って、これまで書いてきたものを集約し、整理する作業を続けている。8項目は次の通り。

日本文化のユニークさを8項目に変更

前回から、(7)「以上のいくつかの理由から、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった」に関係する記事を集約し、整理する。

今回取り上げる日本文化のユニークさ7番目は、「以上のいくつかの理由から‥‥」という出だしの言葉からもわかるように、これまでに考察した6項目のすべてが深く関係している。そのためもあり、それぞれの項目を論じたときにも、その項目との関係で日本人の相対主義的な世界観に触れてきた。ここではそれらの特徴が多かれ少なかれすべて相互に作用しあいながら、日本文化の相対主義が形成されてきたことを確認する。

日本文化のユニークさ、最初の2項目は以下の通りだが、両者は密接にからんでいるので、二つを合わせて論じたい。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

縄文人の思考、つまり自然崇拝的な森の思考が、現代の日本人の心にまで受け継がれているということは、逆に言えば、それが大陸の「普遍宗教」によって抹殺されずに生残ったということである。儒教、仏教、キリスト教、イスラム教など「普遍宗教」の影響の強い国々には、倫理・道徳などの面で絶対的な基準がはっきりしている。日本にはそれがない。「宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどない」のである。日本文化のこの特徴は、どれほど強調しても強調し過ぎることはないほど重要である。

日本がそうあり得たのは、日本文化のユニークさ4項目目の、「大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した文化や言語の継続があった」という特徴に密接に関係する。大陸からの侵略、征服がなかったというのは外的な理由である。一方に内的な理由もあっただろう。つまり、前農耕文化だが高度に発達した縄文文化の時代が1万5千年も続き、その自然崇拝的・母性原理的な森の思考が縄文人の確たる基盤となっていたため、絶対的正義を標榜する「普遍宗教」を受け入れるとき、そのまま受け入れずに、自分たちの心性に合うように骨抜きにしていったのである。

以上の事実を「母性原理」の観点から見ると以下のようになる。

(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。

砂漠や遊牧を基盤とする一神教は、善悪を明確に区別し相対主義を許さない父性原理を特徴とするが、自然崇拝的な森の思考は、多様なものの共存を受け入れる女性原理、母性原理を特徴とする。一神教を中心とした父性的な文化は、対立する極のどちらかを中心として堅い統合を目指し、他の極に属するものを排除しようとする。母性原理は逆に相反する極をともに受容する。

世界史の流れは、母性原理的な文化から父性原理的な文化へと移行する傾向がある。大まかにいって農耕・牧畜が開始する以前は、母性原理の文化が広がっていた。これについては以下の記事を参考にされたい。

日本文化のユニークさ36:母性原理と父性原理
日本文化のユニークさ39:環境史から見ると(1)

日本列島に住む人々は、母なる自然の恩恵をじかに受け取りつつ世界史上でもまれな高度な漁撈・採集時代を生きた。そのため農耕の段階に入っていくのが大陸よりも遅く、それに応じて高度に発達した母性原理の文化がその後の日本文化の基盤となった。

縄文人の信仰や精神生活に深くかかわっていたはずの土偶の大半は女性であり、妊婦であることも多い。土偶の存在は、縄文文化が母性原理に根ざしていたことを示唆する。縄文土偶の女神には、渦が描かれていることが多いが、渦は古代において大いなる母の子宮の象徴で、生み出すことと飲み込むことという母性の二面性をも表す。

日本人が、絶対的な原理や正義へ執着が薄いことは、縄文時代以来の日本文化が母性原理の傾向を強くもっていることと大いに関係がありそうだ。

砂漠や遊牧を基盤とする一神教は、善悪を明確に区別し相対主義を許さない父性原理を特徴とするが、自然崇拝的な森の思考は、多様なものの共存を受け入れる女性原理、母性原理を特徴とする。一神教を中心とした父性的な文化は、対立する極のどちらかを中心として堅い統合を目指し、他の極に属するものを排除しようとする。母性原理は逆に相反する極をともに受容する。

母性原理の日本文化は、「曖昧の美学」にも現れる。「曖昧」は成熟した母性的な感性となり、単純に物事の善悪、可否の決着をつけない。すべてを曖昧なまま受け入れる。能にせよ、水墨画にせよ、日本の伝統は、曖昧の美を芸術の域に高めることに成功した。それは映画やアニメにも引き継がれ、一神教的な文化とは違う美意識や世界観を世界に発信している。

農耕文明に入ってからも母性原理的な森の宗教の原型を色濃く残し、しかも大陸の高度文明の精華の部分だけを、その母性原理的な文化の中に取り入れることができた。中国文明だけではなく、下って西欧文明が流入したときも、母性原理的な基盤に抵触しないように何かしら変形して受け入れた。

ただし私たちは、縄文的な基層文化が私たちの個々の意識や文化の底流として生き残っていることにほとんど無自覚である。その基層文化が、自分たちに合わないものはフィルターにかけて排除する働きをしていることについても無自覚である。

その実、海外から入ってくる「高度な文明」には強力なフィルターがかかって取捨選択がなされている。近代文明をこれほど素早く受け入れながら、その根っこにあるキリスト教をみごとにフィルターにかけてしまったというのはその最たる例である。その結果私たちは、相変わらず相対主義的な価値観のもとに生活しているのである。

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《関連図書》
☆『中空構造日本の深層 (中公文庫)
☆『山の霊力 (講談社選書メチエ)
☆『日本とは何か (講談社文庫)
☆『日本人はなぜ震災にへこたれないのか (PHP新書)
☆『ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
☆『日本の曖昧力 (PHP新書)