WOWOWが全豪特派員募集というのをやっていて、その論文?のお題が今年と来年のテニスシーンだったらしい。で、1月中は幸か不幸かどっちにしろ日本を空けるヒマがない僕も真似してちょっとやってみる。
表面的にはナダルの復活から一挙に王座継承がトップに来て、対照的に執着心が薄れが見えたフェデラー、そしてソダーリングやベルディヒ、そして怪我で休んでいるデルポトロといった、ビッグボディ&ビッグショットプレイヤー達が一大勢力であることを確実にした話、といったところが2010年の印象ではないだろうか。
一方、それらの裏にある大きなトレンドは、やはり21世紀に入って年々高度化している、効果的なトレーニングの集中的な導入による戦力アップ、さらに今年目だったのは、1年~数年単位で緻密に計画された強化プランとその厳密な実施(の成果)ではないだろうか。ベルディヒは体型のみならず、プレー自体大きく変化させ成功を納め、ナダルもそれが一区切りついた様子を全米で見せた。今オフに何人のトッププレイヤーがドバイに行っているか知る由もないが、ロディックが死に物狂いでやっているニュースも流れてきている。
このトレンドには当然懸念もある。まず選手が燃え尽きるスピードが早くなること(ソダーリングのコーチを辞めたマグナス・ノーマン氏のようにコーチがツアーに疲れてしまう例も多いが)。その意味でウィリアムズ姉妹のようにグランドスラムに極端に偏重したツアー参加は、ある意味健康的なものであり、フェデラーもそれに近いものがある。興行側にとっては面白くないだろうが、そもそもこんなに消耗の激しいスポーツが事実上オフシーズンもなくいつも世界のどこかで大会をやっている状態なのが異常なのだ。経験やポイントが少ない若いプレイヤーでない限り“マイペース”でやらないほうがおかしい。ちなみに、プロのボディビルディングなぞ、ミスター・オリンピア(世界チャンピオンにあたる)を一度取ると、年一回のその大会しか出なくなる選手も珍しくない。そしてこれがまた新しいネガを生む。格差問題だ。良い計画を立て確実に実施できる環境を整えられるかどうかが勝負のカギになるので、既に強くてリッチなトップ連中はますます強くなり、故障による離脱も減るので、下克上の場面が減る恐れがある。もちろんF1のエイドリアン・ニューウェイのように、トップチームに飽きて新たなチャレンジを求めるコーチもいるだろうし、何と言っても選手も人間なので不確定要素は多いのだが。
いずれにせよ、ヒートアップする状況は現代スポーツ界に共通する懸念を生む。ドーピングだ。プレッシャーに耐えかねて違反対象にあたる薬品や行為に手を出す(本人が知らない場合も含め)選手がより増えるだろう。今年はパワーの重要性がクローズアップされただけに、来年は心配である。既に今年引退したクリストフ・ロクス氏のようにドーピングの蔓延をはっきり告発している事実もある。が、最終的にはプロの興行なので、どこまで表にでてくるかは微妙か…?ドーピングといえば今年もまたツール・ド・フランスがらみのニュースがあったが、あれは昔から大きな問題になっていたのをとうとう抑えきれなくなっただけの話である。
フィジカル、パワーの話といえば、今年のジャパン・オープン。ナダルや錦織が出た翌日の一見地味な組み合わせの日だったが、ラデク・“業界のモテ男”・ステパネクはやはり興味深かった。サービスを含め、とにかくハードヒットする場面が殆どなかったのだ。ひたすら丁寧に相手(フェデラーの幼馴染であるマルコ・チウディネリ)に強打の機会を与えない配球を続けるのだ。世界最高峰のおっさんテニスだ。もちろん、典型的な今時のスタイルであるチウディネリのように、ある程度強打し続ける方がミスも減りやすいはずだし、ステパネクも強打できないわけでもない。で、勝った。但しチウディネリの途中棄権という結果であり、これはステパネクのプレーが引き出した結果なのかどうか、試合を観ただけではわからない部分もある。
一方、女子シングルスでは、奈良くるみの試合をセンターコートで観たのだが、これも興味深い点があった。奈良が打つストロークがかなり“男子プロっぽかった”のだ。つまり有り余るパワーを最大効率で威力とコントロールに変換するために、ポリエステルのストリングでボールを潰し、ゆがんだボールは相手コートにドスンと落ちるスタイル…但し、奈良の場合はボールは潰せるのだが、そこから男子のようなエネルギーをボールに持たせる程の力はない感じで、球威は頑張った程でもない印象。クルム伊達公子は最もとんがった例だが、“最終的な効率”についてまだ検討の余地がありそうに見えた。
そういえば、ジャパン・オープンではアマチュアのように低く滑るスライスショットを打っている選手を練習でも見かけたことがなかった。物凄い回転はかかっているのだが、やはりドスンと着地して、その後の減速の割合がかなり大きいだけの様子。これは戦術上の選択なのか、球威が上がりすぎるとどうしてもこうなってしまうのか、道具のせいか、こういう打ち方しか教わらなかったのか?ちなみに、バックハンドスライスがいいという評判の色男、フェリシアーノ・ロペスは、第1コートでナダルに勝ったばかりのガルシア・ロペス相手に苦戦、スペイン語でコーチに愚痴、コーチもスペイン語でなだめる、最後はストリングに唾吐いてました(笑)
さて、来年の注目選手ですが、まず根拠も無くリシャール・ガスケを推したい。パワーもテクニックも充分、今年の全仏でフェデラーより薄めの握りから繰り出した爆弾のようなフォアハンドも見物。是非精進して一皮剥けた姿を見せて欲しい。
若手ではやはり錦織圭。イマジネーション、スピードと、こんなに魅力的なプレーをする選手は昔を振り返っても非常に珍しい。あとは北のほうで審判に手をかけてしまい、全豪の出場権剥奪の危機にある(笑)グリゴール・ディミトロフか。こちらはフェデラーそっくりの軌跡を辿っているようで、とりあえずジャパン・オープンには来て欲しい。
一方で気にかかるのは昨年今年と大ブレークした巨人達か。長引いた怪我、コーチとの離別、精神的にややお疲れ気味というような、それぞれ不安材料がある。まあ、いずれにせよ、ひとシーズンのなかで全豪は特殊な位置づけであり、全豪後から全仏までの間にいかに“貯金”をするかが勝負になっている状況ではあるのだが…
女子のほうは正直詳しくないのだが、グランドスラムを観ている限り、あそこまで“ファンタジー”に欠けると興行的価値はちょっと苦しくなってきているかなと…もちろんクルム伊達公子は明らかに特別な存在なのだが、彼女のプレイが観られなくなる時も確実に迫っているのだ。
表面的にはナダルの復活から一挙に王座継承がトップに来て、対照的に執着心が薄れが見えたフェデラー、そしてソダーリングやベルディヒ、そして怪我で休んでいるデルポトロといった、ビッグボディ&ビッグショットプレイヤー達が一大勢力であることを確実にした話、といったところが2010年の印象ではないだろうか。
一方、それらの裏にある大きなトレンドは、やはり21世紀に入って年々高度化している、効果的なトレーニングの集中的な導入による戦力アップ、さらに今年目だったのは、1年~数年単位で緻密に計画された強化プランとその厳密な実施(の成果)ではないだろうか。ベルディヒは体型のみならず、プレー自体大きく変化させ成功を納め、ナダルもそれが一区切りついた様子を全米で見せた。今オフに何人のトッププレイヤーがドバイに行っているか知る由もないが、ロディックが死に物狂いでやっているニュースも流れてきている。
このトレンドには当然懸念もある。まず選手が燃え尽きるスピードが早くなること(ソダーリングのコーチを辞めたマグナス・ノーマン氏のようにコーチがツアーに疲れてしまう例も多いが)。その意味でウィリアムズ姉妹のようにグランドスラムに極端に偏重したツアー参加は、ある意味健康的なものであり、フェデラーもそれに近いものがある。興行側にとっては面白くないだろうが、そもそもこんなに消耗の激しいスポーツが事実上オフシーズンもなくいつも世界のどこかで大会をやっている状態なのが異常なのだ。経験やポイントが少ない若いプレイヤーでない限り“マイペース”でやらないほうがおかしい。ちなみに、プロのボディビルディングなぞ、ミスター・オリンピア(世界チャンピオンにあたる)を一度取ると、年一回のその大会しか出なくなる選手も珍しくない。そしてこれがまた新しいネガを生む。格差問題だ。良い計画を立て確実に実施できる環境を整えられるかどうかが勝負のカギになるので、既に強くてリッチなトップ連中はますます強くなり、故障による離脱も減るので、下克上の場面が減る恐れがある。もちろんF1のエイドリアン・ニューウェイのように、トップチームに飽きて新たなチャレンジを求めるコーチもいるだろうし、何と言っても選手も人間なので不確定要素は多いのだが。
いずれにせよ、ヒートアップする状況は現代スポーツ界に共通する懸念を生む。ドーピングだ。プレッシャーに耐えかねて違反対象にあたる薬品や行為に手を出す(本人が知らない場合も含め)選手がより増えるだろう。今年はパワーの重要性がクローズアップされただけに、来年は心配である。既に今年引退したクリストフ・ロクス氏のようにドーピングの蔓延をはっきり告発している事実もある。が、最終的にはプロの興行なので、どこまで表にでてくるかは微妙か…?ドーピングといえば今年もまたツール・ド・フランスがらみのニュースがあったが、あれは昔から大きな問題になっていたのをとうとう抑えきれなくなっただけの話である。
フィジカル、パワーの話といえば、今年のジャパン・オープン。ナダルや錦織が出た翌日の一見地味な組み合わせの日だったが、ラデク・“業界のモテ男”・ステパネクはやはり興味深かった。サービスを含め、とにかくハードヒットする場面が殆どなかったのだ。ひたすら丁寧に相手(フェデラーの幼馴染であるマルコ・チウディネリ)に強打の機会を与えない配球を続けるのだ。世界最高峰のおっさんテニスだ。もちろん、典型的な今時のスタイルであるチウディネリのように、ある程度強打し続ける方がミスも減りやすいはずだし、ステパネクも強打できないわけでもない。で、勝った。但しチウディネリの途中棄権という結果であり、これはステパネクのプレーが引き出した結果なのかどうか、試合を観ただけではわからない部分もある。
一方、女子シングルスでは、奈良くるみの試合をセンターコートで観たのだが、これも興味深い点があった。奈良が打つストロークがかなり“男子プロっぽかった”のだ。つまり有り余るパワーを最大効率で威力とコントロールに変換するために、ポリエステルのストリングでボールを潰し、ゆがんだボールは相手コートにドスンと落ちるスタイル…但し、奈良の場合はボールは潰せるのだが、そこから男子のようなエネルギーをボールに持たせる程の力はない感じで、球威は頑張った程でもない印象。クルム伊達公子は最もとんがった例だが、“最終的な効率”についてまだ検討の余地がありそうに見えた。
そういえば、ジャパン・オープンではアマチュアのように低く滑るスライスショットを打っている選手を練習でも見かけたことがなかった。物凄い回転はかかっているのだが、やはりドスンと着地して、その後の減速の割合がかなり大きいだけの様子。これは戦術上の選択なのか、球威が上がりすぎるとどうしてもこうなってしまうのか、道具のせいか、こういう打ち方しか教わらなかったのか?ちなみに、バックハンドスライスがいいという評判の色男、フェリシアーノ・ロペスは、第1コートでナダルに勝ったばかりのガルシア・ロペス相手に苦戦、スペイン語でコーチに愚痴、コーチもスペイン語でなだめる、最後はストリングに唾吐いてました(笑)
さて、来年の注目選手ですが、まず根拠も無くリシャール・ガスケを推したい。パワーもテクニックも充分、今年の全仏でフェデラーより薄めの握りから繰り出した爆弾のようなフォアハンドも見物。是非精進して一皮剥けた姿を見せて欲しい。
若手ではやはり錦織圭。イマジネーション、スピードと、こんなに魅力的なプレーをする選手は昔を振り返っても非常に珍しい。あとは北のほうで審判に手をかけてしまい、全豪の出場権剥奪の危機にある(笑)グリゴール・ディミトロフか。こちらはフェデラーそっくりの軌跡を辿っているようで、とりあえずジャパン・オープンには来て欲しい。
一方で気にかかるのは昨年今年と大ブレークした巨人達か。長引いた怪我、コーチとの離別、精神的にややお疲れ気味というような、それぞれ不安材料がある。まあ、いずれにせよ、ひとシーズンのなかで全豪は特殊な位置づけであり、全豪後から全仏までの間にいかに“貯金”をするかが勝負になっている状況ではあるのだが…
女子のほうは正直詳しくないのだが、グランドスラムを観ている限り、あそこまで“ファンタジー”に欠けると興行的価値はちょっと苦しくなってきているかなと…もちろんクルム伊達公子は明らかに特別な存在なのだが、彼女のプレイが観られなくなる時も確実に迫っているのだ。