シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

テンプルグランディン~自閉症とともに

2012-10-03 | シネマ た行

これはアメリカのケーブルテレビ局HBOが製作したテレビ映画ですので、厳密に“映画”というものではないのですが、HBOは常に上質のテレビ映画を製作していて、クオリティとしてはそんじょそこらの“映画”には負けないところがあります。というわけで、ワタクシは勝手に映画のレビューとして書かせていただきます。

テンプルグランディンという方の名前を聞いたことがある日本人がどれくらいいるのかワタクシには分かりません。多少なりとも高次脳機能障害などに興味のある方ならご存知の名前ではないだろうか。ワタクシは特にその分野に明るいわけではないが、興味はあるほうなので以前からテンプルグランディンという人の存在は知っていた。映画好きとしては純粋にクレアデインズの演技が素晴らしいと聞いていたのでそれにも興味があったし。

テンプルグランディンは高機能自閉症として生まれ他人に触れたり目を合わせたりすることができず、言葉も4歳までは出なかった。母親ジュリアオーモンドの努力の甲斐もあってか、言葉は話せるようになるが、他人の言葉の裏とか行間を読むということはできないので冗談は通じず、学校では変人扱いされていじめられたりもした。しかし、彼女の自閉症のひとつの特徴として視覚的に物事を捉えるので、目で見た教科書のページを瞬時に記憶することができるという特殊な能力も持っていた。高校のとき彼女のそんな才能を伸ばしてくれる科学教師カーロック先生デヴィッドストラザーンに出会い、彼の支援もあって畜産学を学ぶ大学に進学する。

大学進学後、実際の場などを研修で見学し、彼女の特殊な能力を発揮し、どのようにすれば牛が穏やかなまま消毒漕に誘導することができるか、の最後の瞬間まで牛が落ち着いたままでいられるかなどの設計を研究し、現在ではアメリカ、カナダの半数の場で彼女の設計が使用されているという。

彼女は1947年生まれということだから、いまよりも自閉症などに関する研究はなされておらず、いまよりももっと差別的な意識や間違った知識(お母さんの愛情不足などと医者から言われるシーンもある)がはびこっていた時代に、周囲の偏見にも負けず自分の信念を貫き通したテンプルは素晴らしい。それにはお母さんの"She is different. But not less."(彼女は人とは違う。でも劣ってはいない)という信念が大きかったのだろう。

たくさんの偏見もありながらも、中には理解し協力してくれる人々もいて、そんな人々の中でテンプルは自分はイヤだけれども、人は喜ぶんだなということを想像するというような彼女の自閉症の症状からはおそらく困難であろうことも克服するようになってくる。自分はハグは嫌いなのに、母親はしたいのだろうというのをぎこちないながらも受け入れるシーンに涙が出た。

彼女は牛の気持ちや習性を独特の視点で理解しながらも、場の設計という一見矛盾しているようなことをするが、彼女が何度も言う「自然は残酷。でも人間までそうである必要はない」というセリフに非常に心打たれた。自分たちの生活に必要なため牛を殺すのであればせめて穏やかに死なせてあげたいという彼女の気持ちに感動を覚えた。

これも彼女の自閉症の症状であるが、同じことを何度も繰り返し話したり、TPOをわきまえず自分の言いたいことを大声でとうとうと喋ったりしてしまうテンプルをクレアデインズが驚くほどにうまく演じている。彼女はこの作品でエミー賞やゴールデングローブ賞を受賞しているが、これが劇場公開版の映画作品だったら間違いなくアカデミー賞を受賞しているだろうと思われる演技だ。クレアデインズは少女のころから演技派の女優さんだけど、この作品での演技は彼女の数々の素晴らしい演技の中でも上位に来る作品となるだろう。それを受ける母親役のジュリアオーモンドもまた素晴らしい演技だった。

演出もテンプルの独特の視覚的な世界を映像で表し、彼女の興味のあることに没頭してしまう特徴や、冗談が通じないところなどを時にユーモラスに描き、決して障害者を扱ったお涙ちょうだい系の作品にはならず、非常に力強い作品となっている。

残念ながら日本ではDVDが出ていないみたいなんですよね。。。ケーブルテレビで見る機会のある方はぜひご覧になってください。



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