おじいちゃんと実の母親が離婚してから、お父さんは母親を恋しいと思ったことはなかったのでしょうか?
お父さんは、大人になってから、一度だけ母親を見かけました。
東京の競馬場でした。やつれて、髪はボサボサ、酷い身なりをしていたのですが、すぐに母親だと気付きました。
しかし、とうとう声をかけることはできませんでした。
もう、自分とは関わりのない人だと思ったのでしょうか?
それとも、下手に声をかけ、お金の無心でもされたら困ると思ったのでしょうか?
その姿に哀れを感じたということです。
お父さんは、お酒が苦手でした。
おじいちゃんが酒乱であったことから、「自分はああなりたくはない」と飲まなかったのかもしれませんが、実際コップ1杯のビールで真っ赤になり、お酒に弱かったのです。こんな所は、チエちゃんも似てしまいました。
チエちゃんにとって、お父さんは近くにいても、遠い存在でした。
一年のうち半分近くは家にいないのだし、お祖母ちゃん子のチエちゃんはお父さんがいてもいなくても、何にも困ることはなかったのです。
それに、思春期ともなれば、パンツ一丁で家の中をうろつき回るお父さんに、嫌悪感を抱いていたし、共通の話題もありませんでした。
だからといって、全く影響を受けていないのかといえば、そうでもなくて、時代劇好きなところは、間違いなくお父さんと一緒にチャンバラを見ていたせいでしょう。
それに、男性を見るとき、お父さんが基準となっているような気もします。
お父さんみたいな人とは、絶対に結婚しないと思っていたのに、何となく体型が似ていたりします。
チエちゃんは、痩せている人はダメです。頼りない感じがするからです。
チエちゃんの結婚式の時、最初から最後まで、泣き通しだったお父さん。
チエちゃんは、その時初めて知ったのでした。
お父さんが、こんなにもチエちゃんのことを愛していてくれたことを。