LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

『LE CHOC』 (4)

2010-01-11 | THE SOUNDTRACKS
前回のライナー・ノーツ翻訳の後半です。(ただし『最後の標的』に関する部分のみです)

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1981年の終わり頃、『最後の標的』の編集作業中のロヴァン・ダヴィはこの作品に大いに幻滅を感じていた。:
"私は石のように沈んでいた。そこに幸いにも、フィリップ・サルドが私を救いにやってきてくれた。
いつものようにおしゃべりをしながら熱意をもってやってきてくれたんだ。
まるで音楽のスーパーマンのように彼は胸をはってこう言ったんだ。
「心配しないでいい。あなたの映画を救って見せる!」とね。”

作曲家も同じように彼らの最初のスクリーニングセッションを一緒にした直後のことを覚えている:
"私には非常に単純な野心があった。つまり私の立場はこうさ:
音楽によって『最後の標的』という作品を単なるテレビ映画にはさせないってね。
映画のテーマには特にこだわらない。:
劇的な場面においてスコアはその内容を深めるため、そこに特別なものを注入した。
こんな風なやり方で、私はロヴァンが受け入れ難い音楽を彼に受け入れさせねばならなかった。
他の言葉で言うと、何人かの素晴らしいソリストを一同に集めて、
ロックとジャズ・フュージョンとロマン主義の音楽の間でバランスのとれた型にはまらないスコアを認めさせるということだ。
私は近代的なドライブ感覚を持った精力的なものにしたかった。
メインテーマを聴いてみたまえ:
そこではLancelot du Lac (1974)の音楽からのモチーフを私は再び取り上げて、さらに発展させている。
ロックのリズムをバックに、ソリストは偉大なサックス奏者ウェイン・ショーターに演奏してもらったんだ。:

私は彼に砲撃するような音色でもってソプラノをプレイしてもらえないかと依頼したんだ。
民俗楽器からジャズ・ホーンへの予期せぬ置き換え...
その結果、他の楽器の音とは全く異なるサックスの音色が、
ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴの叙情的なラブシーンと同じように暴力的でスリラー的な場面にもフィットする。

私にとって『最後の標的』の音楽は『夕なぎ』とCoup de torchon (1981)の音楽の最も直接的で偉大なブレンド作業と言える。:
ジャズロックのリズムセクションにはウエザー・リポートのミュージシャンたち、ロンドン交響楽団、
そしてソリストのウェイン・ショーターに参加してもらった..
これには巨大なリスクを伴うものだった。:
大衆を目的とした映画にこのようなオリジナルのサウンドを構築するのであるから。
それには誰の耳にもなじむ明確な曲が必要であり、しかも全く他では聞いたことのないものにする必要があった。"

後になっとみると、ロヴァン・ダヴィはこの荒海から救助してくれたことを思い出して感謝している。:
"彼の音楽において、フィリップは私と一緒に物語を語ってくれている。
彼は『最後の標的』という映画を本来あるべき位置に戻してくれたのだ。
そして私はロートネル作品との目に見えないつながりにも愛着を感じている。:
それは 5年前の『チェイサー』でのスタン・ゲッツとの関係だ。
我々はまたしてもドロン&サルドに相対している。
だが今度のサックス奏者は黒人のアメリカ人、ウェイン・ショーターだ。

そして、フィリップは、この映画の中にほとんど気づかない何か特別なものを新たに加えている。:
私の希望は映画界の根幹を揺るがすようなことを行って破壊することだった。
例えば、私はカトリーヌ・ドヌーブが演ずる役をブルターニュの七面鳥農家に働く女性にしたんだ!
もちろんそれはグロテスクなものであった。だがそれが私の望んだものであり、私はこの結果に満足しているよ。
フィリップはすぐさまそこに可能性を見てこう言ったよ、
"この音楽は君をはるか彼方の先に連れて行くことができるよ。
もっと拡大させるのさ...私は君の七面鳥農婦を女王にしてあげるさ!" 
彼は壮大な曲を追加した。
それはまるでヴェルサイユ宮殿の噴水のそばで演奏されるリュリのバロック作品のオーケストラとマンドリンの音色のようであった。
まず第一に、その音楽はシーンを救済している。
第二に、これはまさしく常識はずれなことだが、同時に天才的であり、これこそまさに我々がフィリップに期待するものなんだ!

それでも、私は『最後の標的』が好きだという人に未だに出会うことに驚いているんだ。
そういうときは私は彼らの感情を傷つけないようにこう答えるんだ。
"ごめんなさい。あの作品は私にとって最悪の映画だ!" ってね(笑)

しかし作曲家は監督とは少し異なる意見を持っている。:
"奇妙なことだが、『最後の標的』という作品は年月が経過するごとに熟成していっている。
それは伝説的なカップルの存在感にロヴァンの映画的な技法の信頼性が加わって強化された、
正に基本に忠実な映画作品だからだろう。
少なくとも当時ドロンが製作していた他のスリラー作品、
たとえば『ポーカー・フェイス』や『危険なささやき』にも十分匹敵する作品だよ。

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この作品が好きな私にとって最後のサルドの言葉は泣けます。

日本でこの作品がテレビ初放映された際に、
このサルドの音楽が全く別の三流の音楽に差し替えられてしまった事実を思い起こしますと、
このインタビューに書かれた、監督と作曲家との間の厚い友情を
土足で踏みにじる行為であったことがよくわかります。

それにしても1981年当時のウエザー・リポートのリズム・セクションと言えば
故ジャコ・パストリアスの名前を思い出さずにはいられません。
このアルバムにもし参加していたのであれば驚異的な事実です。

尚この作品については以前のこの記事をご参照ください。
LE CHOC 最後の標的 (1) (2) (3) (4)

またサントラについてはこちらです。
『LE CHOC』(1)(2)
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4 Comments

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最後の標的についてではないのですが (とんこ)
2010-01-12 12:51:33
今年も宜しくお願いします。
年末にドロンさんの舞台延期になったというお知らせ・・楽しみにしていましたので残念です。でもフランスは凄い寒波だとか?延期になってよかったと思うことにしました。。今年の秋頃には実現することを信じて。。昨日は「ダンジングマシーン」を鑑賞しましたが字幕なしでしたので??状態でした、ドロンさん素敵でした
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とんこ様 (チェイサー)
2010-01-16 04:09:38
今年もよろしくお願い申し上げます。
ドロンさんの舞台は私も気長に待つことにします。
「ダンシング・マシーン」は意外な拾いものですね。

返信する
素晴らしい特集記事ですね! (スコみは)
2010-02-02 01:24:39
(1)から(4)と、サントラの記事を拝見しました。
なんて素晴らしい記事なんでしょう!
私は大学時代に第2外国語でフランス語を受講していましたが、今はもう読解できません。
そのような中で、チェイサー様の和訳記事の内容は発見ばかりで、とても楽しめる記事でした。
また、『最後の標的』の音楽やサルドの人柄に今まで以上に近づくことができました。
本当にありがとうございました。
返信する
ありがとうございます。 (チェイサー)
2010-02-02 03:39:42
スコみは様、コメントありがとうございました。
この作品は私もお気に入りですので、かなり気合を入れて書きました。
お楽しみいただけてよかったです。
ユニバーサルのライナーは英語訳があるので比較的楽なのですが、
いかんせん単位をカ●ニングで取ったフランス語となりますと本当に苦労します。
これからも頑張って翻訳に励みたいと思います。
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