ザボンの香り

喜びや悲しみ、
ささやかな日常の想いを、エッセイで・・・

『夏のあらし!』 小林尽

2011-02-24 12:13:30 | 読書関連
「すっごく文学性の高いマンガだから」
と、息子(高3)に強引に押し付けられて、
全8巻を読まされる。
が、思った以上に優れた力作で、感動した。

いわゆる“コミック的萌え要素”には閉口しながらも、
作品に込められた、あまりにも重厚なメッセージに、強く胸を打たれた。

庶民の立場から、様々な資料を丁寧に消化して、
その犠牲(のエッセンス)を、ここまで真摯に描いた作品は少ないだろう。
作者の決意と、男気に心から拍手したい。

原爆や沖縄戦や、南島玉砕や満州引き上げなどの悲劇が、
あまりにも大き過ぎるゆえに忘れ去られがちだが、
全国各地の大空襲の凄惨さは、
未来まで語り継がれなければなるまい。

大空襲の体験を知るか知らないかで、
人間の、人生の質を決定付ける分岐点になる、とさえ思う。


【↓以下、作品の重要なネタバレを含みます↓】

横浜大空襲で、生死の境から幽体となって、
以降60年さ迷い続けた、4人の少女。
みんな個性的で、健気で、可憐で、美しいが、
ひときわ利発で明朗なあらしが、みんなを助けたけれど、
自分の肉体は助からず、さらに結果的に幽体までもが
大怪我を負って消滅してしまったのだ――と感動していたら、
最終話、特に最後の1コマで、大どんでん返し!

「え?え?ええっ???」

で、余韻と共に、考察すること丸一日。

つまり・・・・
あらし以外の3人の幽体は、肉体と合致して、戦後を生きた。
しかし、あらしの幽体は、今年は消えたけれども、
来年の夏、再び現われ、さ迷い続ける。
来年以降のあらしから、割れたメガネをもらった13歳の八坂は、
一言も交わさずともメッセージを理解し、
「体を鍛えて成長し、いつか必ずあらしを助け出す」決意を固める。

そして、最後の1コマは、
19歳くらいに成長した、力強い八坂が、
80歳代の老女あらしと、再会する。

つまり、夏が来る度に何度も八坂は、あらし救出に向かったのだろう。
そしてその度、失敗したのだろう。
けれども、ついに19歳頃に成功して、あらしの幽体は肉体と合致した。

その、最もクライマックスともいえる場面を絵に描かず、
作者は、読者の想像力に委ねたのである。

【↑ネタバレ、ここまで↑】


なるほど、文学性が高い。
できれば、国内外の大勢の人に、読んでもらいたい作品。
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