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久しぶりにトンデモない記事を発見してしまった。
もちろん明らかな誤報、それもかなり甚だしいものだ。
『トリケラトプスが教科書から消える? : ギズモード・ジャパン』
こちらも
はてなブックマーク - トリケラトプスが教科書から消える? : ギズモード・ジャパン
さて、どこが間違いなのか。
元ネタはこの論文である。
Scannella, J. and Horner, J.R. (2010).
"Torosaurus Marsh, 1891, is Triceratops Marsh, 1889 (Ceratopsidae: Chasmosaurinae): synonymy through ontogeny ."
Journal of Vertebrate Paleontology, 30(4): 1157 - 1168
内容はざっと、
トリケラトプスの頭蓋の形態を数十個体、またトロサウルスのものも解析し、比較しなおした。
それによると、トリケラトプスの頭蓋の形状、とくにフリルを構成する後頭骨や鱗状骨が成長段階に従って大きく変化すること。
そしてそうした形態が最終的にこれまで"トロサウルス"と呼ばれてきた標本にきわめてよく似ることが示された。
そもそも、トロサウルス(Torosaurus)はその記載の過程やこれまでの発掘の状況から独立した属として疑問視する説が多数あり、
今回の研究によって、より早く記載されていたトリケラトプス(Triceratops)の成長段階、または何らかの個体差として、
トリケラトプス属にまとめられるのではないか・・・。
ぐらいのもの。
だのに、どうしてこんな内容になるのだろうか。
(そもそも「どっちの名前が残るか」なんて"瑣末な"ことは、この研究の本質的な面白さとはあまり関係ないのだが…)
Twitterなどでも多くの方が一晩中かかって火消しに走ってくださっていることに敬意を表す意味でも、
私はweblogで長々批判することにします。
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そもそも論文のタイトル、
"Torosaurus Marsh, 1891, is Triceratops Marsh, 1889 (Ceratopsidae: Chasmosaurinae): synonymy through ontogeny ."を直訳すると
「トロサウルスはトリケラトプス(ケラトプス科: カスモサウルス類):個体発生がうんだ別名」
つまり『TorosaurusはTriceratopsだった』という話なので、
まず"トリケラトプスが消える?"ようなことにはなりません。
もっとも、件の記事では「トリケラトプスが消える。(マルっ)」とは明記していませんが、
「…が消える?」といったタイトル、また内容に関しても、全くの誤解を招くニュアンスになっているのは明らかでしょう。
そもそも、せめて論文の題名だけでも読んでいれば「…消えるかも?」といったようなことは絶対に書けないはずです。
では、なぜ「トリケラトプスの名称がトロサウルスに比して優先されるのか」。
これは学名をつける上での、基本的な決まりを押さえなくてはなりません。
まず、学名を与える上での規則である国際動物命名規約(International Code of Zoological Nomenclature, ICZN)上では、
学名に「先取権」があることが明示されています。
つまり、今回のように「違うと思っていたものが、より進んだ研究の結果、実は同じものだと判明した」
或いは、「学名を付けて記載してみたはいいが、同じ名前が先に別のものに使われていたと後に判明した」といった場合、
基本的には、時系列で先に記載された方が優先されます。
Triceratopsの記載は1889年、Torosaurusの記載は1891年。
よってこの場合、Triceratopsが明らかに先に記載されたので残ります。
余談ですがこの規則は稀に例外があります。
例えば、上の条件と照らし合わせて無効になってしまう場合でも、
「一般的に、また科学的にも明らかに浸透しており、変更によって不都合が生じることが明確な場合」。
実はこの例外の一つにさらされたのが、かの有名なティラノサウルス。
Tyrannosaurus rexの名称が付けられる以前に"Manospondylus gigas"という学名が付けられていたことが判明したことがあります。
この場合には例外的に委員会が強権を発動し、"Tyrannosaurus"の名が残りました。
念のため、意外にも勘違いしておられる方が多いので書いておくと、
学名の場合、出世魚や「オタマジャクシ→カエル」のように成長段階で名前を変えることは絶対にありません。
そもそもそうした人文的な名称や地方名など、無数にある生物の名前に対して、
「同じ生物ならば全世界・時代で共通する名称を与えましょう」と定義されるのが学名なのです。
ちなみに、件の記事、元の英語版も
The Triceratops Never Existed, It Was Actually a Young Version Of Another Dinosaur
なんてタイトルにはなっているので。
「トリケラトプスなんていねーよ、あれは別の恐竜の若齢ヴァージョンなんだぜ!」といったところで間違いは犯している。
(あんたら英語読めるんなら論文のタイトルぐらいチラ見せんかい!)
しかし、これをより好き放題意訳した感のある日本語版といったら更に悪化!
なんだかんだで英語版には研究の最低限の抄訳
(フリルの穴がどのように開口するか、などなど。私が以前このweblogで紹介した例は→コチラ)はあったものの、
日本語版では"結局何を証明した研究だったのか…?"という情報が全く抜け落ちている。
ついでに恐竜ファンを最も怒らせたのが以下の記述。
「以前にも草食恐竜のブロントサウルスは、実は成熟前のアパトサウルスの姿に過ぎなかったことが判明し…」
ちょっとこれは正確ではない。
そもそもブロントサウルス(Brontosaurus Marsh, 1879)はアパトサウルス(Apatosaurus Marsh, 1877)よりも後に記載された動物で、
しかも複数種の化石が混同されまくってた上で(アパトサウルスの胴にカマラサウルスの頭を付けていたとかね)記載されたから無効になったのであって、
成熟したのがどーたらこーたらという話では断じて違う。
(例え、それ以前に既に見つかっていたアパトサウルスの化石が"ブロントサウルス"のものより若齢だったとはいえ)
しかもこの記述、本家英語版には全くどこを探しても見当たらない。
明らかに和訳の段階で付けられた記述だ。
これ、全く恐竜知らない方のためにもう少し例えを出しておくと、
「織田信長は延暦寺で明智光秀に殺された」ぐらいに素っ頓狂な記述ってイメージ。
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ちなみに、
この研究は以前拙weblogでも紹介させていただいた。
これがそれ。
trocerat to toro:
一応再度書くが、この研究は「絶滅動物がいかに成長段階を経るか」について考察したところが面白いポイントであって、
「どっちの名前にまとめられるか」というのは、それに伴う"瑣末な"問題に過ぎない。
特に自慢でもなんでもないが、論文には片手間にちょこっと目を通したぐらいでそう時間もかからずこれくらいは書ける。
…ってまぁ学生と言いながらそれなりに専門知識を持っているからだろ、と言われそうだが
しかしそれでも、自分の書いたところが間違っていないか、とんでもない思い違いはないか、
何気なく書いたものでもずっと気になって残るものだ。
文章ってそういうもんだろう?違う?
情報が氾濫する時代にあって、
そろそろ情報の確実-不確実性に具体的に言及する人も、(色々いるが)出てきたものの、
そうした批判などの多くがまだまだ政治や経済、あからさまな疑似科学などであって、
きちんとしたサイエンスに真っ向から切り込まれることは少ない。
事実、このニホンゴの記事だけ読んで鵜呑みにしておられる方がネットを探ると多いのなんの…。
ナメクジウオの時もそうだったなぁ。TVや新聞に向かってさえ怒り心頭だった。
翻って自分が異分野のニュースに対して、自分でまっとうに考えられているかと言えば甚だ疑問だ。
こうした時代にあっては、やはりその分野の知識をきちんと押さえた人がちゃんと(?)しゃしゃり出てきて文句を言うのも大切かな?と。
でもそれもまた情報の氾濫でしかねぇのかなとか。
色々考えた次第。。。。
ps. 20100830 renew
はてなブックマークなどのリンクで「もっと素人にも解りやすくしてほしい!」という記述を見つけたため。
最初は結構感情任せに書いていた所も多かったんだけれど、こうした要望なら大歓迎だ☆
読んでくれた方、紹介してくれた人、みんなに感謝感謝☆
…もうテキトーなこと書けねぇな…(笑)
ps. 20110910 renew
終わった物語だと思っていたら、なぜかこのGiZM○DEの記事が再燃。
一年も前にあれだけ散々批判されながら、なぜ削除も訂正もされないのだろうか。
翻訳もままならなければ、一次情報にもあたらず、批判を受けた訂正もない。
これがニュースサイトの態度ですか?
…とか言いつつ自分の悪文も凹むほどなので…す、少しでも読みやすく改訂。
<>
・dino medias: 恐竜とマルチメディアでふと思ったこと。
・the dawn of the dinosaurs:01 地球最古の恐竜展 @六本木ヒルズ 2010年
・dinosaur expo 2009:01 恐竜2009 砂漠の支配者 2009年
・palaeo-skeletalis: 『大恐竜展 知られざる南半球の支配者』 @ 大阪市立自然史博物館 2010年
・chicxulub impact: 白亜紀末の大量絶滅隕石衝突レヴュー。
・komme aus dinosauria: 恐竜より始まりしわが命運
・tyrannosaurus sex: 恐竜の性行動
・Futabasaurus suzukii: フタバサウルス・スズキイ=フタバスズキリュウ
・reptile evolutions:complex and processive "爬虫類"の系統とか。
・specimens: うちの収蔵標本。
・vertebrata:01 脊椎動物
僕はトロサウルスの頭骨標本がどの様な状態で発見されたのか存じませんが、あの大きな開口部をみるとちょっと納得できないですね・・・。
発生初期ほど原始的形質が多く見られるとはよく言うことですし、あんな大きな開口部が成熟してから形成されると言うのは・・・。
ともかく、マスコミの安易さは凄いですね(笑)
ところで、今度科学部の研究に透明骨格標本を使おうと思っています(予算10万円、作るのは鶏の雛)。
が、アルシアンブルーの高い事高い事(汗)
トリプシンも量的に足りそうにない(汗)×2
薬品の入手で何かいい手は無い物でしょうか?
また、トリプシンの代替に使える酵素は無いでしょうか??鳥の雛の標本で注意点はありますか???
記事に関係の無いコメントですみません。
長文乱文失礼致しました!m(_ _)m
トリケラさんも実はあのフリル、真っ平らではなくて元々一部が薄くてスカスカなんですよ。
開口があった場合、普通みんな径に注目しがちですが、
厚みを考えた場合これはそこまで無理な変化じゃないし、
骨化したり破骨されたりというのは成体になっても意外とダイナミックに起こるものなので、まぁ初見では意外性を感じますが、良く考えたり観察してみると、
「トロ=トリケラさんってむしろ自然な流れかな」と。
ひとつ注意!
>発生初期ほど原始的形質が多く見られるとはよく言うこと…
たしかに一般的なレヴェルでのサイエンスではよく散見されますが、これ、正しくはないですよ。
少なくとも脊椎動物での発生の最も初期、
受精卵から卵割を迎えて体軸形成から原腸陥入、神経管形成…のこれらの過程は、
俄かに信じられないぐらいに多様性に富んでいて、「何が原始的な状態なのか?」が断定できないぐらいの状態です。
胚の印象が揃うのはなぜかその後、体節形成や神経堤細胞の遊走がある咽頭胚。
ここから形態形成に移りますが、そこでようやく有名な「個体発生が系統発生を繰り返す」ステージがやってくるわけです。
これはもう肯定も批判も(安易に捉えられることも多くて)誤解がたいへん多い部分なのですが、
今ここで書いていても本一冊分くらいになってしまうので割愛。
少なくともここでは、よく教科書的には「ヒトでも鳥でも原始的な鰓がある」ように描かれることが多いのだけれど、
実際にはそれ(咽頭弓)は"サメなど多くの水中生活者では後に鰓へと発生することの多い器官"でしかない。
だから上の文をそのまま逆に捉えて「サメでもフナでも、(陸上動物だと)副甲状腺や横隔膜になるものを持っている」と言いかえることも可能です。
ついでに生後、例えばカエルのオタマジャクシは成体より原始的な状態?
いえいえ、あれはムチャクチャ派生的な形をしているんですよ。
長くなった(汗)。なにいつもの癖です。
えーと、アルシアンブルーは高いですねー…
しかし粉で売っているやつだと、ニワトリの雛ぐらいの大きさなら、耳かき一杯程度の量でもあればもう充分なんですよね。
透明標本を10年くらいバカスカ作りまくる研究室でもない限りそんなに量いりませんから、
溶液500mlくらいのが売っているので購入するのならそっちを選んだほうがいいかも。
エタノールでいくらか薄めて使ってもちゃんと染まりますよ。
(むしろ薄めで長く置いた方が綺麗に染まるとか染まらないとか)
どうしても粉が欲しい場合は、近くの大学や博物館などに事情を説明して分けてもらうぐらいでもいいのでは?
その場合スプーン一杯くらいで充分。
ちなみにアルシアンブルー染色に使う酢酸はオキソニウムイオンと一緒にあると酸性を示し、
硬骨を溶かします。
ビビり過ぎもよくないけれど、小まめに何時間かに1回くらいは様子をチラ見しましょう。
最終的に全体的にブワァーっと真っ青に染まりますが、
最後の操作で段々バックの色は落ちていくので大丈夫です。
酵素はトリプシンでなくともタンパク分解酵素ならおよそ何でもいけるはず。
トリプシンでも量少なめで、ギリギリまで長く気長に置いてやればかなりの量が節約できるはずです。
あとはKOHですね。いずれにせよ最終的にはKOHで透明化を進めますが。
人によっては酵素なしでKOHで全てやったりします。
ただし、軟骨も少ーし溶かすんですよね、これ。普通にやる分には心配する必要はないけど…
ニワトリの雛…ヒヨコぐらいだとかなり染まりやすい例なので、成功しやすいと思います。
10%ホルマリンで最初にちゃんとガッチリ固定してやることが肝要。
その後、皮は剥ぐ。内臓は出来るだけ全て除く。
筋肉も、あまり分厚くてギッチリしているところは削いだ方が、溶液が浸透するし酵素の節約にもなる。
眼球は私なら除くけれど、眼の中にある強膜輪が見たければそのままでもいいかも…
ただし、針などで数か所穴を開けておいた方がいい。
大体そんな感じかなぁ。
まだ学校での生物の勉強はしていないこともあり、発生については不勉強でしたね(汗)
資料集の先読み程度しか出来ていません。。。
「発生初期」という言葉を軽率に使ってしまいました。
発生途中で脊椎動物(亜門、になるのでしょうか)で同じような形態をとること、恐竜でも幼体のほうが脚が長いだの側頭窓の大きさや形状がどうだの・・・の方が近いかな・・・。
しかし特に後者の例では別に原始的形質でも何でもないような感じですね・・・。
発生や発達についてもっと勉強しようと思います。
しかし今回の場合は他の開口部を持つ角竜はどうだったのかな・・・等が気になります。
実際の化石なども見て考察したいところ・・・ですね(笑)
染色液に関してですが、PH2.5の染色液で大丈夫なのかな・・・カルボキシル基も染まるって書いてあるけど・・・って感じでしたので大丈夫ならとてもうれしいです!!
他の酵素でも大丈夫というのも朗報です!!
ありがとうございます。
やはり蛋白質を適度に崩せばいいので、ポリデントでも試してみたいですね。
骨格標本でよくやってるので慣れてはいます。
ポリデントに漬けると場所によってはかなり透明っぽくなるのがわかっているので・・・。
脱灰についても注意します。
研究というのがニワトリ胚を標本化していこうというものなので、前半のコメントも含めて参考になりました。
足の鱗だけが気になったりします・・・。
ニワトリの胚は色々難易度が高そうですが、慎重に粘り強く取り組もうと思います。
またまた大変な乱文です・・・すみません。
とても助かりました。これからもちょくちょく見にきますのでよろしくおねがいします。
いやー、発生と進化と形態は難しいですよ。
なかなか専門家でも頭がこんがらがることが多いようです。
ポリデント…できるかなぁ?
いや、なんとも言えないのだけれど、もしできるとしたら朗報だし、
ニワトリぐらいならできないでもないような気もするし。
もしできたら結果を教えてくれ!
ってかその場合学会とかで発表してみたら?高校生枠があるところ結構あるし☆