ハルマンスナモグリ Nihonotrypaea harmandi (Bouvier, 1901)
節足動物門 (Arthropoda)
甲殻亜門 (Crustacea)
軟甲綱 (Malacostraca)
真軟甲亜綱 (Eumalacostraca)
ホンエビ上目 Eucarida)
十脚目(エビ目; Decapoda)
抱卵亜目(エビ亜目; Pleocyemata)
異尾下目(ヤドカリ下目; Anomura)
アナジャコ上科 (Thalassinoidea)
スナモグリ科 (Callianassidae)
十脚類(Decapoda=deca;10 + pod;脚 だから、"エビ目"なんてワシは認めんぞ)には一般的に、
カニ・エビ・ヤドカリの3形がいると思われている。
普通に生活する上ではこの3つに分類しちゃったほうが便利なのだが、
だからって生物学上は、このパッと見の外見で分類することはできない。
系統関係に関してはメッチャ色々あるようなので省くが、十脚類は次のように細分することができるとされる。
Dendrobranchiata 根鰓亜目{クルマエビ亜目; 羽毛状の根鰓(Dendrobranch)を持つ}
クルマエビ下目(Penaeidea)
サクラエビ下目(Sergestoidea)
Pleocyemata 抱卵亜目{エビ亜目;葉鰓(Phyllobranch)/毛鰓(Trichobranch)を持ち、♀は腹部で抱卵する傾向}
オトヒメエビ下目(Stenopodidea)
コエビ下目(Cardiea)
短尾下目(カニ下目; Brachyura)
異尾下目(ヤドカリ下目; Anomura)
イセエビ下目(Palinuridea)
ザリガニ下目(Astacidea)
アナジャコ下目(Thalassinidea)
つまり、腹の長い"エビ型"は祖先的に共有されているもので、
その中で一部"カニ型""ヤドカリ型"が特殊化してきたイメージだ。
ところでスナモグリは異尾目に属す。
異尾類とはヤドカリの類と言われているが、実はこのグループは形態の多様性がかなり大きい。
ここも分類は諸説あるので(節足動物ってのは数多いだけあってか例外なくヤヤコシイ)さておくが、
例えば、前述の"パッと見分類"で分ければ、
・"エビ型" :スナモグリ, アナジャコ, ムギワラエビ, シンカイコシオリエビ etc.
・"カニ型" :タラバガニ, カニダマシ, ヤシガニ, キワ・ヒルスタ etc.
・"ヤドカリ型" :ホンヤドカリ, オカヤドカリ, etc.
の3つともがバッチリ含まれる。
しかもヤシガニとオカヤドカリが同じオカヤドカリ科(Coenobitidae)だったり、
同じ"カニ型"でもタラバガニとカニダマシとは系統的にえらい離れてたり、
実際はパッと見の"カニ型"などはかなり独立に生じている節がある。
さて、この中でもアナジャコ上科 (Thalassinoidea)のスナモグリ科 (Callianassidae)には、
日本国内で、
ニホンスナモグリ Nihonotrypaea japonica (Ortmann,1891)
ハルマンスナモグリ Nihonotrypaea harmandi (Bouvier, 1901)
スナモグリ Nihonotrypaea petalura (Stimpson, 1860)
の3種が知られている。
実はこのNihonotrypaeaは比較的最近(1998)[1]に記載された新属で、
それまではそれぞれ、
ニホンスナモグリ Callianassa japonica Ortmann, 1891
ハルマンスナモグリ Callianassa harmandi Bouvier, 1901
スナモグリ Callianassa petalura Stimpson, 1860
とされていた。
しかもそれぞれ形態的によく似通っているため、
過去にはハルマンスナモグリがニホンスナモグリのシノニムとされたり、といった紆余曲折もあったが、
現時点ではこの3種で確定している。
形態的には見分けのつきにくいトリオでもその生息域はハッキリと区分される傾向にある。
ハルマンスナモグリとニホンスナモグリは砂質の干潟にいるが、
スナモグリは礫の転がる潮間帯に。
ハルマンスナモグリとスナモグリは外海性だが、ニホンスナモグリは内湾性。
それに基づいて巣穴の形態(なかなか複雑)も互いに相違があって[2]、これらは各生息域の塩濃度などとも関係するらしい。
主に有明海において、生態・生理・分類などが長崎大学によって今なおよく研究されているようである。
さて形態から言うと、
正直私自身詳しくは解らないのだが、
(この標本は少なくとも房総半島の先の方の砂質干潟で採れたし、専門家の同意も得たのでハルマンで間違いないでせう)
例えばハルマンとニホンとでは、
carapace length(CL; 背甲長), eyestalk width (EsW; 眼柄の幅), cornea width (CoW; 角膜の幅)などから算出して、
分類ができる(要は、体に対して黒目の大きい方がハルマンで小さい方がニホン。要約しすぎか?)[3]し、
卵サイズや抱卵数などでも分類ができるらしい[4]。
スナモグリは見てのとおり、
大小2つのハサミを左右非相称に持つが、左右のどちらが巨大化するかは決まっておらず、同種内でもまちまち。
どころか、もし片一方が切れてしまった場合、もう片一方が大型化したりと、同一個体内でも変化が起こりうるようだ。
名の如く砂に潜って生活しており、巣穴の入り口が砂地にポツポツ開いて見えることがよくあるんだが、
何せ砂潜りの名人なもので、普通に手で掘って捕まえようとしてもなかなか捕まらない。
かと思ったら、潮干狩りのシーズンなどに「変な白いエビがいるー」と、よく子どもにとっ捕まってたりする。
体は白く半透明で、腹部は繁殖期になると鮮やかな赤色のラインが入る。
1対の複眼がポチッとしていて、表情はやたら可愛いと思うのだが、どうでしょう?
ちなみに標本個体は♀。
第1・2腹肢(pleopod)の形態などで♀♂が解るとか。
コイツの第2腹肢(pleopod)は2叉型なんだが、♂は分枝しないのかな。
いやぁ本当にカッコ可愛い♡
"ボケ"の名で釣り餌としても用いられているらしいが、
ペットとしては流通しまいか…癒し系なのに。
…あ、すぐ潜っちゃうか。
ちなみに最近、台湾の熱水噴出孔あたりから同Nihonotrypaea属の新種、
Nihonotrypaea thermophilaが見つかっています(2008)[5]。
References:
[1] Manning, R. B., and A. Tamaki. (1998)
"A new genus of ghost shrimp from Japan (Crustacea: Decapoda: Callianassidae)".
Proceedings of the Biological Society of Washington 111: 889–892.
[2] Tamaki A, Ueno H (1998)
"Burrow morphology of two callianassid shrimps, Callianassa japonica Ortmann, 1891
and Callianassa sp. (= C. japonica: de Man, 1928) (Decapoda: Thalassinidea)".
Crustac Res 27:28–39
など。
[3] Wardiatno Y, A. Tamaki (2001)
"Bivariate Discriminant Analysis for the Identification of
Nihonotrypaea japonica and N. harmandi (Decapoda: Thalassinidea: Callianassidae)"
JOURNAL OF CRUSTACEAN BIOLOGY, 21(4): 1042–1048
[4] K. Kubo, K. Shimoda and A. Tamaki (2006)
"Egg size and clutch size in three species of
Nihonotrypaea (Decapoda: Thalassinidea: Callianassidae) from western Kyushu, Japan"
J. Mar. Biol. Ass. U.K., 86, 103-111
[5] Feng-Jiau Lin, Tomoyuki Komai, and Tin-Yam Chan (2007)
"A new species of callianassid shrimp (Crustacea: Decapoda:
Thalassinidea) from deep-water hydrothermal vents off Taiwan"
Proceedings of the Biological Society of Washington 120(2):143–158.
BLOG内LINK:
・specimens: その他の収蔵標本。
・Tetraclita japonica: クロフジツボ。同じ甲殻類の誼。
・Ovalipes punctatus: ヒラツメガニ。同じ甲殻類の誼。
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