本日、快晴。

映画中心雑記。後ろ向きなポジティブが売りです。

オオカミは嘘をつく【映画】

2014年11月25日 | 【映画】


@ヒューマントラストシネマ有楽町


「5時に夢中」で紹介されていたのが気になり初日に行って来ました。
都内だと、有楽町でしかやってないので要注意。

ちなみに、このブログは覚書なので、今回は特にネタバレ気にせず書きます
観ることを決めている人は、絶対に読まないでください。
てか、これ観たいなと思っている人は、チラシやポスターさえも読まないで、
早々に観に行った方が良いかと思います。

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イスラエルのとある森で、少女がむごたらしく
暴行された果てに殺される事件が起きる。
その容疑者として浮かび上がったのは、
中学校で宗教学を教えているドロール(ロテム・ケイナン)。
刑事のミッキ(リオル・アシュケナージ)が責任者として
彼の尋問にあたるものの、証拠がなく釈放されてしまう。
さらに行き過ぎた取り調べが何者かによって録画され、
動画サイトにアップされてしまったことで
ミッキは交通課に異動になってしまう。
しかし、ミッキはドロールが犯人だと思っていて……。
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『衝撃の結末!!』という謳い文句って何とかならないですかね…。
これのおかげで身構えてしまい、邪推しながら観てしまうので、
オチでビックリできないことが最近多いのですよ。

何も考えずに見ればいいのに、というご意見ももっともですが、
ミステリー・サスペンスなどは、推理も楽しみ方の1つだとも思うので複雑です。

作品自体はスピード感も緊張感もあり、非常にテンポはいいです。
次に何が起こるかわからない、展開が予想できない空気感もとても良い。
ただ、前述した「衝撃」のオチは、それほど衝撃ではなかったというのが
上げすぎた期待値分ガッカリする人もいるかもな、と。
現在のYahoo映画の評価はあまり高くないので、
そこまで期待しないで観た方が楽しめるかなとは思います。


イスラエル映画は初めて観ましたが、やはり中東の方は顔を見分けるのが難しい。
(勝手な言い分なのは重々承知です。)
帰りに相方と、この人はこうで、この人はこっちで、と
相関関係を確認し合わないといけなかった。
多分、外国の方が日本映画を観て、同じように思うこともあるんじゃないかなあ。。



さて、本筋についてです。

残虐な少女殺人事件の容疑者として目星をつけられた善人そうな教師と、
彼を追い詰めようとする荒っぽい刑事と、
娘を殺されて狂気を帯びた父親が、メインの登場人物です。

教師が拉致されて刑事からの拷問、釈放されたものの、紆余曲折あり、
また拉致されて今度は父親からの復讐まがいの拷問、という話です。
そして、最後に待ち受ける衝撃(?)のオチ。


まずは、各登場人物目線で説明していきますね。

刑事からですが、正義感というよりは、
どちらかというと荒々しさを売りにしている暴力的な刑事。
思い込みが激しいため、目撃証言が出た教師について、犯人だと信じて疑いません。
挙句、暴力が原因で左遷・停職にまで追い込まれたのに、
それを好機として、違法行為スレスレ(いやアウトかもな。)の捜査に及びます。

ちなみにここで、警察署長が「やりすぎるなよ」と、
暗に暴力刑事の行動を後押ししているを見ると、イスラエルの警察は
暴力を是とする風習なのか、ということも伺えますね。


次に教師。
終始穏やかで弱い印象で、拷問に対してもやられるだけ。
でも、嘘をついてるようにも見えず、一貫して「私は無実だ。知らない。」と繰り返す。
両親は亡くなり、残された犬を散歩させながら、真面目に教師として勤務している。
まあ、善人に見えますよね。
特筆すべきは『教師が犯人である』という確固たる証拠が無いということ。


最後に、被害者少女の父親。
首がない状態で発見された少女の遺体を目の当たりにして、
狂ってしまったという体なのか、全編通して不気味です。

ただただ復讐と、娘の頭を見つけることに執念を燃やし、
自分の行動の善悪などは微塵にも気にしていません。

かけてるメガネとか、マフィアかよ、という風貌です。
拷問描写に迷いがない点から、もしかしたら本当にマフィアという裏設定かもしれません。
そう考えると、警察のお偉方との知人、というセリフがあったこともあり、
イスラエル情勢の中での、闇の部分をさりげなく暗喩してるのかな、とも思いました。
(あ、これは完全に私の想像ですが。)
ただまあ、45歳という設定には、ちょっと無理がある見た目ですが。

更に追記しておくべきは、父親の父親。即ち、被害者少女の祖父。
頭のおかしい人、という順位では、本作中ぶっちぎりの1位だと思います。
息子が行っている拷問を目撃してしまい、止めるどころか乗っかって、
挙句、増長してそれを楽しんでしまう、みたいな。
彼は完全に、ブラックコメディ要員として存在しているんだろう、ということは容易に想像できます。



一般的に考えると、
残虐な犯人と思しき教師と、可哀想な被害者遺族と、正義漢の刑事、という構図になりそうなものです。
が、本作は、悪者であるはずの教師を善人に、
同情されるべき被害者を悪人に見せることで、
観客の心理を「これって冤罪じゃないか??」と上手く誘導しています。

しかも物語が進むにつれて、
悪者側はどんどん増長し、目を覆わずには居られないR18描写の応酬。
観客的には、非常に胸糞が悪い。これも心理誘導作戦の一環ですね。


そして後半の転機。
嘘の供述で時間稼ぎをする教師、盲目の被害者父、そして善意の容疑者を裏切る刑事。

この辺から、ラストの所謂"オチ"に向けて、物語は動き出し、
最後、狂気の父親がやらかしてしまった後に発覚する事象と、その後の絶望。
映画のラストカットが、それはもう非常に後味が悪い。
分かりやすい、バッドエンドです。

ここで書いておくべきは、犯人に振り回されているのは、
登場人物たちだけではなく、観客もだということ。
巧みな描写で、観客と登場人物の心理を誘導した犯人の目的は無い。
ラストでも容易に想像できますが、結果的には、典型的サイコパスだったということなんでしょうね。

話の作り方、構成が非常に上手く、見ごたえがありました。

ネタバレあり、と言いましたが、
さすがに最後のオチについては書くのは控えておきますね。



ただ、話の作り込みはとても優秀だと思うのですが、
残念な点もいくつか見受けられます。


まずは、伏線が分かりやすいため、途中でオチが見えてしまうこと。
こういった類の映画をあまり観ない人なら大丈夫ですが、
見慣れている人には、なるほど、と一瞬で理解できてしまう場面があります。
そこで気付いた人はオチを"大して衝撃でもない"と捉えてしまい、
結果的に、映画の出来もあまりよくない、と評価してしまうかもしれないですね。


あとは、途中に入るブラック・コメディ要素ですが、
ただただ胸糞が悪い中に、雑に入り込んでくるので、正直、笑うに笑えません。
例えば、「サプライズ」みたいに、
観客の気持ちが100%の悪に向かっている状態であれば、
どんな暴力描写もコントに見えてしまうので、爆笑も起こりえるんですが、
本作では、終始違和感が付きまとうので、
"可哀想""過激""ありえない"という感情ををうまく笑いに昇華できていない気がします。


あと、これは個人的な見解というか、不思議に思ったことなんですが、
何で誰も「証拠」という言葉を使わないんだろう・・・と。

日本のサスペンスでは『私がやったっていう証拠はあるの!?』と言う人は大体犯人なわけですが(笑)、
本作では、ここまで言わないもんなのか?というくらい、誰も証拠のことを言いません。
だからこそ、目撃証言を疑わずに拷問する刑事と、
Youtube流出の拷問映像から容疑者に目をつけた父親の残虐行為に、
終始違和感があるんですよね。。

その違和感が、私にオチを想像させてしまったということもあるので、
"証拠は無い"ということも、事実として描いておいて欲しかった気もします。

ただ、もしかしたら、イスラエル警察では、
証拠なし・自白のみの逮捕というのが日常茶飯事で、
そのことに対する皮肉も込められているとしたら、これはこれで成功かなとも思ったり。
知識が浅い分、その辺は想像するしかありませんが、
やはり国柄によって、色々と捉え方は変わりますね。
レッドファミリー」でも似たような感覚でしたが、他国の映画は想像するしか出来ない分、
一概に、これを秀作・駄作と言い切れないことも多い気がします。



とはいえ、最近観たサスペンス映画の中では面白かったです。
集中して物語を追える作品だと思うので、沢山の人に観て欲しいと思う反面、
変な前情報を入れない方が楽しめると思うので、宣伝が難しいですよね。

タランティーノが「今年イチ」と言ったという煽りも含め、
必要最低限の情報だけ入れて、早めに観賞をオススメします。

Yahooの評価はいまいちですが、私は面白かったので。

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