本日、快晴。

映画中心雑記。後ろ向きなポジティブが売りです。

Mommy/マミー【映画】

2015年05月11日 | 【映画】


@新宿武蔵野館


私の2015年最大の期待作、早速観てきました。

全然意識してなかったんだけど、
昨今の映画好きは、こぞってドランの名を挙げる風潮にあるの??
流行りに乗ったミーハーみたいですが、それでも好きなんですよ、この監督。

本作は、巨匠・ゴダールと並んでカンヌ映画祭で審査員賞を受賞したことで、
一気に知名度も上がった作品です。

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ギリギリの生活を送るシングルマザーのダイアン(アンヌ・ドルヴァル)は、
15歳のスティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)と二人で生活している。
彼女は最近矯正施設から退所したばかりの
注意欠陥多動性障害(ADHD)の息子の扱いに手を焼いていた。
やがて母子は隣の家に住む、
今は休職中の高校教師カイラ(スザンヌ・クレマン)と親しくなっていき……。
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『マイ・マザー』未鑑賞なので、
ドラン氏の母親観がどんなものなのか、という判断はできません。
早めに見ないといかんとは思うのですが。

『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』で受けた、
鑑賞後に、脳を直撃されるような感覚は、本作では少し薄れました。

5作目にして、
良く言えば、大衆向けにシフトしてきたというか、
悪く言えば、こなれてきたというか、
そういう意味では、衝撃度は物足りなかったです。


とはいえ、やはりドラン。
全体的に観やすい雰囲気を作り上げた分、
細かいディティールには手を抜かないところが良い。


その1つが、画面のアスペクト比。
本作についてはいろんなところで記述を目にしますが、
劇場映画としては珍しく、冒頭から「1:1」で展開されます。
最初は狭いな、と感じるのですが、
物語の展開に伴い、この比率を効果的に変化させてきます。

もっとも分かりやすいのは、息子スティーブの手の動きに合わせて、
アスペクト比が広がる場面ですね。
私は洋楽に明るくないので、誰の曲かも分からず"良いなあ"と感じた、
Oasisの「WONDERWALL」。どメジャーらしいですね。恥。
このシーンって、観ていると分かるんだけど、
母と、息子と、隣人(友人)と、3人が劇中で一番良い表情で、
希望に満ち溢れた、とても美しいシーンなのです。
感情的にも、状況的にも、もっとも"幸せ"に見える瞬間を
アスペクト比の変化で表現しています。

しかしながらその後、或る出来事が起こるタイミングでアスペクト比は「1:1」に戻り、
つかの間の幸せが、少しずつ乱れていくわけなのですが。

"上げて""落とす"、という物語の凹凸が、
観客の「視界」で表現するのは面白いと思います。
MVとかPVとかでは、使ってそうな手法な気がするので、
新しいかと言われたら分からないですが。


それと『ロランス』の時にも思ったんですが、
登場人物の存在感を表現するにあたっての、空間の切り取り方が好き。
四角い箱のような部屋の中に、佇む登場人物の孤独感とか、
表情をアップで映すよりも、映像的に美しく、且つ、哀しいんですよね。

後はまあ、基本的なメタ表現もきっちりと使ってます。
例えば、最後のドライブシーンでの、空の色とか、雨とか。
途中に妄想シーンを挟むから、尚更切なくなるわけですよ。

さらに付け加えるのであれば、
物語の設定として、冒頭で説明されるフィクションの中の法律。
そう使ってくるのかー。なるほどなー、と思いました。
1回目の入院とは違うよ、ということを伝える2段階目として、絶望感がハンパない。


私は小難しいことは分からない人間なので、
映画芸術としての撮影手法とか、技術とか、メタ表現とか、
そういうの余り気にしないので、細かく分析はできないので、
本編上映前に流れた解説ムービーは、ちょっとだけ役に立ちました。
そうそう!思ってたんだよー!てのを、しっかり解説してくれてたので。
逆に意識し過ぎちゃった、という反面もあるんだけれど。



長くなっちゃうけど、もう少し書きます。

役者陣は、最強の布陣。
なんというか、これ以上ないってくらいの存在感です。
ハリウッドとかで著名な役者さんでは無いけれど、
少ない言葉で、表情で、何なら目の動きのひとつだけで、
自らの感情を100%観客にダイレクトに伝えてくるんです。
特にメイン3人。三者三様の魅力的さと危うさの表現が本当に見事でした。
演技だけでも見る価値があると思います。


最後に。

本作は、端的に言うと「愛」の物語だと思いますが、
親子ものかと言われると、単純にそうとも言えないとは思います。
ドランの母親観が垣間見える映画だと思って観たのだけれど、
人間が岐路に立たされてどうにもならない絶望感と、
運命にさえ抗う強さと、両方を見せた上での、
ハッピーエンドにもバッドエンドにもとれるラストからは、
人間の強さに関する物語なのだと理解しました。


私個人としては、絶望の瞬間直前に繰り広げられた未来予想図は、
ダイの"母親としての幸せな不幸"の図に見えてしまったのだけれど、
その未来が実現できる可能性はゼロじゃないからこそ、
「私達は自分で選択した」と言い切れるダイの強さは、
別の道を選んだカイラにとっても、
自分で道を選べなかったスティーブにとっても、
ダイ自身にとっても、微かな希望だと思うし、思いたいので、
ラストシーンで駆け出したスティーブの背中も含めて、
ハッピーエンドだと思いたいです。あくまでも、私個人的には。



正直、ここまでハマった外国人監督は余りいないので、
毎度書き過ぎてしまい、読み返すのも鬱なのですが、
それでも鑑賞後の満足度は高いです。

が、こんだけ書いといて何ですが、述した"こなれた"感により、
衝撃度は以前の作品と比較すると低いので、ランキング的にはどうかなあ。
どちらかというと、近日公開予定のドラン主演作『エレファント・ソング』の方が
私的には好みなんじゃないかと思って、そっちに期待をシフトさせております。


万人にお勧めしたいかと言われると微妙ですが、
観て損した・・・ということは無い映画だと思います。

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