本日、快晴。

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恋人たち【映画】

2015年12月17日 | 【映画】


@テアトル新宿


日常を、わざとらしくなく描いた映画が、私はとても好きで、
毎度、高評価をつけますが、本作も然りです。

以下、色々と考えつつ長々と雑文が続きますが、
正直気になっている人は早めにどうぞ、とだけ、先に書いておきます。

何てったって、脚本も、演出、俳優、どれをとっても素晴らしいですから。

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橋梁点検の仕事をしているアツシ(篠原篤)には、
愛する妻を通り魔殺人事件で亡くしたつらい過去があった。
自分に関心がない夫と考え方が違う姑と生活している瞳子(成嶋瞳子)は、
パートの取引先の男と親しくなったことから平凡な日常が変わっていく。
エリート弁護士の四ノ宮(池田良)は友人にひそかな思いを寄せていたが、
ある日、誤解が生じてしまい……。
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起用された無名俳優達には、
画面上の存在感はあっても、所謂芸能人のような”特別”な存在感が無いことで、
生活感が、画面上に余すところなく表れています。


加えて、登場人物達の持つ感情や思いが、
終始不安定で一貫していないことが、逆にものすごく人間らしくて。
頭では分かっていても、どうにもならないことってあって、
そういう複雑さが、登場人物の表情や画面上の空気感から、しっかり伝わってきて理解できる。


日常って、当たり前だけど、起承転結があるドラマではなく、
淡々と、ほとんど同じような毎日が続いていく中、
些細な出来事の中で、微妙に感情が変化していくわけですよね。

本作には、ドラマチックな演出や映像がないことによって、
観客が、登場人物の痛みを自身に投影して感情移入するのではなく
隣人として、彼らの痛みに、共感し、否定し、自問自答しながら、
最後は、前を向く彼らの姿に安堵することが出来るようになっている。
とても質の良い群像劇だと思いました。



映像については、特別な印象はないのですが、
写真のように、1シーン1シーンの画が美しいです。
黄色いチューリップが飾られた祭壇や、
高架下から見上げた青空の画が、印象的でした。


役者陣に関しては、ほぼ無名揃いなのですが、
主役の1人、篠原篤さんが素晴らしかったと思います。
特にクライマックスのシーンは圧巻。
個人的には、アツシの義姉役の方に思い入れあり。
私も妹がいるので、彼女の気持ちが痛すぎて、想像でき過ぎて、
彼女の演技だけで、完全に涙腺が崩壊しました。


あと、物凄く好きだったのが、アツシの同僚の女の子のシーン。
アツシに恋愛感情があるようなないような微妙な感じですが、
それは置いておいても、彼女の存在は、間違いなく本作の中で「救い」であって、
そのセリフが絶妙で、最高。
「お母さんが一緒にテレビ観ようって。」が、あれほど響くとは。

日常の中では、なんでもないことが物凄く大切で、
こういう無意識の優しさを、
自然に持てる人間になりたいと心から思いました。


個人的な欲を言うと、ストーリー、特にアツシの設定は、
作品の途中で知りたかった、というくらいでしょうか。
冒頭から彼を取り巻く悲壮感は、徐々に明かされていく方が観客の感情を煽るし、
加えて、クライマックスの篠原さんの素晴らしい演技のシーンを
より際立たせてくれたのではないかな、と。

まあ、これほどの秀作においては、些細なことではありますが。

どちらかと言うと、私のレビューなんか読まなくていいので
とにかく観に行って下さい、という感じ(笑)。

登場人物の人間臭さに、共感できない要素も多々あり、
あまつさえ嫌悪感を抱く人もいるかもしれず、それも大いに理解出来ます。

が、1人の人間の持つ個性が1つ、というわけでは決してなく、
そこに見える人間臭ささえも、本作の魅力であり見所であるとも思うので、
そういう感想もひっくるめて、観て損はないです。

邦画では、今年トップクラスに出来が良い作品だと思います。
劇場で、是非。

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