帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第九 羇旅歌 (408)宮こ出でて今日みかの原いづみ河

2018-02-03 20:10:27 | 古典

            

                      帯とけの「古今和歌集」

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)を心得るべきである。藤原俊成の云う「浮言綺語の戯れに似た」歌言葉の戯れの意味も知るべきである。

 

古今和歌集  巻第九 羇旅歌

 

題しらず            よみ人しらず

宮こ出でて今日みかの原いづみ河 かはかぜさむし衣かせ山

(題しらず)            (よみ人しらず・匿名で詠んだ女の歌として聞く)

(都を出でて、今日みかの原、出づ身かは?・泉川、川風寒い、衣、貸せ山・鹿背山……絶頂を出て、京見たのか、平の原、出づ身、貴身かは?、おんなの心風寒い、心と身に、山ば貸しておくれ)。

 


 「宮こ…都…京…極まり至ったところ…山ばの頂上」「今日…けふ…京…絶頂」「みかの原…原の名…名は戯れる。見たか平原、見たのは平原か」「いづみ河…川の名…名は戯れる。泉川、おんな川、出づ身かは?、我が身か、貴身の身か?」「川風…川に吹く風…女心に吹く風…おんなに吹く風」「川…言の心は女…おんな」「ころも…衣…心身を被うもの、心と身の換喩」「かせ山…山の名…名は戯れる。鹿背山、貸せ山ば」。

 

都を出でて、今日みかの原、泉川、川風寒い、衣、鹿背山――歌の清げな姿。

行き先も事情も、わからないけれども、原、川、山の名の羅列で、女の寒々とした旅情を表現した。

 

絶頂を出て、京見たのか、平の原、貴身、出づ身かは?、おんなの心風寒い、心と身に、山ば貸しておくれ――心におかしきところ。

性愛における、おんなの喪失感。それらは、清げな歌言葉の、戯れに顕れる。

流人の歌の隣に、ただ並べられてあるが、もしや、流人の妻の歌かも。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)