帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第二 夏冬 (百二十七と百二十八)

2012-05-31 00:05:31 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。



 紀貫之 新撰和歌集巻第二 夏冬 四十首
(百二十七と百二十八)


 五月まつ花たちばなの香をかげば むかしの人の袖の香ぞする 
                            (百二十七)

(五月を待ち咲く花橘の香をかぐと、むかし親しかった女の袖の香りがする……さ突き待つ、端立ち花の香をかげば、むかし裏切った男の身の端の香りがするぞ)。


 言の戯れと言の心

 「さつき…五月の異名…名は戯れる、さ月人壮士、さ突き」「さ…美称…接頭語…小」「花たちばな…花橘…夏に白い花が咲く…木の花…おとこ花」「はな…花…端…先」「むかし…昔…以前…元」「人…女…男」「そで…衣の袖…香をたきしめた袖…身の端…おとこ」「ぞ…強く指示する意を表す…(男の恨み心を)強く指示する」。

                                   



 深山には霰ふるらし外山なる まさきのかづら色つきにけり  
                                   
(百二十八)

 (深山には、霰が降っているようね、里山にある真さきの葛、色づいたことよ……深き山ばでは、粗々しく荒らぶり振るらしい、さとの山ばにある、真幸きの且つら、色尽きたことよ)。


 「みやま…深山…深い山ば…見山ば」「見…覯…媾…まぐあい」「あられ…霰…粗れ…粗雑に…荒れ…荒っぽく」「ふる…降る…振る」「とやま…里山…と山ば…女の山ば」「と…門…女」「まさきのかづら…真さきの葛…常緑の蔓性の植物の名、名は戯れる、真幸きの且つら、真の幸い尚も又」「さき…さきはひ…幸」「かつら…葛…且つら…なおそのうえに」「ら…情態を表す」「色…色彩…色情…色欲」「つきにけり…(普通は色付いたりしないのに)そうなったことよ…(常にはない)尽きが来たことよ…情は萎えたことよ(女の恨み心が示されてある)」。


 

 歌の清げな姿は、夏の橘の香にむかしの人を思う心と、里山の蔓の珍しく冬枯れた風情。


 和歌は唯それだけではない。歌の心におかしきところは、両歌とも、浮言綺語のような歌言葉の戯れに顕れている、男女の愛憎のうち憎む心。



 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。