日本男道記

ある日本男子の生き様

宿屋の仇討

2009年09月06日 | 私の好きな落語
【まくら】
このはなしには、大阪種と東京種と二通りあり、ここに載せたのは三代目三木助がやっていた大阪種。東京種は「庚甲待ち」「甲子待ち」といい、江戸は日本橋馬喰町の旅籠屋で庚甲待ちで一日店を休んで、大勢が集まってとりとめのない話をしている。そこへのっぴきならない大切な客が来たので番頭が断りきれずに泊めた。以下は大阪種と同じである。上方種では本来侍の名前を万事世話九郎といった。原話は天保ごろ板「無塩諸美味」所載の「百物語」。

【あらすじ】
夕刻ともなると宿場では客引きに余念がない。三十二・三にもなるお武家さんが神奈川宿は武蔵屋さんの前に立った。名前を万事世話九郎といい、前日は相州小田原の宿では回りがうるさかったので眠れず、狭い部屋でも良いから静かな部屋をと言うことで、イタチと勘違いされた伊八(イハチ)に案内されて投宿した。

 その後に来たのが魚河岸の源兵衛、清八、喜六の江戸っ子三人連れ。金沢八景でも見物するのか懐は重く足は軽いという。しじゅう三人連れだからと挨拶して入ると、宿側は残りの四十名様はどうなっているかと言えば、我々は始終この三人連れだ。
 まるで火事場に来ているような派手な大声で、先ほどのお武家さんの隣の部屋に入った。良い酒と生きの良い肴を用意し、芸者を3人ばかり用意してくれとの注文。夜っぴて騒ぎ始めたが、驚いたのは隣の侍。
 手を叩いて「イハチー、イハチ~~」、「何のご用でしょう」、「入る時に言ったであろう。相州小田原の宿では・・・、間狭な部屋でもいいから静かな部屋をと」、「今は満室になっていまして、替わる部屋がないので、隣を静かにしてくるので、ここでご勘弁を」。

 隣の3人組に事情を話し、静かにと頼んだが、啖呵を切られて逆襲された。しかし、侍と聞いて芸者も帰し、布団を引かせ寝物語を始めた。
 江戸に帰れば相撲が始まるな。と言うことで、仕方話になり、立ち上がって相撲を取り始めた。残った相棒がお盆を持って「ハッケヨイ、ノコッタ、ノコッタ」。ドッシンバッタン、バリバリ、メリメリメリ。
 隣の侍、手を叩いて「イハチー、イハチ~~」、「何のご用でしょう」、「入る時に言ったであろう。相州小田原の宿では・・・、間狭な部屋でもいいから静かな部屋をと」、「今は満室になっていまして、替わる部屋がないので、隣を静かにしてくるので・・・」。

 「今度は大丈夫。静かに寝るから」。「力の入らない話なら良いのだ。女の話なら良いが、そんな奴は居ないよな」、「冗談じゃない」、「源ちゃん出来るのかい」。
 「『人を2人殺めて、金を300両取って、この方3年分からない』と言う色事はどうでぇ~。俺が3年前脚気で体を壊し、川越に養生に行っていた。そこが小間物屋だったので手伝っていたが、ある時石坂さんという武家の家に品物を届けた。ご新造さんが出てきて、『上がってくりゃれ』というので上がり込んだ。話をしていて気が合ったのだろう、ふとした事から割れぬ仲になった。と、思いねぇ~」、「思えない。美人のご新造さんとじゃぁ、なお思えない」。
 「その内、石坂さんが居ない留守を見計らって出かけた。お酒をやったり取ったりしていたら、弟石坂大介が『不忠者めがー』と刀を抜いて追いかけてきた。大介は庭に降りた時足を滑らせ倒れ刀を投げ出してしまった。それを拾って『エイ、ヤ~』と叩き殺してしまった。これを見たご新造さんが血相変えて部屋に戻り、300両差し出して『私を連れて逃げて』というが、足手纏になるのでその刀でご新造さんも斬り殺してしまった」。「それはむごいねェ」、「追っ手の付く身だ。その位しないと逃げられない。人を2人殺めて、金を300両取って、この方3年分からない。どうせやるなら、この位の事はしないとな」。
 「源さんはすごいね。色事師だね」、「♪源さんは色事師」、「♪色事師は源さん。テンテンテレスケ、テレスケテン。色事師は源さん!」。

 隣の侍、手を叩いて「イハチー、イハチ~~」、「何のご用でしょう」、「部屋の中に入れ。宿に入る時に言ったであろう。」、「相州小田原の宿では・・・、間狭な部屋でもいいから静かな部屋をと」、「黙れ黙れ。名前を万事世話九郎と言ったがそれは仮の名。川越の藩士・石坂段右衛門と申し、先年妻と弟を殺され、その仇を捜していた。今日ここで見つけることが出来た。源兵衛がここに来て討たれるか、わしがそちらに行って討つのが良いか、源兵衛に申し伝えよ」。

 「えらいことになったぞ」。
 「♪源さんは色事師」、「♪色事師は源さん」とまだ手を打ってはやし立てていた。開けると「もう寝るから勘弁してくれ」、「もう寝なくて結構です。この中に源兵衛さんはいらっしゃいますか。そうですか、貴方が2人殺したのですか」、「お前、廊下で聞いていたな」。「お隣のお侍さんは石坂段右衛門と申し、貴方は仇で切られに行くか、それともお侍さんがここに来るか、どちらになさいますか」。
 「違うんだ。これは江戸両国の小料理屋で聞いた話で、おもしろい話だから何処かでやりたいと思っていたのが、ここで『色事の出来る奴は居ないから』と言われたので、ムキになってしただけ。俺は何にもしていないんだ」。「困った人だ。そのお陰で私ら寝ることが出来ない。分かりました、隣に行って話してきます」。

 「お隣の源兵衛という人は、そんな度胸のある人間ではなく、ブルブル震えています」、「黙れ、いったん口から出した話を引っ込めるなんて、これからそちらに行って血煙を上げてつかわす」、「血煙はいけません。変な噂が立つとこの宿の信用に関わります」、「それはもっとも。それでは明日出会い仇と言うことで宿外れで成敗してくれる。それまではここに預けるが、3人共逃がしたらこの宿の者全員の血煙を覚悟せよ」。

 と言うことで、3人共縄でぐるぐる巻きに縛り上げられ、宿の者に監視されながら、涙を流し朝を迎えた。その点お武家様は豪胆で高いびきでお休みになってしまった。

 朝、お武家様は気持ちよく目覚め、宿の伊八の挨拶を受けていた。隣の唐紙を開け、グルグル巻きの3人を会わせた。「真ん中にいるのが源兵衛です」、「大変戒められているが、どんな悪いことをしたのか」、「いえ、宿では悪いことと言えば、裸で踊っただけですが、あの源兵衛が貴方の奥様と弟様を殺したという仇です」、「何かの間違いではないか。わしは未だ妻を娶ったことはない」、「いえ、思い出してくださいよ。奥様と弟様を2人殺めて、金を300両取った。その仇です」、「あはは、あれは座興じゃ」、「え!私らみんな寝ずに監視してたんですよ。何でそんなくだらない冗談を言ったんですか」。
 「あの位申しておかんとな、拙者の方が夜っぴて寝られない」。 

出典: 落語の舞台を歩く

【オチ・サゲ】
途端落ち(終わりの一言で話全体の結びがつくもの)

【語句豆辞典】
【神奈川宿】 慶長6年(1601)に成立し、江戸日本橋から品川・川崎に次ぐ3番目の宿場。金川宿とも記される。

【この噺を得意とした落語家】
・三代目 桂 三木助
・五代目 柳家小さん

 




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2 コメント

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うまい! (地理佐渡..)
2009-09-06 08:22:21
おはようございます。

どことなく聞いたことある噺なのですが、
結末というか、どう落ちるかを知りませ
んでした(笑)。
Re:うまい! (日本男道記 )
2009-09-06 22:50:39
こんばんは!

そうですね、比較的よく耳にする噺ではないでしょうか?

私は落語を聞きながら寝るのですが、今日は桂三木助さんのこの噺を聞きながら寝ることにしましょう。

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