日本男道記

ある日本男子の生き様

女の一生

2007年10月29日 | 読書日記
女の一生
モーパッサン,新庄 嘉章
新潮社

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【一口紹介】
◆出版社からの内容紹介◆
修道院で教育を受けた清純な貴族の娘ジャンヌは、幸福と希望に胸を躍らせて結婚生活に入る。
しかし彼女の一生は、夫の獣性に踏みにじられ、裏切られ、さらに最愛の息子にまで裏切られる悲惨な苦闘の道のりであった。
希望と絶望が交錯し、夢がひとつずつ破れてゆく女の一生を描き、暗い孤独感と悲観主義の人生観がにじみ出ているフランス・リアリズム文学の傑作である。
◆著者◆
(1850-1893)フランス生れ。母親の実兄の親友であるフローベールに師事し、創作の指導を受ける。
1880年普仏戦争を扱った中編『脂肪の塊』で作家としての地位を確立、以後10年間で『女の一生』等の長編を6作と『テリエ館』「月光」「オルラ」等の中短編を300余次々に発表した。1892年自殺を図り、翌年パリの精神病院で生涯を閉じた。

【読んだ理由】
「読んでおきたい世界の名著」(三浦朱門編)を読んで。

【印象に残った一行】
『さて二人はじっと見つめあった。鋭くて、相手の心を見ぬくような、動かぬ目で、二つの魂がそこで溶け合うことを信じている目で、見つめあった。二人は互いの目の中に、目のうしろに、存在の計り知れぬこの未知の部分なかに、相手をさがし求めた。無言の執拗な問いで、たがいに探り合った。自分たちはおたがいに相手にとってどうなるのであろう?いっしょに始めたこの生活はいったいどうなるのであろう?結婚というこの断ちがたい、ながい差向いての対談のうちに、二人はおたがいに、なんと多くの喜びを、幸福を、あるいはそれとも幻滅を準備しているのであろう?すると、二人とも、これまでに会ったことのない人間同士であるかのように思われてくるのだった』

【コメント】
没落の一途を辿るあまりにも悲しい女の一生が、人間の持つ良心への最後の信頼の崩壊と共に描かれている。

 



Daily Vocabulary(2007/10/29)

2007年10月29日 | Daily Vocabulary
4771.wreak(破壊や損害を引き起こす、もたらす)
The terrorists wreaked massive destruction without firing a single shot.
4772.chaos(無秩序、混乱(状態)、混沌)
Teenagers tend to leave their rooms in total chaos.
4773.embrace(考え・コンセプト・計画・申し出など喜んで応じる、快諾する、これ幸いと受け入れる)
The President embraced the visiting state guest.
4774.in focus(焦点が合って、目標などがはっきりして)
I admire the way he has his life goals clearly in focus.
4775.fiasco(しくじり、失態、失敗)
That oil spill was the worst environmental fiasco in history.
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火事息子

2007年10月28日 | 私の好きな落語
【まくら】
林家正蔵の十八番中の十八番と言われている噺。
聞きどころは、後半の親子対面の場面。火事好きで、道楽者になったために勘当された息子が、火事だと聞いて活躍してくれる。その息子への感謝と、会えた歓びを必死にこらえて、世間の手前口では厳しいことを言う父親。素直に慈愛を見せる母親。それに感謝している息子。三人が醸し出す人情の機微。

【あらすじ】
神田三河町の、伊勢屋という大きな質屋。
ある日近所で出火し、火の粉が降りだした。
火事だというのに大切な蔵に目塗りがしていないと、だんながぼやきながら防火に懸命だが、素人で慣れないから、店中おろおろするばかり。
その時、屋根から屋根を、まるで猿のようにすばしこく伝ってきたのが一人の火消し人足。
身体中見事な刺青で、ざんばら髪で後ろ鉢巻に法被という粋な出で立ち。
ぽんと庇の間に飛び下りると、
「おい、番頭」
声を掛けられて、番頭の左兵衛、仰天した。
男は火事好きが高じて、火消しになりたいと家を飛び出し、勘当になったまま行方知れずだったこの家の一人息子・徳三郎。
慌てる番頭を折釘へぶら下げ、両手が使えるようにしてやった。
「オレが手伝えば造作もねえが、それじゃあおめえの忠義になるめえ」
おかげで目塗りも無事に済み、火も消えて一安心。
見舞い客でごった返す中、おやじの名代でやってきた近所の若だんなを見て、だんなはつくづくため息。
あれは伜と同い年だが、親孝行なことだ、
それに引き換えウチの馬鹿野郎は今の今ごろどうしていることやら……
と、そこは親。
しんみりしていると、番頭がさっきの火消しを連れてくる。
顔を見ると、なんと「ウチの馬鹿野郎」。
徳かと思わず声を上げそうになったが、そこは一徹なだんな。
勘当した伜に声など掛けては、世間に申し訳がないとやせ我慢。
わざと素っ気なく礼を言おうとするが、こらえきれずに涙声で、
「こっちィ来い、この馬鹿め。……親ってえものは馬鹿なもんで、よもやよもやと思っていたが、やっぱりこんな姿に……
しばらく見ないうちに、たいそういい絵が書けなすった……親にもらった体に傷を付けるのは、親不孝の極みだ。この大馬鹿野郎」
そこへこけつまろびつ、知らせを聞いた母親。甘いばかりで、伜が帰ったので大喜び。
鳥が鳴かぬ日はあっても、おまえを思い出さない日はなかった、どうか大火事がありますようにと、ご先祖に毎日手を合わせていたと言い出したから、おやじは目をむいた。
母親が法被一つでは寒いから、着物をやってくれと言うと、だんなはそこは父親。
勘当した伜に着物をやってどうすると、まだ意地づく。
そのぐらいなら捨てちまえ。
捨てたものなら拾うのは勝手……。
意味を察して母親は大張り切り。
「よく言ってくれなすった、箪笥ごと捨てましょう、お小遣いは千両も捨てて……」
しまいには、この子は小さいころから色白で黒が似合うから、黒羽二重の紋付きを着せて、小僧を供に……と言いだすから、
「おい、勘当した伜に、そんななりィさせて、どうするつもりだ」
「火事のおかげで会えたんですから、火元へ礼にやります」

出典:落語のあらすじ 千字寄席

【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(意味の取り違えがオチになるもの )

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『火事と喧嘩は江戸の華』

【語句豆辞典】
【臥煙(がえん)】
定火消、大名火消で働く火消人足のことで、町火消は刺子を着ているのに、こちらは褌ひとつで消火にあたった。倶利伽羅紋々(くりからもんもん)の彫り物をして、平常は押し売りやら、ゆすりたかりを働くので、嫌われ者だった。

【この噺を得意とした落語家】
・八代目 林家正蔵
・五代目 古今亭志ん生
・六代目 三遊亭圓生
・三代目 古今亭志ん朝

【落語豆知識】
【開口一番】寄席.落語会で最初演じられる物または人おもに前座が勤める。
 




Daily Vocabulary(2007/10/28)

2007年10月28日 | Daily Vocabulary
4766.pitfall(わな、穴、落とし穴)
Drug and alcohol abuse is a pitfall for many these days.
4767.scandal sheet (スキャンダル雑誌・新聞)
He copied a local scandal sheet reporter by mistake.
4768.out of the blue(思いがけなく、突然、いきなり)
Susie got a call from her old school friend out of the blue.
4769.gray matter(脳や脊髄の灰白質、頭脳、知力)
He would do a lot better if he used his gray matter!
4770.inadvertent(故意でない、不注意な、うっかりした)
The new drug was an inadvertent discovery made by accident.
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居酒屋

2007年10月27日 | 読書日記
居酒屋
ゾラ,古賀 照一
新潮社

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【一口紹介】
◆出版社の内容紹介◆
ゾラの小説は、はいりやすい。それにすごく今日的なのだ。まじめに働き天国へ這い上がったのに、分相応を知らず再び地獄へ落ちた女の話。

洗濯女ジェルヴェーズは、二人の子供と共に、帽子屋ランチエに棄てられ、ブリキ職人クーポーと結婚する。彼女は洗濯屋を開くことを夢見て死にもの狂いで働き、慎ましい幸福を得るが、そこに再びランチエが割り込んでくる……。《ルーゴン・マッカール叢書》の第7巻にあたる本書は、19世紀パリ下層階級の悲惨な人間群像を描き出し、ゾラを自然主義文学の中心作家たらしめた力作。
ゾラの小説は、はいりやすい。それにすごく今日的なのだ。
まじめに働き天国へ這い上がったのに、分相応を知らず再び地獄へ落ちた女の話。

◆著者◆
1840-1902)フランスの小説家。パリ生れ。
事務員・ジャーナリストを経て短編小説の執筆にとりかかり、出世作『テレーズ・ラカン』(1867)ののち、第二帝政下の一家族の歴史を描く連作を発表。
その中に『居酒屋』(1877)『ナナ』(1880)『ジェルミナール』(1885)『大地』(1887)などがある。
1898年ドレフュス事件に際し禁固刑判決を受け、一時英国に亡命した。
不慮のガス中毒でパリで死去。

【読んだ理由】
「読んでおきたい世界の名著」(三浦朱門編)を読んで。

【印象に残った一行】
ロリュ夫婦が彼をつれて帰ろうとした。すると、バスージュはふりかえって、しゃくりしいしい、捨てぜりふをつぶやいた。
『死んじまえば、だ・・ねえ、いいかね・・死んじまえば、それっきりなんだからな』

【コメント】
読んでいて面白いのだが、時折何とも言い得ない嫌悪感を感じた。
読後も何故か心の中にドロドロしたものが残る。そのドロドロが何なのかよくわからない。

 



Daily Vocabulary(2007/10/27)

2007年10月27日 | Daily Vocabulary
4761.deep insight(高い見識)
He always shows deep insight.
4762.hard on(人につらく当たる)
You are being a bit too hard on him.
4763.lawsuit(訴訟)
The victim filed a lawsuit against the company.
4764.incompetence(無能力、無資格)
His every mistake showed his incompetence.
4765.inherent(~につきものの、~に固有の、~に内在の、~にもともと備わって)
You have to assume all risks inherent in the experimental nature of this technology.
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Daily Vocabulary(2007/10/26)

2007年10月26日 | Daily Vocabulary
4756.rigid(堅い、固定した、硬い)
The new plastics are strong and rigid.
4757.just around the corner(もうすぐ、間近、もう間もなく)
Good times may be just around the corner.
4758.have a short fuse(短気である)
It seems some artists have a short fuse.
4759.go all the way(行くところまで行く、完全に同意する、最後までいく)
She wouldn't go all the way.
4760.sarcastic(あざけりの、嫌みな、皮肉な)
I heard the arcastic tone in his voice.
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Daily Vocabulary(2007/10/25)

2007年10月26日 | Daily Vocabulary
4751.keep someone up to date(最新情報を人に絶えず提供する)
I will keep you up to date on what's going on.
4752.natter(おしゃべり、うわさ話、おしゃべりをする、うわさ話をする)
Time to stop nattering about what you did ovet the weekend.
4753.hold back(事実・本心などを隠す)
The press held back the names of the juvenile offenders.
4754.fish for(情報などを聞き出す、探り出す)
I could feel my girlfriend fishing for clues as to who I went out with in her absence.
4755.juvenile(年少者、未成年者、少年、少女)
The juvenile's name was not released.
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Daily Vocabulary(2007/10/24)

2007年10月26日 | Daily Vocabulary
4746.fed up with(~にうんざりしている、イライラしている)
People here are fed up with government.
4747.level with(本当のことを言う、率直に打ち明ける、正直になる、率直に振る舞う、腹を割って話をする)
The boss will level with Tom and dismiss him.
4748.autocratic(独裁的な、専制の、独裁の)
That president's autocratic approach is loathed by his people.
4749.compliment(賛辞、褒め言葉、称賛)
Thank you for your compliment.
4750.subordinate(部下)
One of the colonel's subordinates gave the order to fire.
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Daily Vocabulary(2007/10/23)

2007年10月26日 | Daily Vocabulary
4741.fill in(穴・すき間・空所などを埋める、書き入れる、記入する、書き込む)
Please fill in all the necessary items on the application form.
4742.trophy(トロフィー、賞品)
When you are holding the trophy,that's when it's over.
4743.punctilious(人がきちょうめんな)
He was the most punctilious person.
4744.get under someone's skin(人の気に障る、人をひどく怒らせる)
His behavior gets under my skin.
4745.predecessor(前任者、先任者)
He will probably deal with the problem as their predecessors did.
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車輪の下

2007年10月22日 | 読書日記
車輪の下 (集英社文庫)
ヘルマン ヘッセ,Hermann Hesse,井上 正蔵
集英社

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【一口紹介】
◆出版社/著者からの内容紹介◆
南ドイツの小さな町。周囲の期待にこたえ、難関の神学校にパスした少年ハンス。
だが、厳しい生活に失意を深める…、学校や社会に押しつぶされる少年の運命。(解説・高本研一/鑑賞・畑山 博)

◆内容(「BOOK」データベースより)◆
南ドイツの小さな町。父親や教師の期待を一身に担ったハンス少年は、猛勉強の末、難関の神学校入試にパス。
しかしその厳しい生活に耐えきれず、学業への情熱も失せ、脱走を企てる。
「教育」という名の重圧に押しつぶされてゆく多感な少年の哀しい運命をたどる名作。

◆著者◆
(1877~1962) 南ドイツの小さな町カルヴの宣教師の息子。幼い時より詩人になることを決め、時計の歯車磨き助手、書店員などの職につきながら、作品を書き、27歳の時「郷愁」で広く認められて作家に。息子の死、離婚、第一次大戦中のドイツ文学界からの締め出しなどの苦境を経験しながらも、1946年にノーベル文学賞を受賞した。作品はすべて自伝的で、苦悩をへてある種の解脱へと到達する内容が特色となっている。代表作「郷愁」「車輪の下」「デーミアン」「荒野の狼」「知と愛」「シッダールタ」「ガラス玉演戯」。

【読んだ理由】
「読んでおきたい世界の名著」(三浦朱門編)を読んで。

【印象に残った一行】
木は頭を切り取られると、よく根元のほうから新しい芽を出すものだが、丁度そんなふうに、花盛りに病んで損なわれた魂は、春めいて夢にみちた子供時代へかえっていくことがある。まるで、そこに新しい希望を発見し、断ち切られた生命の糸を新たに繋ぎ合わせることができるかのように。しかし、根本の枝は瑞々しく急速に伸びてはいくが、それは見かけだけの命に過ぎず、それが再び木になることは決してない。

【コメント】
遠い昔、中学生の頃、夏休みの宿題で読書感想文の課題図書として読んでいるような感じだった。当時は子供の視点で読んでいたが、大人、親の視点で読んだが、結末がこんなに悲しいものだったとは。
周囲に押しつぶされた少年の死は、事故死だったのか、自殺だったのか?

 



Daily Vocabulary(2007/10/22)

2007年10月22日 | Daily Vocabulary
4736.place a high value on(~に重きを置く)
He place a high value on punctuality.
4737.go places(どんどん出世する、成功する)
We are sure Tom will go places far and wide in the future.
4738.tough call(苦悩の末の選択、難しい判断)
This is going to be a tough call for me.
4739.ride high(好調を維持する)
In economic news today, the housing industry continues to ride high.
4740.formula(式、公式)
Mathematics is not just the memorization of formulas.
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漢字(2007/10/21)

2007年10月21日 | 私の読めなかった・読み間違えていた漢字
私が日々の生活の中で読めなかった漢字・読み間違えていた漢字を記録していきます。
意味は広辞苑などから引用させていただきました。(英訳付き。)       
721.老い耄【おいぼ】a dotard
老プラス毛で「おいぼれ」の「ぼれ」。はじめて知った。
722.【かぶり】
辞書には、「かぶりかぶり」の略とあったが、そういうことなのか?昔聞いていた相撲中継で聞いたことがあるような、ないような。
723.痘痕【あばた】pockmarks.
「痘痕も靨(えくぼ)」はよく使われる。「えくぼ」の字も難解だ。
724.【ざる】a bamboo basket
私が子供の頃はすべて竹製だったが、いつの間にか味気ないプラスチックになってしまった。「ざるそば」は「笊蕎麦」か。すこし感じが変わってしまう。
725.賽子【さいころ】a die
「賽(さい)」は解るが、「子」は解らない。しかも「ころ」と読むのだ。
 


                
                 

Daily Vocabulary(2007/10/21)

2007年10月21日 | Daily Vocabulary
4731.on someone's behalf(人のために行動する)
I will put in a good word with the boss on his behalf.
4732.verbal report(口頭報告)
Others prefer brief verbal report report as soon as something happens.
4733.back and forth(前後に、あちこちへ[に]、行ったり来たり)
The lead in the match kept changing back and forth.
4734.day to day(毎日の、日々の、日常の、当座の)
That may never be the same day to day.
4735.vulnerability(脆弱性)
You can compensate for vulnerability on his behalf.
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付き馬

2007年10月20日 | 私の好きな落語
【まくら】
吉原では無銭客への対処として、二人以上で遊びに来た客は一人を行燈部屋に入れ、もう一人が勘定を工面してくるまで軟禁するという手段を取っていた。
一人で遊びに来た客は、精算可能と見込んだ場合は馬屋が債権を引き受け、当人と一緒に「付き馬」といわれる男衆が同行して勘定を取り立てた。
吉原へ行く交通手段として馬は頻繁に使われていたらしく、浅草雷門あたりで馬子が客待ちをしていたそうだ。
そう言えば浅草寺には馬場があったし、「馬道」という街道名も残っている。
債権の取立ては「馬屋」「始末屋」という取立ての専門業者に委託していた。
馬屋は中見世以上、始末屋は小見世の妓楼を得意とし、取り立てるためにはかなり荒っぽい手段も使ったようだ。吉原の客の中にも遊んで勘定を払わない野暮な客がいたんですね。

出典:TBS落語研究会

【あらすじ】
”ひやかし”の客が見世を覗いているので、”ぎゅう”が一生懸命勧めるが、金が無いのでと断る。
客はこれから集金したいが、まだ貸し金先の見世が開いたばかりなので、失礼になるので行けない。
だから朝勘なら上がっても良いというので、上げてしまう。
この夜は遠慮しないで、台の物を食べたり呑んだり、芸者を上げてドンチャン派手に遊ぶ。
ツケで心付けまで派手に振る舞って遊んだ。
朝、47円80銭の請求。安いとおだてて、請求の手紙を書きたいが”印鑑”を忘れたので、じかに私が行くので付いて来てくれないかと、若い衆の”馬”を連れて見世の外に出る。
中之町の茶屋に集金に行きたいが、朝一番に集金では失礼になるので、時間潰しに少し新鮮な空気を吸いにと、大門をくぐって外の街に出てしまう。
湯屋に入って朝湯を浴びて、腹ごしらえにと食事と一杯をやって、若い衆のなけなしの金で、全部勘定を済ませ、浅草寺境内へ。花やしきに出て、お堂の前に出る。鳩の餌を売るおばあさんの話をして、仲見世のオモチャ屋、紅梅焼き、人形焼きも見て、雷門に出た。
「電車(都電=路面電車)に乗ってどっか行こうか」「中から出るのは御法度だから、中之町の茶屋に集金に戻りましょう」「戻るのも何だから、田原町のおじさんの所でどうだ。ただ、早桶屋だけど良いかぃ」「はかいき(墓息=はかがいく)がするから、イイですョ」「そうかぃ、世話になったから、君に帯も上げよう」。
”馬”を向こうに待たせて、早桶屋に入り「おじさん!お願いがあるのですが」小さい声で「あすこに立ってる男の兄貴が夕べ死んで、大男の上腫れの病のため普通の早桶では入らず、”頭抜け大一番小判型”を何処でも作ってくれず、困っている」大きな声で「こしらえて下さい」「良いですよ」また大きな声で「作ってくれますか、ありがとうございます」小さい声で「気が動転して、変なことを言いますが、お気に成されないように」、”馬”を呼んで、「おじさんが作ってくれるから、安心してここで待つように」と言い残してずらかってしまう。
「まー、一服付けなさい」「はい」「驚いただろう」「いえ、それより朝からこの様な事で無理を言って、スイマセン」「こちとら、商売だから」「?・う!粋なことを」。 
「長い事だったのかぃ」「いえ、一晩だったのです」「急に来たのか」「不意にいらっしゃった」「『いらっしゃった』、とはおかしいな。それでも、驚かないのかぃ」「別に・・」「えらいな~」。 
「通夜はどうだった」「?、ご商売柄(粋な言い方をする人ダ)、それは大変で、芸者も入って」「それもいいだろう、仏さんも喜んだだろう」「そうです!”カッポレ”を踊っていました」「?、仏さんが?」。 
「ところで、何か付ける物は?」「帯がいただけると・・」「ハイ、傘は?」「傘のことは聞いていません」。 
「間もなく出来るが、どうやって持っていくかぃ」「財布に入れて」「?(早桶を?)」。 
「出来たそうだよ」「どんなんだって構いません。ん?(@_@) どちらさんがお使いですか?」「お前さんのだよ」「ご冗談を」「冗談ではないよ。お前さんの兄貴が死んだので、これを作った」「兄貴は居ません」「さっき来たのが言っていたよ」「先ほどの方はご親類でしょ」「いいや」「え~!わ~、/(*_*)> だって!貴方は『おじさん』と言っていたら『あいよ、あいよ』と答えていたではありませんか」「『おじさん』と言っていたら返事をするが、『おばさん』と言えば怒るよ」「さ~、(+_+;) 大変なことになっちゃた」「どうした」「私は中の”馬”で、客に逃げられちゃった」。 
「お前さんも気の毒だが家も弱るんだよ。この早桶は別の所で使えないので、手間は負けるから木口代だけ置いてけよ」「それは出来ませんよ。早桶担いで大門くぐれませんょ。縁起でもない」「縁起でもねぇ! とんでもねぇ、この野郎に早桶担がせろ!」「よってたかって、何するんですよ」「金を置いてとっとと持ってけ」「お金はもうありませんょ」「ない!奴、中まで馬に行け」。

出典:落語の舞台を歩く

【オチ・サゲ】
逆さ落ち(物事や立場が入れ替わもの )

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『わたしゃ廓に咲く花よ、泣いて別れた双親に、月が鏡であったなら、映してみせたいその心』
『所も知らぬ名も知らぬいやなお客も嫌わずに、夜毎に交わす仇枕、好んでしたい親のため』
『田楽の串で小判の封を切り』【意味】吉原のそばにあった田楽屋での情景、田楽で飲んで、いい気分になってくると、気持ちがでかくなってきて、田楽の串で主の金の封を切って遊郭に遊びに行ってしまう、という川柳。

【語句豆辞典】
【付き馬】
不足または不払いの遊興費などを受け取るために遊客に付いてゆく人。つけうま。うま。
【ぎゅう】
(妓夫、牛太郎=若い衆)。客引き。 遊郭の若い衆(使用人)。小見世では客引きなどをする見世番。歳を取っていても”若い衆”と言う。この噺のように取り立てに失敗すると、全額見世に自己弁済しなければならなかったので、真剣であった。
【朝勘に夕勘】
朝勘定に夕勘定。初期の頃は遊んだ後に精算して、朝、勘定を払って帰っていたが、勘定のトラブルが多いので、登楼する前に勘定を済ませて、遊んだ。夕方払うので夕勘定(前払い制)、夕勘と言った。前金なので、見世側は金の無い客は上げなければ、料金のトラブルは無かった。しかし、遊びすぎたり、文無しを上げると・・”馬”のご厄介に。
『台の物』
郭では酒の用意はしているが、料理は作らず出前を使った。出前をするところを”台屋”と呼び、そこから来る料理は”台の物”と言った。台屋は魚屋、和食屋、洋食屋、鰻屋、寿司屋、蕎麦屋、天麩羅屋など今と同じように色々あった。汁粉屋、和菓子屋などもあり、これらはお客が女性に差入れのため注文していた。
『早桶屋』
江戸から明治の初期にかけては、葬儀社のことを「早桶屋」「早物屋」と呼んだ。語源は棺桶を注文すると直ぐに出来たからである。
『糠袋』
石鹸のなかった時代には、米の糠を晒し木綿の小袋へ入れて、湯に浸し、顔や手などを擦って洗った。

【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・三代目 古今亭志ん朝
・五代目 春風亭柳朝
・六代目 三遊亭圓生

【落語豆知識】
【音曲噺(おんぎょくばなし)】三味線などの鳴り物が核になる噺。