Garbanzo blog

政治経済と音楽のブログ。
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ありったけはげ山の一夜レビュー Vol.6 アバド指揮 / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

2010-10-25 19:57:21 | 音楽

ありったけはげ山の一夜レビュー (前置き文はこちら
第六弾はクラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団より。
本作も展覧会の絵がメインで、はげ山の一夜はカップリング。
僕が持っているディスクは絶版になってしまったこの版ではなく、
The Artist's Bestというアバドの特集版だ。

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Ravel : Deutsche Grammophon
Conductor : クラウディオ・アバド
Orchestra : Berliner Philharmoniker
Rec:1993年 ホール/ライヴ録音
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さて本作のはげ山の一夜は1968年に発表されたという原典版である。
本曲は華麗なリムスキー・コルサコフのアレンジで演奏される場合がほとんどだが、
最近は「コルサコフ版はあまりにも洗練されすぎているのではないか」という批判もあり、
原典版も少しづつだが演奏されるようになってきたという。

本作はコルサコフ版に慣れている人ほど、聴けばギョっとしてしまうのではないか。
イントロからティンパニが地響きのようにガコンガコン叩かれていてかなり恐ろしい。
その後も弦は唸り管は吼え、悪魔達のフェスティバルが終わらずにいつまでも続く。
ちなみに中盤にややダンスっぽいフレーズもあるのだが、そこがやたらにロシア民謡っぽい。

興味があったのでwebで調べてみたのだが、アバドは強烈なムソルグスキー・マニアらしい。
わざわざ原典版を選ぶのも合点がいく。この原典版ではラストの静やかな演出などは無く、
悪行の限りを尽くして地上を暴れ回る悪魔達の、阿鼻叫喚の地獄絵図だけがむき出しに提示される。
ムソルグスキー自身は本曲をこのように構想していたのか、という事を知れるだけでも価値があると思う。
そしてベルリンフィルをここまで漆黒のカラーに染めあげたアバドの手腕は、やはり凄まじいものだ。
ありとあらゆるフレーズが演出過剰どころかゴッテゴテなのだが
この演奏を聴くともはや他のはげ山では刺激が足りなくなってしまう。
さすがに世界最高のオケだけあって集中力、技量ともに素晴らしい。とんでもない名演奏だ。

録音に関してはややモコモコ感ありの小さな音像だが音質自体はライヴ録音を感じさせない良好なクオリティだ。
怨念のような黒い感情が演奏の端々から迸っているのだが、それをきちんと捉えている。
聴いているだけで息が途切れるほどの緊張感が味わえる、大変な名盤だ。
聞き比べの一枚としても、最初の一枚としても価値のある、歴史的な録音だと思う。

評価 : ★★★★★
録音 : B+


ありったけはげ山の一夜レビュー Vol.5 カンゼル指揮 / シンシナティ・ポップス交響楽団

2010-10-24 20:17:25 | 音楽

ありったけはげ山の一夜レビュー (前置き文はこちら
第五弾はエリック・カンゼル指揮 シンシナティ・ポップス交響楽団より。
こちらのCDはファンタジック・ストコフスキーというタイトルであり、
全編に渡ってクラシック曲のストコフスキーアレンジが楽しめる一枚だ。
バッハのトッカータとフーガやブラームスのハンガリー舞曲も収録されている。
今回レビューのはげ山の一夜も勿論ストコフスキーのアレンジ版だ。

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Ravel : TELARC
Conductor : エリック・カンゼル
Orchestra : Cincinati Pops Orchestra
Rec:1993年 ホール/セッション録音
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アレンジャーのストコフスキーについては以前シェエラザードのレビューで、
指揮者のエリック・カンゼルについても本blogで別タイトルをレビューさせてもらった事がある。
彼はクラシックの指揮者としてよりは映画音楽の方で有名な人だ。(1812などの名盤もあるが)
テラークレーベルにシンシナティ響と共に九十枚以上の録音を残し、世界での売り上げは一千万枚を越える。
しかし残念な事に昨年の彼の死と共に、その蜜月も終わってしまった。

さて本題のレビューに入りたい。
ストコフスキーのアレンジ自体は一般的なコルサコフ版に近く、同様にオーケストラ用の編曲だ。
アレンジ版をさらにアレンジ、という感じ。提示部の繰り返しが少なく、時間的には2分ほど短めの9分が平均。
ラスト前に切なげなオーボエやフルートのフレーズが入り、段々また盛り上げて最後は感動的に終わる。
地獄から出てきて教会の鐘の音と共に帰ってゆく、というストーリーに沿ってはいないのだが、
そもそもムソルグスキーの原曲自体もラストの静やかなフレーズはない。

演奏は非常に熱の入った、しかししっかりとコントロールが効いたバランスの良いもの。
シンシナティ響の明るいサウンドが心地よい。アレンジも重厚さよりは華やかさを重視しているので、軽やか。
さわやかなはげ山の一夜だが、ストコフスキーのアンレジという以外の印象が薄い気もする。
テンポは過不足の無い中庸だ。アメリカのオーケストラらしく、ブラスが格好良い。

音質的にはオーディオマニアのテラーク制作であり、気心が知れたカンゼルとの録音ともあってレベルは高い。
ホールトーンも充分に入っていて、さらにクリアさも損なわれていない立派なもの。
サウンドキャラクターも映画向けの明るめで派手なものだが、これはこれで良い。
テラークとカンゼルとのコンビは同レーベルの生命線みたいなものだったので、
さすがにどれも一定以上のクオリティは保たれている。デッカとデュトワみたいな関係だったのだろう。
他の楽曲もストコフスキーのアレンジが聴けて面白いので、当曲のみならずこの盤はおすすめしたい。

評価 : ★★★☆☆ (ストコフスキー好きには+1で)
録音 : A-


ありったけはげ山の一夜レビュー Vol.4 コリン・デイヴィス指揮 / ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団

2010-10-23 08:38:36 | 音楽

ありったけはげ山の一夜レビュー (前置き文はこちら
第四弾はサー・コリン・デイヴィス指揮 アムステルダム(現ロイヤル)コンセルトヘボウ管弦楽団より。
このディスクも展覧会の絵がメインで、はげ山の一夜はカップリング曲だ。

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Ravel : Philips
Conductor : コリン・デイヴィス
Orchestra : 現Royal Concertgebouw Orchestra
Rec:1971年 ホール録音/セッション録音
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コリン・デイヴィスもショルティ同様英国を代表する名指揮者だ。83歳だがまだまだバリバリ現役である。
貧乏な家で生まれたのでピアノが買ってもらえず、一番安かったというクラリネットから音楽を始め、
指揮者どころかナイトの称号まで授かってしまうという、昭和ド根性アニメも真っ青の意思の強さ。感服です。

さて本作の演奏だが一聴して感じるのは(うっすらとだが)ジャズっぽくリズムがハネていることだ。
テンポはやや遅めで、演奏時間は11:30ほど。なんというか軽快なリズムのお陰でウキウキ感がある。
客観的に見たら悪魔達の阿鼻叫喚のパーティだが、当人達は「お楽しみタイム」なのだから、
視点が違うだけでこれはこれで正しい表現な気もする。テンポは遅めに取っているが、間延びしてはいない。
いい所では音の伸ばすタイミングでグォっとクレッシェンドをかけつつ僅かに速度も落としている。
あざといといえばあざといが、この曲はなんでもやったもん勝ちかつ下品な方が向いている。
あっさりなデュトワの指揮よりはコッテリな味付けの彼の指揮の方が好きだ。

録音に関してはアナログ録音全盛時代のもので、リマスタリングもしていないため芳醇ではあるものの音は荒っぽい。
濁った感じはしないがクリアさは最近の録音に比べるとやや劣る。音の像は近すぎず遠すぎず、ちょうどいい。
ホールトーンは適正量の範囲の中でもやや多めの方で、気持ちが良い。
それにしても当時からコンセルトヘボウは渋くていい音を出すオケだ。さすが。

評価 : ★★★☆☆
録音 : B


ありったけはげ山の一夜レビュー Vol.3 デュトワ指揮 / モントリオール交響楽団

2010-10-22 15:58:42 | 音楽

ありったけはげ山の一夜レビュー (前置き文はこちら)
第三弾はデュトワ指揮 モントリオール交響楽団より。
はげ山の一夜は短い曲なので大体はメインのカップリング扱いだ。
本ディスクのメインは同じくムソルグスキーの展覧会の絵である。

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Ravel : DECCA
Conductor : シャルル・デュトワ
Orchestra : Montreal Symphony Orchestra
Rec:1985年 教会/セッション録音
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デュトワやモントリオール交響楽団に関しては、
以前のシェエラザードレビューの方でも取り上げたので、そちらを参考にして頂きたい。
二度とこのコンビの演奏が成されることは無いと思うと少し名残惜しい。

さて本作の最大の特徴は「格好いい」ことだ。
演奏自体はしっかり金管が吼えていて、弦や木管は金切り声を上げているものの、
テンポも演奏も十分に引き締まっており、本来不気味な悪魔達がイケメン揃いな感じだ。
宮殿で大暴れしてるのに妙に品があり、ラストは少し切なげにもったいぶる。
女性客を逃したくないホストみたいで、憎い演出のような、でも違うような微妙な所。

録音に関してはゴールデンコンビのデッカ/デュトワにしてはちょっとものたりない。
シェエラザードと比べて音圧は増したが同時にモヤ感も増えてしまった印象を受ける。
曲調を意識してか、いつもより音の重心は下がっている。軽やかさは抑え目だ。
解像度はデッカの標準レベル。本曲やメインの展覧会の絵もなかなかだが、
アマゾンのレビューでもあったように2曲目のスラヴ行進曲がとてもよい。
ショルティ同様標準的な演奏で安心して聴いていられるタイプだ。

評価 : ★★★☆☆
録音 : B


ありったけはげ山の一夜レビュー Vol.2 ショルティ指揮 / ロンドン交響楽団

2010-10-21 13:57:00 | 音楽

ありったけはげ山の一夜レビュー (前置き文はこちら
第二弾はサー・ゲオルグ・ショルティ指揮、ロンドン交響楽団から。
CDへの収録で代表的なものは2回。一回目はベルリンフィル、二回目がロンドンフィルとの演奏だ。
フィリップスとデッカから発売されている。僕が持っている盤はデッカの「恐怖音楽」というベスト盤。


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Ravel : DECCA
Conductor : ゲオルグ・ショルティ
Orchestra : London Symphony Orchestra
Rec:1962年 ホール録音(おそらくリマスタリング済み)
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ショルティは60~80年代の英国を代表する指揮者だ。72年にナイトの称号も授与されている。
彼の音楽は非常に明晰というか分析的で、スコア原理主義的だ。忠実な解釈をする前に出ない指揮者である。
よって演奏も(良くも悪くも)スタンダードなものが多い。オケが毎回しっかりと練り上げられているのと、
リズムが正確なおかげで非常に安心して聴いていられる指揮者だと言える。
個人的には聴き比べの際、最も標準となる指標を示してくれるので重要度は高い。

そんな彼のはげ山の一夜も、ご多分に漏れず爆演からは程遠いものの、とても力の入った熱演だ。
イントロこそゆるめなテンポを取るものの、その分低音部のガッガッガッガッという力強い刻みが迫ってくる。
好みはあるだろうが、イントロはこの位たっぷりと量感をとってくれるほうが不気味さが増すと思う。
前述のスヴェトラーノフ旧盤は後半にかなりテンポをゆったり取っているが、ショルティは逆。
悪魔たちが大暴れしている前半は遅め、祭りの後の描写はやや早めだ。演奏時間はどちらも同じ程度。
ロンドンフィルが非常に伸びやかに演奏していて、曲調の割に雰囲気は明るめで邪気は少ない。
おどろおどろしさもそれなりであり、露骨に言うならアニメのBGMテイストである。ファンタジアにはぴったりだろう。

録音に関してはリマスタリングが成功しているのか、年代を感じさせない煌びやかなサウンド。
音量やテンポの上下が激しいダイナミックな曲だが、人工的な処理を感じる不自然な箇所は無い。
隙が無い引き締まった演奏なので、楽譜を見ながらのスコア・リーディングにも大変良い。
ロンドンフィルの力強さとともに、指揮者への信頼感が伝わってくる。


評価 : ★★★☆☆
録音 : B+