Garbanzo blog

政治経済と音楽のブログ。
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書評 「労働市場改革の経済学 正社員保護主義の終わり」 八代尚弘

2010-10-15 18:21:12 | 

本書は2009年の出版で、国際基督大学経済学部教授の八代氏が著したもの。

彼はNHKなどの公開討論会で正社員の保護をかなり手厳しく批判していたため、
一時いろいろな方面からかなり強烈にバッシングされていた。
(目つきが悪くテレビ映りが良くない事も悪い方向に働いたかもしれない)

労働に関する著書はそれこそ日本中で山ほど出ているが、本書のような正統的アプローチで
きちんと「労働市場」という経済的バックボーンが固まっているものは数少ない。
本書の中で著者は同一労働同一賃金、雇用形態の多様化による不公平の解消、
高齢者と女性の労働市場への参加、劣悪な保育サービスの改善の必要性などを、
更新が新しいデータを用いて詳細に分析し読者へと訴える。
そしてその歪みを生み出す源泉である日本的労働市場の慣行が、
もはや完全に時代遅れの遺物に成り下がっていると指摘する。

その提言はいずれも的を射た学問的には正しいものだが、
著者も認めるようにこれらのデータが指し示す残酷な現実を、
社会の中核を成す中高年層が受け入れる事はかなりの困難だと言わざるを得ない。
雇用が流動的になれば自らの地位が危険に晒されるからである。

いずれにせよ「地方の高校生が卒業後地元で就職できないのは許せない」とか
「女性は働くよりも家事に従事する事の方が社会にとって効率が良い」とか、
「ホワイトカラーエグゼンプションはサビ残地獄を加速させる」などという
マスコミが垂れ流している適当なウソに溺れている人は必ず本書を読むべきである。
本書に著してあるデータは殆ど反論の余地がない現実であり、故にそれは共通認識だ。

八代氏は自分の言が人々に伝わらない事を嘆いていたが、
何時の日か必ずやって来る最悪の結果の後、皆は「ああ、そうだったのか」と気づくだろう。
それでは遅いのだが、そうなるまで多分誰も何もしないし、また出来ないと思う。