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   大西巨人『迷宮』を読んで

2024-02-29 11:09:35 | 読んだ本
    大西巨人『迷宮』         松山愼介
 大西巨人の『神聖喜劇』は読んだことがある。これは、大日本帝国の軍隊を、主人公の透徹な記憶力をもって揶揄するもので、長編ながら面白かった。だが、今回の『迷宮』は読みにくかった。文体が硬い、登場人物、特に主登場人物の皆木旅人が秋野香見(よしあき)と、もう一つのペンネームを持っているのでわかりにくい。さらに妻・路江とその縁戚、友人関係が複雑であり、語り手というべき春田大三も友人が多い。登場人物を整理するだけでも時間がかかった。
 物語は皆木旅人の死の原因をめぐって推理小説的に展開する。自殺か他殺かである。一応、最後まで読んでみると、死因は妻・路江による嘱託殺人であったことがわかる。推理小説を読む時の禁じ手であるが、犯人がわかってから、もう一度読み直すと割と理解できた。青酸カリは三木鍍金から手に入れている。金属メッキには、その溶液に青酸カリが必要とされる。
 尊厳死を望んでも、本人の死期が近づいたとき、認知症になっていれば本人の意志を表明できない。そのために、信頼できる人物に後を託す必要があるというのが結論であろうか。

 このように物語を展開しながら、戦後から一九六〇年にかけての政治、文学運動批判を挿入し、著者の短歌にたいする造詣も披瀝している。小説でありながら評論的要素もある作品である。
「死にはぐれ派文学」は第一次戦後派作家のことだろう。日本人民党は日本共産党であり、「当代文学」は「新日本文学」のことであろう。一九六〇年安保闘争後、安部公房らを含む新日本文学グループは共産党の安保闘争を批判し一九六一年に集団で離党している。確か、谷川雁も同じ頃離党している。このとき、共産党中央委員であった中野重治が、党を批判すると新日本文学グループに約束しながら、宮本顕治に遠慮して曖昧な態度をとったという話もあった。
 皆木旅人は、この頃に文筆活動と絶縁し鏡山市の私立舞鶴女子高校で英語教師を務める。これは、文芸ジャーナリズム批判ではなく、革新運動の現実に愛想もこそも尽き果てたからとされている。
「俗情」という言葉がよく出てくるが、これは野間宏の『真空地帯』を批判した、『俗情との結託』を意識しているのであろう。脳漫(つやひろ)という人物は野間宏のことであろうか。
 わかりにくいのは、全学合の初代委員長とされる鶴島直義(なおのり)の〈知行鍛錬運動〉である。この言葉は右翼的運動を連想させるが、実態については、あまり詳しく書かれていない。一九六〇年の安保闘争の教訓として、知識だけでなく、肉体の鍛錬も必要だと考えたのだろうか。
 小説ではあるが、「革命標榜的政治運動」を否定したり、戦争中の皇国文学が、戦後の社会主義リアリズム文学と根は同じだという批判を混じえている。
 短歌(俳句?)でも「行く年や遠きゆかりの墓を訪ふ」を問題にしているのは面白い。案外、「遠きゆかり」とは自身のことかも知れない。私もそろそろ死や墓について考える年齢になっている。たまに墓石屋さんからセールスの電話がかかることもある。
 私の家は早くに次兄がなくなったので、豊中市にお墓がある。お墓は長子相続ということなので、現在は長男の死にともない、長男の息子名義になっている。この息子に子供がいないので、ある程度、年がいけば墓仕舞いをするとのことである。そう考えれば、私が自分の墓を建てても遠からず無縁になりそうである。合葬墓というものもあるらしい。最後はそのようなことを考えさせられた。               2023年10月14日

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