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西村賢太『苦役列車』を読んで

2024-02-29 11:01:23 | 読んだ本
   西村賢太『苦役列車』         松山愼介
 西村賢太と藤澤淸造は切っても切っても切り離せない。NHKETV特集『魂を継ぐもの~破滅の無頼派』で初めて、藤澤淸造の墓の横に「西村賢太墓 藤澤淸造自筆◯◯」を見ることができた。藤澤淸造の墓は予想に反して旧漢字ではなく、新漢字で書かれていた。藤澤淸造の墓石をむりやり横に移動させて、西村賢太の墓石を建てていたようだ。
 それにしても、藤澤淸造の「歿後弟子」を名乗り、毎月、東京から石川県七尾に墓参りに行ったり、そのために七尾にアパートまで一時、借りたりしていた。これは誰にでも出来ることではない。最初は田中英光を読んでいたが、遺族との関係が悪化し、出入り禁止となっていた時に、藤澤淸造と運命の出会いをする。以後は、神田神保町の古書店主と懇意になり、古書市に出された藤澤淸造関連のもの、すべてを塊集することになる。藤澤淸造の自筆の三枚の葉書(?)を、五十五万円を投じて落札している。この古書店主には相当借金をしていたようである。
 西村賢太の作品には「どうで」とか「結句」、「慊ない」という言葉が頻発する。「どうで」は「どうせ」、「結句」は「結局」の意味だが、おそらく藤澤淸造の作品や大正期の作家の作品からきているのだろう。これらの作家を読みこむことによって、このような語句を使い、それが西村賢太の作品に独特の効果を与えている。「曩時」は「その時」、「年百年中」は「年がら年中」であるが、このような語句の使い方も面白い。「ぐりはま」という言葉もあって、これは「はまぐり」という言葉を逆転させて、物事がうまくいかないことをいう。
 藤澤淸造に関する、評伝みたいなものを書き始めていたら、それが小説みたいなものになったので『墓前生活』と題して、同人誌に投稿したのが、作家としての出発点である。この同人誌に発表した三作目が同人誌優秀作として「文學界」に転載された。
『雨滴は続く』(2022)は絶筆となった作品だが、これらの経緯が詳しく書かれている。「文學界」に転載されたことによって、他の文芸誌からも声がかかり、順調に作家としての生活を歩み始める。『どうで死ぬ身の一踊り』(2006)から約五年、『苦役列車』で芥川賞を受賞する。『雨滴は続く』によると、編集者から藤澤淸造にこだわらない作品というアドバイスを受けたこともあったらしいので、『苦役列車』はできるだけ藤澤淸造にこだわらないようにして、中卒以後の日雇い労働者の生活を書いたものだろう。この単行本がNHKの番組によると十九万部売れたという。この後、テレビのバラエティ番組にも出演していたが、好感はもてなかった。
 この絶頂期には、年収が軽く一千万円を越えていたという。藤澤淸造の『根津権現裏』、『藤澤淸造短編集』を新潮文庫から出版したのは評価できるが、もう少し頑張れば藤澤淸造全集の刊行も夢ではなかった。西村賢太が亡くなった時、ネット上に、彼が集めた藤澤淸造関連の資料はどうなるかと話題になったが、すべて石川近代文学館に収められたとのことである。
『苦役列車』他の作品も読んでみたが、面白くてどんどん読めるのだが、テーマに繰り返しが多く、作家としての次なる展開はあまり期待できないように思った。つまり西村賢太のように私小説を標榜する作家は自身の貧困や惨めな生活がテーマになるものだから、それが解消されてしまえば、私小説作家にとって次の切実なテーマはなくなってしまう。
 NHKの番組でも取り上げられいたが西村賢太は女性には受けないようである。これだけ赤裸々に男の性欲や風俗通い、女性との性について書かれたら、男としては困ってしまう。もし娘がいたら西村賢太は読まさないだろう。           
2023年7月8日




二〇一一年の芥川賞受賞作『苦役列車』を読んでみたが、他の作品より、いいとは思わなかった。それは最後になるまで「藤澤淸造」の名が出てこなかったからであろう。この会で藤澤淸造の『根津権現裏』を読んだのは記憶にあるが、西村賢太の作品を取り上げたどうかは定かではない。ただ、その時かどうかわからないが、西村賢太の作品はそこそこ読んでいた。今回、絶筆となった『雨滴は続く』(二〇二二年五月)とその他の作品も読んでみた。
(NHKの朝ドラ『らんまん』で、槙野万太郎(牧野富太郎)の下宿も文京区根津である)
「文學界」に同人誌推薦作が載り、次の作品の打ち合わせで、編集者は藤澤淸造にこだわらなくてもいいのではないかと言ったという。『苦役列車』もそのようなアドバイスから書かれたような気がする。

半分狂気の沙汰である。そういう狂気を秘めているから作家となることができたのであろう。

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