空前の自転車ブームだ。
週末は派手なウエアのサイクリストをそこかしこで見掛け、
「ジテツー」(自転車通勤)も定着。
ただ、著者の説くロングライドはブームとは一線を画す。
何せ数百キロ単位。
それも一気に走ろうというのだから、尋常ではない。
メタボ対策やガソリン代節約と、
「追い風」はさまざまに理由付けされてきた。
そこにやんわりと異を唱えたのが、前著「自転車で遠くに行きたい。」。
理屈じゃない。楽しいから乗るんだ―。
はるかかなたへ運んでくれる自転車の魅力をそうつづり、
肉体的、心理的な壁を越えるツールと位置づけた。
その続編といえる本著の白眉は、
壁を軽々と越える人々へのインタビューだ。
軽量で機能性を追求したロードレーサーとともに、
四百キロ、六百キロ、そして千キロ以上を走る距離感の壊れた面々。
特別なアスリートではない。
著者の友人である、市井の六人の男女。
ただ、そのサドルの上からのつぶやきは味わい深い。
「自分の耐久テスト」と、決してリタイアしない「必ず帰ってくる男」、
設定した目標のクリアに賭ける、ちょっと太めの東京大卒男性。
夫と走る三十四歳の女性は
「自己完結しないと本当の面白さはわからない」と、しなやかに自立をうたう。
映し出されるのは、それぞれの人生観であり生きざまだ。
距離感を劇的に変えるロードレーサー。
半年前から乗り始めた記者にもその感覚はわかる。
いとも簡単に百キロ以上移動できるツールは、
隣県でさえ「ちょっとそこまで」との感覚にさせるのだ。
そんな壊れた距離感を、著者は是とする。
「行きたいという意思さえあれば、自転車は必ずそこに連れて行ってくれる」と。
既成概念にとらわれず、思考停止に陥らず、そして好奇心のままに…。
踏めば自転車は進む。それは人生のようだ。
(河出書房新社・一三六五円)