◇廃線
廃線になっても
取り外すことのなかった鉄路が
草の中にところどころ
水をたたえるように光っている
その水を飲むように
狐が来ている
鼻面が触れれば熱いから
朽ちかけた枕木の間に
餌になる小動物を探すだけだ
廃線を訪れた私を
狐は懐かしがるように
しげしげと見る
私が一歩踏み出すと
狐は見事に180度の転換をして
向こう向きになり
振り返りながら遠ざかっていく
私が足を止めると
狐は体を横向きにして
こちらを窺っている
私が歩むと狐はまた
振り返りながら遠ざかる
背で誘いかける女のようだ
あの女はどうしただろう
唐突にそう思い
その思いを打ち消そうとして
頭を振った
場末の酒場の女で
もうこの世にはいなかったのだ
◇
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