波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

廃線

2015-06-18 20:17:36 | 掌編小説



◇廃線


廃線になっても

取り外すことのなかった鉄路が

草の中にところどころ

水をたたえるように光っている

その水を飲むように

狐が来ている

鼻面が触れれば熱いから

朽ちかけた枕木の間に

餌になる小動物を探すだけだ

廃線を訪れた私を

狐は懐かしがるように

しげしげと見る

私が一歩踏み出すと

狐は見事に180度の転換をして

向こう向きになり

振り返りながら遠ざかっていく

私が足を止めると

狐は体を横向きにして

こちらを窺っている

私が歩むと狐はまた

振り返りながら遠ざかる

背で誘いかける女のようだ

あの女はどうしただろう

唐突にそう思い

その思いを打ち消そうとして

頭を振った

場末の酒場の女で

もうこの世にはいなかったのだ


   ◇

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