●医療編
年間40兆円の医療費を減らせない自民党
年間40兆円もの医療費が、今も増え続けている。原因は高齢化だけではない。
(編集部 小川佳世子)
「歯肉炎で歯科医に行ったのですが、3回通っても痛み止めや様子見ばかりで。いつになったら治るのでしょうか」
千葉県に住む30代男性は、医療への不満を口にする。
病院のサービスが向上しない理由の一つは、医療技術の内容や出す薬、その価格まで政府が決める「統制経済」的な仕組みで競争原理が働かないことにある。
九州地方で開業する50代の歯科医は、「1回で治す良心的で腕のいい歯科医より、何度も治療に来させ、必要以上の薬を出す歯科医の方が儲かります」と語る。
三位一体で既得権益を維持
誰もが良質な医療を受けられるようにと、医療者と自民党は努力を重ねてきた。だが、時代を重ねるにつれ、政府丸抱えの制度には弊害が出てきた。医療改革が進まない背景には、医療者、官僚、そして自民党の持ちつ持たれつの関係がある。
医師の団体「日本医師会」は、医学部新設や株式会社の病院参入などに反対し、「競争相手」を増やさないようにしてきた。
自民党も、医師会には配慮する。一定の票数を持っており、影響力も強いからだ。そのため、医師の競争相手を増やすような政策は、中途半端な形に落ち着くことが多い。
2015年には、医師会の反対を押し切り、実に37年ぶりに医学部新設が認められたが、自民党にとって医師会から得る権益よりも大きな権益があったからではないかとの疑いもある。
実際、医学部新設を認められた大学の理事長などが、その直後、自民党の下村博文・文部科学相(当時)の講演会に出席していた。文科相は、大学設置に関する許認可権を持つ。下村氏は自らの選挙区と無関係な仙台で、会費が必要な講演会を開いた。許認可権を悪用した政治資金集めと疑われても仕方ない。
患者置き去りの医療制度
自由競争のない「統制経済」は厚生労働省の利益とも一致する。医療技術や薬に値段をつけられる同省の影響力は大きい。だが、現場を知らない官僚の判断は、医療費の増加につながる。
介護施設に勤務する60代男性は、「一度保険が適用された薬は、効果が薄かったとしても出し続けています。治りもしないのに医療費を垂れ流しているのは問題です」と憤る。
都市部で開業する50代医師は、医療現場の実態をこう話す。
「医師会とは別に、内科、外科、眼科など、各診療科の学会があり、それぞれが、所属する分野の医療の価格を上げろと自民党に圧力をかけています」
医療費の使い道が政治圧力で左右される現状が垣間見える。
元自民党スタッフはこう嘆く。
「自民党も官僚も、問題意識は共通して持っているんです。高齢化や地方の問題、年金、医療、増税でいいのか……。でも、解決策はこれまでの延長線上で、問題を取り繕うようなものしか出せない。各方面の意見を聞かなければいけませんから」
医療にも競争原理を取り入れなければ、既得権益を打ち破ることはできない。このままでは医療費はますます増大し、借金1千兆円では済まない。
グラフ 増え続ける一方の医療費
2013年度 国民医療費の概況(厚生労働省資料)より。
http://the-liberty.com/article.php?geId=5&item_id=11383