蔵書

「福岡ESEグルメ」のえしぇ蔵による書評サイトです。
要するに日本文学の素晴らしさを伝えたいのです。

水上勉 「飢餓海峡」

2007年01月23日 | Weblog
戦後の混乱期というのは全ての日本人がつらい経験をして、それぞれの人生にドラマがあったので、展開の激しい小説の舞台にはぴったりなのかもしれません。この作品も戦後におこったある殺人事件をきっかけに、犯人を追う刑事たちの執念や、逃げて逃げて過去を消し去ろうとする犯人の姿を描いて、非常に大きなスケールの長編になっています。舞台も北海道に始まって、日本中を移動します。展開の大胆さや構成の面白さなど、松本清張に通じるものがあるなぁと個人的に思いました。水上勉もやはり純文学も推理小説も書ける人ですもんね。こういう作品の幅の広い人というのは何かを書こうとする人間から見るとほんとうらやましくてしょうがないです。

夏目漱石 「草枕」

2007年01月23日 | Weblog
冒頭の部分はあまりにも有名なのでご存知の人も多いでしょう。「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」この一文だけでどれだけ自分の文学精神が動かされたことか!ある意味えしぇ蔵はこの作品に感謝しております。夏目漱石はメジャーな作家ですが、その底知れぬ実力は名声を勝るものではないかと思います。多くの作家たちが弟子入りしたのもうなづけます。この美しい作品はまさに言葉という絵の具をもって描かれた絵画です。全体が完璧な芸術です。もし自分ならこの作品一つ残せればもう死んでもくいはないですが、夏目漱石にとってはこれも数ある名作のうちの一つに過ぎないのですから恐ろしい話です。やっぱ日本一有名な作家は違いますね。