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吉行淳之介 「原色の街」

2007年01月09日 | Weblog
戦後まもない頃の小説というのは戦前の高揚感、戦中の緊張感がともに敗戦によって失われ、プライドも希望もなくした人間がただ生きていくためにどうすればいいか迷いながらさまよう姿を描いているものが多いですよね。登場人物の人間性はどこか荒んでいます。そういった人間たちが自暴自棄に愛欲をむさぼりながら、どこかで精神的つながりを求めているという姿を表現させるとすれば、まずはこの人ではないでしょうか?性行為の描写もこの人が書くととても深いものになるのが不思議です。表面的には単なる性欲のやりとりであっても、当事者同士の内面ではお互い何かを探し求めている、何かの答えを探している、そういうふうに受け取ることができます。心理描写が巧みだからそう感じるのかもしれません。こんな奥深いものが書けるなんてほんと尊敬します。