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尖閣衝突事件の中国人船長起訴について

2012年03月19日 08時32分00秒 | 保管記事

BLOGOS編集部


 

  記事の紹介です。



【特別寄稿】
尖閣衝突事件の中国人船長起訴について-一色正春(sengoku38) 

 2012年03月19日 08:32

 


「sengoku38」こと、一色正春氏(撮影 野原誠治)

 

2010年9月、沖縄県尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件で、海上保安庁の巡視船に漁船を衝突させたとして逮捕された、中国漁船の船長を公務執行妨害などの罪で強制的に起訴しました。しかし、すでに釈放され帰国しているため、裁判は開かれない見通しです。漁船衝突時の映像をYouTubeに公開し、大きな議論を呼んだ「sengoku38」こと元海上保安官の一色正春氏に特別寄稿いただきました。

 


異様に長い起訴までの歳月 

平成24年3月15日、一昨年の9月に発生した公務執行妨害等被疑事件の被告である中国人船長が、那覇地裁から指定された検察官役の弁護士により、ようやく起訴されました

検察審査会の最終議決から約8カ月(陸山会事件は約4か月)という、検察審査会が取り扱った他の事件と比較すると異様に長い起訴までの歳月を考えると、そこに何らかの意思が働いていたのかと想像してみたくもなります。

そして3月16日には、中国の自称調査船の「海監」が尖閣諸島沖の我が国領海に侵入しました。この「海監」という船は国土資源部国家海洋局にしており、調査船という肩書ですが、ただ単に調査だけを行う船ではありません。表向きは武装していませんが、日本の巡視船のような船で、日本の調査船が東シナ海で調査しているときに付け回したり妨害したりするのがこの「海監」という船です。海洋権益の確保を主な目的としているので東シナ海のガス田周りの警戒も行っており、一昨年の9月にガス田から採掘が開始されたとみられるときには、ガス田の周りに集まり艦隊行動をとっていました。

 

この「海監」が日本の領海に侵入したのは、今回が初めてではなく平成20年12月6日にも今回と同様に2隻で尖閣諸島沖の我が国領海に侵入しています。この平成20年の12月といえば、麻生内閣になって約2か月半、世界経済は日本も含めリーマンショックでふらふらになっており、一方で各国がソマリア沖の海賊に対して現地に船を派遣しようかという時でしたが、日本では一向に見通しの立っていない状況でした。

 

もう一つ注目すべきは、その前日の12月5日に、その年の6月に起こった尖閣諸島沖での日本の巡視船と台湾の遊漁船との衝突事故に関して「日本側から台湾に賠償金が支払われ示談が成立した」という報道がなされていたということです。これらを合わせて考えて見ると、この時「海監」が日本の領海に侵入したのは、日本の頼みの綱である経済力が弱まり、いつまでたってもソマリアに船を出せない日本の態度を見て組み易し、とでも思ったのか、日本と台湾がこれ以上接近しないようにとの警告の意味で領海に侵入したのではないかという事が推測できます。

 今回も、中国人船長起訴の報道を受け、日本の政治、経済が今のような状況であれば日本は何もできないだろうと判断した上で領海に侵入し「中国人船長は渡さない」とのメッセージを発しているようにも思えます。この警告に屈してここで対応を誤れば、尖閣に関して日本は一歩も二歩も後退してしまうことにもなりかねません。

 話を中国人船長の起訴に戻しますと、そもそもこの事件は普通であれば一昨年の10月には起訴され、既に判決が出ているはずなのですが、現実は中国人船長が釈放されてから具体的には何も動いておりません。確かに、起訴猶予→起訴相当を数度繰り返し、検察審査会は真摯に対応していたのですが、検察の対応が不誠実でした。

 

検察審査会の議決文を読んでいただければ分かるのですが、検察が屁理屈にもなっていない理由をつけて無理やり起訴猶予にしたものを、検察審査会が常識的に判断して起訴相当議決を出すという繰り返しで、まるで人々の記憶を薄れさせるために時間稼ぎをしていたかのように思えます。今回の起訴は、それがとうとう引き延ばすことができなくなったので、仕方なく起訴に至ったのではないかという印象です。

 案の定、マスコミも検察審査会の議決内容を詳しく報じることもなく、人々の記憶も薄れ過去の事件となりつつあります。今回の、発表を受けてもマスコミは「中国が協力する見込みは薄く、裁判が開かれる可能性は低い」などと、起訴に対して否定的に報じています。しかし、マスコミというのは、本来であれば、日本の主権の行使に関わる問題なのですから、このような事態になった原因を追究し、中国に協力を呼びかけるべきではないでしょうか。

 産経新聞の報道によれば、那覇地裁は起訴状を、最高裁を通じ中国の裁判所に送達を嘱託する手続きを取ったらしいのですが、拒否される可能性が高いでしょう。中国が拒否する根拠は尖閣諸島が自国の領土であるという事なのですが、肝心の中国人船長は、検察審査会の議決によれば「日本の領海内で違法操業した」ことを認めています。

 ですから、そもそも一昨年に、中国が日本に輸出や交流を停止して圧力をかけていたことから、中国の主張はおかしいのですが、日本政府は、それを知っていながら何ら抗議しませんでした。

 

日本としては嘱託が拒否されれば、領事館員などを使って直接届ける努力をし、それでもダメであれば代理処罰(福岡県の一家4人殺害事件で、死刑執行の実績あり)を求めるなど様々な方法で中国に要求すべきです。おそらく何れに関しても中国は日本の要求を呑むことはないでしょうが、要求をしなければ日本が主権を放棄したと思われても仕方がありません。

日本は、ここできっちりと主張しておかなければ、今後、国際司法裁判所などで争うようなことにでもなった場合、日本が不利になる材料を与えてしまうことになってしまいます。ただでさえ、「島に誰も上陸させない」「尖閣諸島付近の領海で、違法操業する中国漁船を検挙しない」など、誰がどう考えても中国に対する遠慮が行き過ぎているのですから。日本政府には一般国民から無作為に選ばれた検察審査会の「外交関係にけじめをつけるべき」との声を真摯に受け止めてもらいたいものです。

たとえ起訴状が送達できなくともあきらめる必要はありません。確かに起訴から2か月以内に起訴状の謄本が送達されなければ、公訴の提起は効力を失いますが、被告人である中国人船長が国外にいる限りは時効が停止するのですから。また、忘れてはならないのが、衝突された巡視船の修理に掛かった約1200万円もの費用です。これについても、国庫から支払われている以上、賠償を請求していくべきです。

 

他にも、東シナ海のガス田の問題があります。「二国間の合意に従って共同開発する」との約束を反故にされ、現在も中国が単独で採掘を続けてられている状態で、日中間に信頼関係が築けるのでしょうか。自国は勝手に採掘を始めておきながら、日本は試掘することも、調査することもまかりならないという中国の態度には目に余るものがあります。その中国の言うことを黙って聞くだけが、日中友好なのでしょうか。このまま行けば東シナ海は「友愛の海」どころか「中国の海」になってしまいます。

 今国会で、海上保安官に一部の離島で捜査、逮捕権を行使できるよう海上保安庁法が改正されるようですが、先に、この事件のけりをつけるべきです。いまだに、あの時の措置が正しかったと言っているようでは、法律を改正してまで逮捕しても同じようなことが繰り返されるだけで、どんな法律があっても適用しなければ無意味なのです。逆に、現行法でも、やれることは沢山あります。その中でも「今まで見逃してきた、尖閣諸島沖の日本の領海内で違法操業する中国漁船を検挙する」ことが肝心だと思います。それに関連して、日中漁業協定の見直しも必要になって来るでしょう。

 中国は、日本が好むと好まざるにかかわらず、東シナ海、西太平洋へと進出してきます。その方法も回を重ねるごとに巧妙になってくるのに、日本がいつまでも中国の言いなりでは、彼らの好き放題にやられ、日本の権益は失われていくばかりでしょう。一昨年の事件以来、民間の漁船の数は減ったそうなのですが、その代わりに「海監」や「漁政」というような公船(国際法上、国家の公権を行使する船)が尖閣諸島付近に出没する回数が増えました。この公船というのは治外法権を有するため海上保安庁の警察権では対応に限界があります。

 

最早、中国が国家の船を使用し公権力の行使として、日本の領海内に「自国の領域である」と堂々と宣言して侵入してくるのですから、立派な侵略行為であるという受け止めかたをしなければなりません。今はまだ実力行使に至っていませんが、それもいつまでかは分かりません。だから「自衛隊の船を派遣しろ」というような短絡的な話ではなく、法整備を含め、尖閣の問題は警察権の問題ではなく防衛問題として真摯に取り組んで考えなければなりません。

 

最後に、今後の日本の心構えとして西郷南洲の遺訓を添えます。

 

 正道を踏み、国を以て斃るるの精神無くば、外国交際は全かる可からず。彼の強大に畏縮し、円滑を主として、曲げて彼の意に従順する時は、軽侮を招き、好親却て破れ、終に彼の制を受るに至らん。

 


著者プロフィール

 

  一色正春(いっしき まさはる)
1967年京都生まれ。国立富山商船高等専門学校卒業。民間商船会社勤務中、オイルタンカーやLPGタンカーに乗船し、東南アジア、ペルシャ湾、北米、ヨーロッパ、アフリカ航路の従事する。その後、民間金融会社、広告業を経て、1998年より海上保安庁勤務。2004年韓国語語学研修終了。以降、国際捜査官として勤務。2007年放送大学校卒業。2010年12月退官。在任中に長官表彰3回、本部長表彰4回受彰
http://blogos.com/article/34335/?axis=&p=2

 

  記事の紹介終わりです。
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■ 2009年7月9日
  「我が郷は足日木の垂水のほとり」 はじめました。
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■ 2010年3月2日
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