妄想ジャンキー。202x

あたし好きなもんは好きだし、強引に諦める術も知らない

『シン・ゴジラ』ネタバレおまけ、30,000字じゃ語り切れなかったこと

2016-08-29 15:27:43 | 映画
『シン・ゴジラ』 30,000字のネタバレ作戦 の続きです。






先日、投稿した以下のエントリ。

『シン・ゴジラ』 30,000字のネタバレ作戦

※字数の都合上、冒頭からネタバレしていきますので要注意

ここに入りきらなかった上陸ルート検証、無人在来線爆弾もっと捕捉、会議シーン演出の特異性、矢口蘭堂、それからゴジラの正体もろもろを考えてみます。

※仮定と妄想だらけの話ですのでご注意。



■上陸ルートについて

ゴジラの上陸ルートは謎が多い点のひとつです。
しかしストーリーや映画のシーンをなぞりながら、地図上に線をひいていくと、あることがわかります。
あのラストシーンはそうなるべくしてなったのだ、と。

1.最初の上陸



ゴジラの登場はまず東京湾アクアライン浸水です。
風の塔付近で上がる噴きあがる水蒸気からはじまります。

羽田空港D滑走路越しに見える尻尾が第1形態とされ、その尻尾は多摩川、天空橋付近から北上、京急空港線に沿って北上。
東京湾岸警察署羽田水上派出所付近の呑川河口より遡上するときには、あの気持ち悪い第2形態の姿になっています。

呑川を遡上するにあたり、京急蒲田駅が大きな砦となります。
劇中に京急蒲田駅の描写はないので、第一京浜と京急蒲田、またそこより河口側にある産業道路は水中に潜った可能性もありそう。
まだ小さいですしね。


(呑川河口付近。左手が多摩川、右手に水門)


(京急蒲田駅)

その先、あやめ橋付近、JR蒲田駅近辺で上陸したと考えられます。
逃げ惑う大勢の群衆はこのへん。


(第1回上陸地点付近、左手にJR蒲田駅)

上陸したゴジラは、京浜東北線に沿う形で大森方面へ。
大森―大森海岸駅間、大井町―鮫洲駅間にあたるエリアかと思われます。

次に大井町駅。
ここの南側に隣接する形で東京総合車両センター本区があります。
ルートからは少し外れるので無傷の可能性が高い。



で、そのまま直進するとあの避難民が駆け上がっていった品川神社が右手に通過します。
首都高中央環状線を過ぎたあたりで正面に北品川駅。
この北品川駅と品川駅間がゴジラの最初の停止地点。
ヘリによる攻撃が行われる予定でしたが、ここでシン化した地点。


(新八ツ山橋踏切。手前が北品川駅、奥に線路並んでるのが品川駅)

その攻撃は、すぐ近くの八ツ山橋踏切を渡る老夫婦が逃げ遅れていることが発覚したため中止されます。
咆哮をあげた後、北品川駅右手にある天王洲運河から海へ帰った模様。

ちなみに車両センターはもうひとつあって、それが品川―田町間なので、1回目の上陸のときにはほとんど影響を受けていないと思われます。


2.再上陸

さて、ゴジラはもう一度上陸します。



2回目はグッと離れて神奈川県鎌倉市稲村ケ崎海岸から。
鎌倉駅近くの御成通りを避難する市民が描かれます。
そのまま横須賀線を北鎌倉駅方面を北上。
その間、源氏山公園の線路付近を通過するシーンがあります。

しばらく不明のまま、次は横浜市栄区上郷付近。
住宅地を通過していくゴジラの空撮ショットです。



ここからまたしばらくわからないのですが、根岸線を渡り、横横道路も渡った模様。
このとき、横に港南台や洋光台があります。
(団地からの避難シーンがこのへんかと)

そのまま横浜市営地下鉄…は地下だからいいのですが、また京急本線、他にも首都高狩場線を通過して保土ヶ谷駅付近。
ここいらで東海道本線をまたがなければいけない。

そのまま横浜市内相鉄線を越えて、今度は横須賀線。
港北区に入り菊名駅付近を通過したと思われ、ここで横浜線、東急線を通過。

鶴見川、綱島、日吉、元住吉。
向かう先は武蔵小杉。
あのへん高層マンションが並んでいるとはいえ、それなりに道路も広いです。


(武蔵小杉駅より多摩川・東京方面)


(多摩浅間神社より武蔵小杉駅方面)


武蔵小杉駅を向かいに据えた東京都内。
東急東横線多摩川駅南にある多摩川浅間神社がタバ作戦の前線基地になります。
戦車は多摩川堤通りを走り、作戦展開地域は多摩川台公園、多摩川丸子橋緑地、多摩川丸子橋緑地野球場あたりでしょう。

ゴジラが破壊したのは丸子橋。
その丸子橋を挟む形で、北に東急東横線、東海道新幹線、横須賀線が走っています。


(左から東急東横線橋梁、丸子橋、JR横須賀線)

東京都内に入ったゴジラはそのまま一路永田町、霞が関方面へ。
大田区、世田谷区、港区を横切っていきます。
近くを通っているのは東急東横線、東急目黒線など。
東海道新幹線、東海道本線は少し離れたあります。



恵比寿―目黒間を越えて山手線内に入ったあと、霞が関方面へ。
直線進路上に有栖川宮記念公園、六本木ヒルズ、赤坂アークヒルズがあり、右手に東京タワーがあるあたり。
首相官邸、国会議事堂、ほか霞が関のビルの多くはこのとき火の海に飲まれます。

無事であるとの報があったのは桜田門の警視庁本部。
霞が関の中でも一番皇居に近い部分です。

また少し離れた場所にある市ヶ谷の防衛省も無事。
(自衛隊の面々が無事だったあたりから)



そこからがまた微妙なところを行きます。
霞が関から内幸町、有楽町方面へ向かって、日比谷公園を左手、東京国際フォーラムを右手にいくと、正面に東京駅丸の内南口が見えてきます。
ゴジラはこの地点で停止。

3.ヤシオリ作戦展開地域

ゴジラが一時停止したところ。



地図のとおり皇居を避ける形です。
やはりここだけはいくらの『シン・ゴジラ』制作スタッフでも……なのでしょう。
有事の際の皇室避難、どのような規定になっているかはわかりませんが。
『シン・ゴジラ』の中で「さすがにそれはやらんか」と思わされたあたりです。

とはいえ皇居が一切描かれないわけではありません。


(科学技術館より東京丸の内方面)

ヤシオリ作戦を見守る矢口らが立つのは北の丸公園科学技術館屋上。
丸の内南口までは皇居を挟んで、ら直線距離で1.67キロという至近距離です。
皇室の避難は完了しているのでしょうが、矢口らは皇居越しにヤシオリ作戦を見守る形になります。



この東京駅まで、稲村ガ崎から直線距離で50キロなのですが。
臨時の官邸が置かれた立川までは約30キロ。

場合によってはゴジラが東京都心から立川にやってくる可能性も捨てきれないわけです。

それが作戦を急ぐ理由のひとつでもあり、矢口の「この国のいいところは後がすぐに決まる」という言葉にも現れていたのかもしれません。




■無人在来線爆弾ついて掘り下げる


ヤシオリ作戦のクライマックスを担うパワーワード『無人在来線爆弾』。
これをもうちょっと紐解いてみようと思います。



なぜ、ゴジラ殲滅のために在来線が使われたのか。
なぜ在来線は爆弾を搭載して東京駅に走ってきたのか。

1.京急以外通常運転という異常事態


少し序盤から、振り返ると、第二形態のゴジラが破壊したもののひとつに京急本線があります。
そのあとつかの間の平和の時間、アナウンスの中で「首都圏の鉄道は京急を覗いて通常運転~」という言葉もありました。
このときには「東海道新幹線は新横浜駅で折り返し運転をしております」というアナウンスも。

京急以外は無事。
逆を言えば京急だけ破壊された。
京急だけが、通常運転できない。


これって結構異常事態なんです。



京急の競合路線はJR。
そのJRの東海道本線や横須賀線は、人身事故などが多く、遅延や運転見合わせは日常茶飯事です(それもどうかと思うけど)
湘南新宿ライン、上野東京ラインなど接続することによってその頻度もあがりました。
事故の状況や原因にもよりますが、最低でも1時間、下手すると半日は足止めされます。

そのいわば通勤通学難民・帰宅難民を振替輸送を担当するのが京急。
なのですが、そのとき品川駅はもうカオス状態。
京急品川駅では「JR線からの振替輸送を受けた影響により、電車が遅れております」と、なんだかわけのわからない状況が発生します。

その京急が止まるんです。

「首都圏の鉄道は京急を覗いて通常運転~」っていうアナウンス。
これ結構緊急事態。

その京急が破壊されたという緊急事態を踏まえての、JRによる無人在来線爆弾。
よきライバルであり、助け合う友が運行不能になったとき、まるで仇討ちのようにゴジラに突っ込んでいくJRの在来線たち。



2.『あの日』の鉄道事情


2011年3月11日の話。
東日本大震災の発生直後、首都圏のすべての鉄道が運転を見合わせ、多くの帰宅困難者が出ました。
運転再開のタイミングは各社でまちまち。
主要駅や幹線道路に人があふれかえりました。

その日の夕方、JR東日本は終日運休を発表。
JRだけではなく、前述の京急、東武、京成なども11日は終日運休となりました。
その一方、夜になり東京メトロ、都営地下鉄、東急電鉄などが運転再開。

首都圏を動かしているってーのは地上を走っている見慣れたJRだけではないことを実感した一日でもありました。
特に東急と地下鉄、この2つの復旧が早かったことで救われた帰宅難民も多かったと報道されたのを記憶しています。

なんで3.11の話を持ち出したかというと、やはり『シン・ゴジラ』の描写が『あの日』、つまり東日本大震災と重なるためです。

現実に起きた東日本大震災や帰宅困難者問題を踏まえて『シン・ゴジラ』を見てみます。

ます東急。
前述の上陸ルートの話で何度も出てきてますが、二度目の上陸のときいくつか破壊されている可能性があります。

そして地下鉄。
『シン・ゴジラ』において、地下鉄は鉄道ではなくなりました。
地下に人々が殺到し、人であふれかえった地下鉄ホームの中は停電。

天災・災厄を暗示しているかのような地上の描写の中、地下鉄はその役割を切り替えました。
地上に多くの出入り口を持ち、広い敷地と強固な設備を持つ避難場所として。

『あの日』と逆の『シン・ゴジラ』。
役目を失った私鉄、あるいは役目を切り替えた地下鉄。
その想いを受け取るかのように、JRの在来線は爆弾を搭載して東京駅に向かいます。


3.『在来線』の理由。

京急、私鉄、地下鉄が役目を失った。
「JRが彼らの弔合戦をする」
それが無人在来線爆弾でもあると述べました。

ヤシオリ作戦、最初に700系が陽動で突撃します。
設計上の最高時速は340キロ。

無人爆撃機、ビル倒壊を経て、やってくるのが無人在来線爆弾。
E231系、設計最高時速は時速120キロ。

何が凄いかって、これが『在来線』だということ。
平時なら、そこには通勤客・通学客を乗せて走る列車。
東京に生きる人々の命と人生を、200%近くまで詰め込んで走る列車。
その積載容量は1両につき、最大18トン。
物理的にB29爆撃機2機分の爆薬を積載可能とされています。

そこに使われたのは京浜東北線。
最初に上陸した蒲田方面を越して、2度目の上陸で近くをかすったであろう大船まで走っていく路線です。

それから東海道線、あるいは『湘南新宿ライン』。

個人的には「宇都宮線直通の湘南新宿ライン説」を推したいのですが、見ておきたいのがその停車駅。
宇都宮線に直通する湘南新宿ライン(北行き)は、神奈川県の逗子、鎌倉、横浜、武蔵小杉から、都内へ入り、山手線の西側を通り、埼玉県を経て栃木県へ直通します。

「いやそれじゃあ東京駅通らないじゃん」と言いたいところなのですが、神奈川県内の停車駅にご注目。
鎌倉、横浜、武蔵小杉とゴジラ2回目の上陸のルートと重なっています。
特に武蔵小杉駅近辺はタバ作戦が展開された地域。
(ちなみに高崎線に直通する湘南新宿ライン、上野東京ラインや東海道線このルートを通りません)

平時なら、平和なら。
京浜東北線も湘南新宿ラインも、無人在来線爆弾は「ただの満員電車」だった。

沿線各地や東京で生活し、生きる人たち。
学び働き、経済活動を担う人たちの人生と命を乗せていた。
でももう沿線の街は破壊され、住民は避難してしまい、乗る人もいなくなってしまった。

だから爆弾が乗った。
その車両に搭載された爆弾は、『在来線』そのものを爆弾にした。
無人在来線爆弾は、作中で『生活を破壊された人々』の怒りそのものだったのかもしれません。



4.とられるべくしてとられた作戦

上陸ルートの冒頭「あのラストシーンはそうなるべくしてなった」と書きました。

まず、最初の上陸ルート。
このときに『車両センター』が無事だった可能性が高いという点です。
何よりこれが大きい。

次に再上陸の時。
ここはおそらく神奈川県内の私鉄各線(市営地下鉄以外)が破壊された可能性が考えられます。
しかしこのとき、破壊と言っても放射熱線が浴びせられるわけではありません。
(丸子橋は盛大にやられましたが…)

いずれにしても横須賀線・湘南新宿ラインの多摩川以東区間は無傷である可能性がある。

無傷ではなかった場合でも、車両基地が二箇所ある。
ゴジラが丸子橋を渡って都内に入ったことを考えると、品川のほうはどちらかは無事だったのだと考えるのが妥当です。
仮に都内侵入後に品川のほうがやられたとしても、なら大井町は無事のはず。

東海道新幹線もまた同様。
多摩川以西の線路が破壊されたとしても、品川区八潮のJR東海の車両基地は無事だった可能性が高い。
(というよりここが無事じゃないと、あの700系はどこから?になってしまいます)

上陸ルートはあくまで仮定ですが、東京駅に通じる線路(貨物線含め)が無事だったこと、車両基地が無事だったことが無人在来線爆弾への布石だったのではないかとも考えています。



電車とゴジラ。
これは『シン・ゴジラ』の中でも何度も描かれました。

わかりやすいのが八ツ山橋踏切を渡る老夫婦。
彼らがいたことでゴジラへの攻撃はストップになります。

もうひとつ、再上陸のときの鎌倉源氏山公園付近。
ここにも横須賀線の線路と共にゴジラが描かれます。

確かに京急の車両はゴジラに大きく破壊されましたが、映画の中で描かれる線路は無事なんですね。

「戦後は続くよどこまでも」と冗談で谷口が言っていましたが。
あのフレーズから「線路は続くよどこまでも」を思い出し、無人在来線爆弾という発想に至ったのでは?とも考えられます。

 

思えば、電車はこの60年間ずっとゴジラに蹂躙されていたのかもしれません。

満員電車。
脱線。
停電。
跡形もなく破壊される。

今回は京急がそのターゲットとなりましたが、これまではJRやその前の国鉄時代の昭和の名車両も涙が出るほとに破壊されてきました。

もう負けるもんか。

これまで犠牲になった車両たちの怒りや悔しさを積んで、在来線は無人在来線爆弾となった。
そう思うと涙が出てきそうです。




■会議シーンがはまりにはまっていた理由


1.顔面アップの情報量



前半の見せ場のひとつが、会議シーン。
ここの面白味は顔面アップで登場する俳優さんたちが、画面一杯に張りつめさせる緊張感です。

フレームというフレームを徹底的に無視します。
大杉蓮が、柄本明が、手塚とおるが、竹野内豊が、すぐそこにいる感覚に陥ります。

たとえば柄本明演じる官房長官がしゃべっている最中、大杉蓮の総理大臣の表情は映されない。
画面全体に柄本明がいるから。

官房長官や防衛大臣、あるいは不安をあおる文科大臣の言葉を聞いて首相は何を思っているのか。
これは観ている側が判断するしかありません。

これが行間。
画面に映っている、セリフに出ている、テロップに出ているだけでも情報量が満載なのですが、
『今あの人は映ってないけどどんな表情だろう』
という行間の情報量もハンパないです。

ただでさえスーツ、災害服、あるいは首相官邸執務室の小道具や配置など、徹底的なリアリティに即して作られた作品。
この情報量の多さが後半の盛り上がりにもつながってくるんだろうなと思います。
(もう一度観たいと思わせる所以のひとつなのかな)



演出手法としても大成功してるんじゃないかなと。
というのも、例えば『柄本明が大スクリーンに』って字面。
これだけみたら笑っちゃいそうなんですけど、これがいい意味で全く笑えない。
画面全体に緊張感が張り詰めているから。

おそらくカメラ自体が俳優さんに相当寄っているのでしょう。
俳優さんもまた表情筋を全力で止めたり、僅かに動かしたりの、演技をなさる。
特にその目元・口元の緊張感がそのまま会議の緊張感につながります。




2.『半沢直樹』

ところで。

これだけ顔を映しているのって見覚えがあるなあ、と思い出したのは2012年大ヒットの『半沢直樹』でした。
あの化物銀行ドラマも、堺雅人や香川照之やら「すげえ!おっさんたちすげえ!!」と驚かされた作品。



あとやっぱり、思い浮かべるのは大河ドラマですね。
現代ドラマとは少し違う大河ドラマの絵。
みんな大体似たような髪型で、髭や髷が少しずつ違っていて、でもそれぞれ違うようにみえる。

ハリウッド映画みたいに顔の作りが大きく違うわけでもないのに、たとえ衣装がほとんど同じでも登場人物の見分けがつく。
それは多分顔面のわずかな違いから演出される様々な情報が、人物の差や、登場人物の人となり、心情などをぶつけてくるのかもしれません。

上記の『半沢直樹』やNHK大河ドラマは自宅のテレビですが、『シン・ゴジラ』は映画。
映画でこの「顔面アップで行間読んで」をやるのがとても新鮮に思いました。


3.彼らでも負けた

大杉蓮、余貴美子、柄本明たちのいる内閣を徹底的に画面いっぱいに見せられた前半。
フルに頭を使って、画面外のことまで無意識に考えさせられる前半。

スクリーンの中でも映ってない部分にも、足を引っ張るような人はいないんです。
確かに手塚とおるは不安を煽り、大杉蓮の決断は少し遅れますが、それくらいだったかと思います。

つまり前半の会議シーン使って描かれたのは、
「彼らならば勝てるんじゃないか、死ぬはずはないだろう」という信頼だったのではないのでしょうか。


(首相官邸より赤坂方面)


それが負けた。

東京が火の海に包まれるシーンでそのまま。
『何事もなかったかのように』放射熱線を浴びて爆発した。
破壊に対する絶望感がまた、後半のクライマックスへとつながっていきます。





■矢口蘭堂



1.モチーフ

前エントリでいくつか触れました。

・花森防衛大臣(余貴美子)…小池百合子モチーフ、菅井きんオマージュ
・牧悟郎(岡本喜八)…初代ゴジラの芹沢博士オマージュ
・カヨコ(石原さとみ)…ギャレゴジの渡辺謙オマージュ


もう一人忘れていました。

・矢口蘭堂(長谷川博己)

主人公だよおい。

彼に関しては『一部分、枝野幸男モチーフ』なのかなと。
(政治的な意図は抜きにして、ほぼ寝ずに巨災対で対応している描写など)

エンドロールでは、小池百合子氏と並んで取材協力者に枝野氏の名前が記載されています。
あの日に官房長官としてL字テロップの中に立っていた人物。
『#枝野寝ろ』と同じかそれ以上に、『#矢口寝ろ』と言いたくなる描写でした。


2.矢口の仕事

その矢口は大きな危機に瀕します。
もちろんゴジラに立ち向かっていたり、首相官邸から陸路で避難するときも非常に危険ですが。

ラストのヤシオリ作戦。
これを矢口は北の丸公園科学技術館の屋上から見ると言い出します。
泉らが止めるも、「最前線でみておかなければならない」とまさに最前線に立った理由。

矢口は「急性被爆で死ぬかもしれない、だが闘ってくれ」と現場作業員らに話をします。
矢口ら(安田も)は放射線防護服に身を包み、北の丸公園科学技術館屋上に。
上陸経路のところでも少し触れましたが、ヤシオリ作戦展開地域の東京駅丸の内口からこの科学技術館までの直線距離は1.67キロ。


この時点でゴジラの放つ放射性物質の詳細は明らかにはされてはいません。
何が起こるか分からないヤシオリ作戦。
矢口の言う通り、「急性被爆で死ぬかもしれない」でしょう。
そして「何らかの障害が残るかもしれない」もあるでしょう。

被爆により障害が残るといえば、造血系、それから生殖器官が連想されます。

ここで矢口の情報に関して思い出したいのが、『矢口は二世議員』という情報。
赤坂や警察庁長官の話の端々から、矢口が地盤を引き継いだ二世議員という情報。


政治的地盤を継いでいる政治家が被爆する可能性がある場所に立つ。
もしかしたら跡継ぎが生まれないかもしれない。

それはつまり政治家としての致命的な危機。



タバ作戦を指揮したのはピエール瀧や國村準、余貴美子ら防衛担当。
タイマーを止めるべく、フランス政府に頭を下げていたのは平泉成。
あの解析表の暗号を解き、抑制剤が必要だと導いたのは巨災対。
現場で闘ったのは働く車、無名の職業人。


じゃあ矢口は何をしていた?
矢口も命懸けで闘っていた。


こんなことを言うのは少し気が引ける気もするんですが。
なんだか矢口の動きは、3.11のとき、福島第一原発の事故のときの政府の動きを皮肉ってるようにも見えてきます。


3.庵野秀明監督と矢口

矢口は議員としての生命をかけて懸けて闘った。
メタ的な話になりますが、この矢口に重なるのが庵野秀明総監督。

パンフレット冒頭、庵野総監督が「これ以上エヴァを書いたら死ぬかと思った」というような文章が書いてあります。
その結果完成したのが『シン・ゴジラ』でした。
ゴジラの中で主人公・矢口は「これ以上放射線を浴びたら議員として死ぬかもしれない」の部分に立つ、というのは前述のとおり。

さらに矢口はラストカットの直前、誰が聞くわけでもなく「辞めない」と続けます。
それは庵野監督が「辞めない」と言っているようにも見えました。

事実、そのパンフレットのあいさつ文を締めくくるのは「エヴァ、続けます」の言葉でした。




■ゴジラの正体


謎だらけのラストシーン。
いかにもエヴァっぽいと思ったあのラストシーン。

しっぽに隠された人間は牧博士だ、と初回は思いました。
(物語の中でまず考えられるのは彼だから)

しかし2回目。
牧博士だけじゃない。

問題は、じゃあ他に誰がいるのかということ。

1.牧博士とゴジラとガッジーラ

まず『シン・ゴジラ』中の牧悟郎という男を振り返ってみます。

・何らかの理由で日本の学会から追放された

・牧は妻を死に追いやった放射能と日本政府を恨んでいた。

・放射能を無力化する方法を研究していた。



次に牧がDOEで研究していたGODZILLAに関して。

・GODZILLAは核分裂をする機能、すなわち放射能を有する。

・GODZILLAは海底に存在し、放射性廃棄物を食べていた。

・GODZILLAが放つ放射性物質の残存量には限界がある。

・GODZILLAは無性生殖で個体増加を行う。



巨災対が明らかにしたゴジラの生態

・ゴジラの『生体細胞』は自然界のそこらへんにある元素を原料とし、生態に必要な元素を生成できる。その崩壊熱をさらにエネルギー源する混合栄養生物がゴジラ。

・ヒトゲノムを超えた遺伝情報を持つ

・ゴジラの細胞膜が新元素



ヤシオリ作戦を終えて明かされるのが以下の2点。

・シン・ゴジラの放射性物質の半減期は20日程度。

・凍結後のしっぽに人がいる。



これを踏まえていくつかの仮説を考えてみます。

2.芹沢博士

前述の『初代ゴジラは反核のメタファー』として描かれたのは著名な話です。
初代ゴジラに対峙するのは、芹沢博士。



オキシゲンデストロイヤー。
水中で使用すると周囲の酸素を破壊する作用を持ち、その場にいる生物を死滅させ、液状化させてしまう兵器。

これを開発した芹沢博士は、軍事利用されるのを恐れ、存在を内密にしてきました。
しかしゴジラに対峙できるのはオキシゲンデストロイヤーしかないとなり、博士はオキシゲンデストロイヤーと共に水中に潜り、ゴジラを液状化させます。



この芹沢博士と同じことを、『シン・ゴジラ』の牧博士もしています。
DOEへの情報撹乱がそれにあたります。


米国特使であるカヨコが持ってきた解析図は、穴抜けで何を意味しているかも不明とされていました。

物語後半、答えはゴジラの『細胞膜分子構造図』であることが巨災対の間によって発見されます。
さらに細胞膜分子構造図ではなく、その細胞膜の活性化を抑制する極限環境微生物の構造図であると判明しました。
(このへんほんとややこしい)

なぜ牧はそこまで回りくどいことをしたのか。

それはおそらくゴジラの生体細胞が軍事利用されるのを恐れたから。
水や窒素、酸素があればそこに原子炉ができてしまう細胞です。

牧博士は芹沢博士と同じように、自らの研究が軍事利用されるのを恐れた。

ここまではわかります。
しかしこれでは牧の『野望』は達成されていない。

3.牧博士のしたかったこと

牧が望んだものは、 妻を死に追いやった放射能と日本政府への復讐と、放射能を無力化する、この2点でした。

妻を死に追いやった放射能。
日本政府を恨むに至る放射能。


牧の年齢から考えれば、相当の年の差婚でもない限り、その放射能は福島第一原発の事故と考えるのが妥当でしょう。
矢口の行動が2011年当時の政府の動きに重なるように、牧はあのときの政府を恨んでいた。

急性被曝で亡くなったのか、それとも避難の最中に何らかの事故があったのか、津波に巻き込まれたのか。
あるいは、震災関連死か。
それはわかりません。

しかし「日本政府を恨むに至る放射能」から考えられるのは、原子爆弾でも第五福竜丸でもチェルノブイリでもなく、福島第一原発の可能性が高い、と。

ゴジラ第2形態が呑川を遡上するシーン。
3.11の津波を思い出させるシーンはあくまで演出としての描写である思っていました。
しかし避難所の一つに加須市が登場したあたりで、ゴジラの3.11を思い出させる描写は、演出ではなく『ゴジラと福島第一原発事故のつながり』を意図的なものしていると気づきます。



4.ゴジラとなる



牧の野望のもうひとつ、放射能を無害化する研究。
それこそがシン・ゴジラなのではないのでしょうか。

「海底の放射性物質を食べてしまうゴジラ」
「自身の放つ放射性物質の半減期は20日程度」


ああ、もう食べちゃえばいいんだ。

妻を奪ったあの原発を食べちゃえばいいんだ。


そのためには陸上にあがらなければならない。
ゴジラが陸上に上がることができるよう、ゴジラを混合栄養動物にしなければいけない。

だいたいの日本の地理も覚えておかなければならない。

そうか、自分の思いや記憶情報を全てゴジラに取り込ませればいいんだ。



そうして誕生したのがシン・ゴジラなのかもしれません。

シン・ゴジラの第一形態は牧悟郎だったのではないのでしょうか。


だってほら。

2回目の上陸ルート。



東京駅─稲村ケ崎のルートをそのまま伸ばしていくと。



福島第一原発にぶつかるんだもの。



そもそも考えてみると、第一形態とされいるのが羽田空港D滑走路から確認された海上のしっぽ。
そのしっぽにラストシーンには人がいたわけです。

さらに冒頭の無人のプレジャーボート。
残されていたのは靴と、呉爾羅の走り書き、遺書めいたメッセージと、東京の地図。

あの地図、ゴジラになる直前の牧からのメッセージだったのではないかとも思います。
「このルートで上陸するぞ。やってみろ」と。



5.しっぽにいるヒト

話を、『しっぽにいる人間』に戻します。
牧博士以外に誰かいる。
誰だ?という問題でした。

ここで考えられるのは、牧博士の妻。

他にも福島第一原発事故の犠牲者。

それだけではないかもしれません。
原爆やあらゆる核実験などで命を奪われた人たちがいるのではないのでしょうか。


あのとき失われた多くの命が海に還った。

放射性物質を食べているゴジラに、放射能への恨みを与えた。
そこに牧博士が、放射能への怒りを与えた。

死者の思いを取り込んだゴジラは完全生命体たる神の化身となった。
荒ぶる神の化身。




そうしてゴジラが最後にヒトのゲノムをとりこんだ。

ゴジラの中に人間がいるからこそ、ゴジラは陸にあがってきて、東京にやってきた。
ゴジラの中に人間のゲノム情報があるからこそ、ゴジラは人間を恨み、妻を殺した原発事故ひいては日本政府を恨んだ。


ゴジラの大元が、そして第五形態が、人間だからこそゴジラは苦しそうで痛そうだった。

「痛いよ、痛いよ。やめて」

ヤシオリ作戦は確かに痛快です。
しかし何度もバランスを崩すゴジラは痛々しくもみえました。

6.好きにしろ

「私は好きにした」
「君たちも好きにしろ」


なんとも意味深な言葉でした。

「この国で好きを通すのは難しい」という矢口の言葉があります。
しかし『好きを通した』牧博士。


「君たちも好きにしろ」の意味。

これはもちろん、ゴジラとなった自分を止めてみろという意味がメインだとは思います。
ゴジラになった自分を止めるその手段のひとつが熱核兵器。



「君たちは核を使うのか」
「使わなければ止められないか」



牧博士の悲痛な叫びがあるようにも感じます。

結果として核は使われずに済みました。
そのヤシオリ作戦を指揮した矢口をみおろすようにように、ラストシーンのしっぽが映ります。

あのしっぽは何を訴えているのか。

「使わないでくれてありがとう」なのか。
「次は止められるかな」なのか。




ラストシーンやゴジラの解釈は、おそらく見るたびに、見る人によって変わってくることでしょう。

とりあえず今の私の仮説(ほぼ妄想)は、こんな感じにしてみます。





●おまけ、細かすぎて伝わらないシン・ゴジラの好きなところ









●おまけ、そんなゴジラは嫌だ。







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シンゴジラの好きなとこ (ナツキタ)
2016-09-16 13:54:08
放射能をなにしてくれてるんだ人間と言いたげなゴジラの手の向き、最後は手の向きが変わるんだよね〜
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Unknown (蒲田)
2016-11-05 20:54:56
言いたいことがすごく分かります。
自分が個人的に好きなのが、第三形態の時の咆哮が初代ゴジラの咆哮、第四形態の咆哮がvsキングコングの咆哮、最後の咆哮が84年ゴジラの咆哮になっている辺りです。
過去の作品をリスペクトしつつ、新しいオリジナルも足していっているのがこの映画の素晴らしい所の1つだと思います。
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日比谷にゴジラ (もののはじめのiina)
2018-10-08 09:22:44
なかなか面白い切り口からのゴジラ・コースでした。^^
写真は、Googleからのショットでしょうか ❔

ことしに、日比谷の映画街に二代目のゴジラがデカくなって現れました。
https://blog.goo.ne.jp/iinna/e/8dc6d633b45dd0f2d93104f492411b2b

なんと、
    新宿にはほぼ原寸大のゴジラがいます。
    https://blog.goo.ne.jp/iinna/e/79a9d02c0cdc6f1e3f794e9c333a2987

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