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青春の嵐 第20話「ラストサンタクロース1」

2015年12月04日 08時21分51秒 | 青春の嵐
そして、クリスマスイブの日を迎える。
その日は心なしか未明から大雪で、屋根に積もった雪かきを命じられた一角の商店の男性店員は、
安い月給の割りに、転落事故の危険性の多い仕事に、愚痴が多いようだ。
それとは対照的に商店の店主はというと、店員の苦労など知った事かと言わんばかりに
来店している若い女性客相手に暖房を挟んで楽しそうに談笑しているし
その鼻の下も伸びて緩んでいる。

それを傍で見つめる寛一は、
(大変だろう。だが、他人に使われている立場から脱しない限りどうにもならぬ苦しみだ。)
と心の中で呟くしか無かった。
この雪国での労働は、報われざる者には生き地獄でしないのかも知れない。
そうならないためにも、自分は、デイトレードによって
もうすぐ来春は中学に上がろうかという身にして労働に依存しない収入生活をしている。
コレをして生活費と貯蓄を作り上げれば、もう経済面で懸念する事など何も無い。
そう思って少し眺めると、やがて寛一は屋根からスコップで放り出す雪を
掛けられてしまう前に足早に通り過ぎる。
そうして、商店街にやって来る。時間は朝の九時を少し回ったところか。
今頃、学校は体育館に全校生徒を集めた終業式の最中だろう。
寛一は、近くのATMでお金を要る分だけ下ろして財布に収めると、
近くの建物の二階にある喫茶店に入る。
そこに入るなりマスターは寛一に言う。
「おや、珍しいね?この時間帯じゃウチの息子と同じで学校の終業式のはずじゃ?」
その問いに対し寛一は答える。
「ああ。実は、先生とちょっくらやり合っちまってね。三学期迎えるまで来なくていいって言われた。」
「何でそうなっちまったんだい?」
「クラスに居るバカたれどもが、教室に持ち込んだお菓子とジュースで
オレのオフクロが死んだのを祝う祝杯を挙げたのがムカつくんでシメてやったんだよ。
そしたら敬二のヤロー、オレの方が先に謝れば何とかなるっていう言い方するんで
どうしても納得が行かないんで、とうとう大喧嘩になりキレた敬二のヤツが
もうお前の顔なんか当面見たくない、三学期になるまで出てくんなボケと怒鳴りやがったんでな?
オレの方もお前にゃガッカリだと、ガチ切れってヤツだよ。」
寛一は、得意気に武勇伝じみた口調で言う。
そして寛一は、洋食のモーニングセットを頼み。
トーストとサラダを頬張りコーヒーに小さい容器を開けて白いコーヒーフレッシュを注ぎ
スティックシュガーを入れてから銀色のスプーンで混ぜる。
そしておもむろに飲む。
「そ、それは凄い事になってたなあ。それにしても、他所様のご家庭の不幸を祝うとは
そのクラスの男子らも、えらい不謹慎な事をしたなぁ。」
「まあ、詳しくは博之くんに訊けばいいよ。あんとき博之くんはアイツらを止めはしたけど
アイツらかに博之くん、"殴られたいのか"って脅され、よってたかってボコられるのは
流石に拙いと察したのかこれ以上は強く言えなかったってクラスの女子から聞いたし。」
それを聞いたマスターは懸念した。息子の博之は幼少時から温和で争いごとを好まない性格ではある。
だがこれから先、他者に対して暴力的・攻撃的な人間が多くなる中学に上がることを鑑みて
その事が徒にならないかが心配でならなかったのである。
そして案の定、寛一の一件でその懸念すべき点が露呈したのである。
寛一は、モーニングセットを平らげた後、勘定を払った後、店の外に出て行った。
それからしばらくしてその博之が学校から戻って来た。
マスターは早速、息子の博之からその事を訊くと博之は寛一が言ったのと同じが如く
内容を父親に語ったのである。それを訊いてマスターは声を失った。

寛一の方に視点を戻して見る。
ポケットからスマホを取り出しデイトレードをしようかと思った。
(いや、今日はよそう。折角のクリスマスイブの日だ。商売っ気は無しでいいだろ)
そう心に呟くと、取り出したスマホを再びポケットにしまい込む。
そして歩き出す。
人気の無い路地裏にやって来ると、そこに白い雪を鮮血に染めて横たえているトナカイが居た。
寛一は、思わず駆け寄りそのトナカイの傷をポケットから取り出した消毒液で消毒し
応急処置を施す。
「何たることを。今日はクリスマスだというに。こんな縁起でもない事をして何の得があろう。」
寛一は目の前のトナカイが傷ついた事に義憤を感じる。すると次の瞬間トナカイが
「あ、ありがとうな。キミは命の恩人だよ。」
そう呟くように言った。
「おぉっ!と、トナカイが喋った!?」
寛一は思わず驚いた。
それもそのはず。普通、動物とは人語を喋れるはずは無い。
「はは。キミを驚かしてしまったみたいだね。」
「だ、だが何でキミがこんなところで傷ついて倒れていたんだ?」
「実は、老師がおかしくなってしまったんだよ。何かに憑依されてね」
「老師?」
「老師か、その表現じゃ判りにくいか。キミら人間の世界じゃ
サンタクロースっていう名で呼ばれているんだけどね。」
「その老師が何で、キミにこんな怪我をさせて何処かに行ってしまったんだ?」
寛一はトナカイに訊ねる。
「実は、今年の冬が近づくある日の事だった。老師は苦労ばかり多くて報われない上に
年齢的にもう限界だからと言ってたので今の仕事をそろそろ今年の冬を最後に
引退したいと、上の者に言ってたんだよ。そしたら上の者たちから
『甘えるな』『楽したいとは何事だ』『苦労が多いのはお前だけでは無いんだぞ』と言われ
拒否されたばかりか、今年は去年の三倍以上のノルマを課せられたんだ。」
「ひっでぇな。」
それを聞いて寛一は思った。
働く者が報われない環境は、何処も同じかそれ以上なモノなんだなと思い、住宅費から
医療費までを職場からの給与に依存しない歳入方法を作る事が如何に大事かを改めて思い知った。
「なあ。もし、このオレが出来る程度でなら手伝わせてくれよ。」
「キミにかい?」
「ああ。これは老師の上の連中の為にやるんじゃない。あくまでも
キミとキミの老師に今度だけでいい。今度の"最後のサンタクロース"を務めるためにやるんだ。」
「うん。それでいい。それで僕もトナカイに戻れるのなら。」
こうして、ひとりの少年と一頭のトナカイは失踪したサンタクロースを探す事になった。

人気が疎らになる夜間を狙って寛一とトナカイは動き出した。
何処もサンタの衣装を着ていて、どれも寛一には紛らわしく思えた。
だがトナカイはすべて違うと見抜き、彼なら照れ屋な性格からしても人気の無い所を好むはずだと
寛一にアドバイスした。
「この街で、人気が無い場所・・・・・・もしかして、あそこか!?」
まるで何かに、気づいたように寛一は言う。
「何か判ったのかい!?」
トナカイは寛一に問う。
「この街において、人気が無くキミのパートナーが逃げ隠れにうってつけになるといえば
空き家しか無いよ。」
「そうなの?」
「ああ。最近、我が国日本は空き家が増えているみたいだ。この街の空き家の多くは
元の家主は息子が家を出てったきり戻って来なかったり、家主が若いときから
生涯独身のまま人生を終わってその家が空き家になったりしているのが多いんだ。
オレが学校へ行く道にもいくつか空き家があるんだ。その中で、カギがかかっておらず
誰でも出入り出来るという条件を満たしているという空き家なら心当たりある。」
「そ、それじゃ!?」
「ああ。もし、オレの予感が間違って無ければ、キミのパートナーはあそこに居る。」
そう言って寛一はトナカイとともにその空き家の方を目指す。

街の一軒の空き家。
そこに赤色の帽子を被り、赤色の服を着ていて白い口ひげを豊富に蓄えた老人が
半ば不貞腐れているように身を横たえている。
その見覚えのある姿とは俗にサンタクロースと呼ばれているその人である。
本来、子供たちにとって夢を与えるべき存在であるのが何でこの廃屋に無断で入り込み
毛布に身を包めて不貞寝するという事を成しているのか?
実は、先に寛一とトナカイとの会話にあったように、よる年波に抗えぬのに加え
これを機に引退を申し出たにも拘らず、
上の立場の者たちから数々の罵声と難詰の混じった非難を浴び、仕事から逃れようとしたと見做され
懲罰として前年を遥かに超過した制裁的仕事量を課されトナカイとともに日本へ
派遣されたのであった。だが、生憎な事に日本も全世界と同様、経済のグローバル化による
貧富の格差の暴力の嵐が吹き荒れている最中にあるのか、子供たちのクリスマスと
サンタクロースに対する思いは半ば覚めてしまっている。
それを見るにつけ何もかもが嫌になり、業務を放擲しようとしてそれを制しようとした
相方のトナカイを傷つけて逃亡を謀り、現在に至るのである。
(ふん。あんな上の連中にゃ、もうついていけないわい。)
サンタはそう思った。今まで、自分は身を粉にして散々尽くしてきたのに
上の立場の連中は、自分のことを一向に末端の他のありきたりのサンタクロースの一人としか
扱おうとしなかった。そればかりか、最近では自分より後から出てきたヤツばかりを
出世させ若い時から仕事を只のミスを何ひとつ無くこなして来た自分を疎んじ
飼い殺し同然の位置づけに扱って来たのではないか。それなのに引退は許さないばかりか
今年の仕事を前年の三倍あまりを給与なしでこなして来いとは、あまりにも理不尽ではないか。
思い出せば思い出すほどサンタは余計に、仕えている組織の論理に腹が立って仕方が無い。
(こうなったら、今日と明日だけでいい。ここで隠れ潜んでおけば・・・)
そうすれば、サンタは組織からの怒りを買い懲戒免職処分となるだろう。
でもそれで、長年に亘る対価に見合わぬ酷使の歴史に終止符を打てるのなら
それでも構わないと彼にはそう思えて仕方ないのであった。
だが、そこへ共に仕事を組んだ見覚えのある存在がひとりの少年とともに姿を現す。


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