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History, Strategy, Ideology, and Nations

仮説思考のススメ

2010年12月27日 | WORK STYLE

 原稿を執筆する際には、あれこれと資料を見ながら書き進めていくのだが、
 その前の準備として、資料を集めて、その内容を検討することもまた、必要不可欠な作業である。
 大きなテーマを扱う場合は、必然的に資料収集の範囲を広げざるを得ないし、
 収集された資料を逐一、確認するためには膨大な時間がかかる。
 かといって、途中で資料収集に見切りを付けて書き進めた場合、
 あとから思いがけない疑問や論点が出てきて、
 改めて資料を集めなければならない羽目になってしまう可能性も捨て切れない。
 そんなことを考えていると、本格的に執筆作業に取りかかるタイミングというのが難しくなってくる。
 果たしてそれをうまく見極める方法というのは存在するのだろうか。

 率直に言えば、誰にでも応用可能な方法があるわけではない。
 しかし、次に挙げる文献で示されている方法に倣えば、
 少なくとも効率的に作業を進めることができるようになるかもしれない。

 内田和成
 『仮説思考 BCG流問題発見・解決の発想法』
 東洋経済新報社、2006年

 本書で強調されている点は、過去の経験や知識に裏打ちされた自分の直感を信じることである。
 ある程度、勉強や研究を重ねてきた分野であれば、
 大体、どの領域が未解明で、どの論点が未解決で、どのアプローチが未試行であるかは、
 何となく分かっているものである。
 また、そうしたことが頭に入っていれば、網羅的に資料を収集しなくても、
 これまで検討があまり行なわれていない部分について、集中的に取り上げればよいのであり、
 他の部分については、先行研究の成果を利用するといった形を採ることもできる。
 大事なことは、締切までの限られた時間の中で、
 一つ一つの論点や疑問を解決していくのは、非常に効率が悪い。
 そこで、あらかじめ何となく直感的に仮説を立てた上で、
 資料の収集や検討を行ない、早い段階から執筆するのが賢い方法なのである。
 本書では、それを「仮説思考」と呼んでいて、
 ビジネス・コンサルティングの場では、きわめて基本的な思考法だとしている。
 
 しかし、いくら予備知識があるにしても、
 資料もまともに見ないうちから仮説を立ててしまうというのも随分、大胆な話である。
 もし仮説が間違っていたら、結局、振り出しに戻ってやり直さなければいけないのだから、
 網羅的に資料を調査して、執筆に臨んだ方が良いという考え方もあるだろう。
 だが、本書では、それでも仮説から先に考えることを勧めている。
 なぜなら、間違いが発見されたとしても、そのプロセスから新しい仮説を生み出すことができるし、
 何よりも網羅的に調査するよりも、やはり時間的に効率性が高いからである。
 実際、研究の現場でも、こうした方法は積極的に行なわれているようで、
 米国に留学した日本人科学者が、当時の指導教官に言われたのは、
 「実験する前に論文を書きなさい」ということだったという。
 つまり、仮説を立てた上で、その正しさを実験で検証するといった方法が採られていたのであり、
 実験から得たデータに基づいて、仮説を立てて、正しい結論を導くといった方法ではなかったのである。
 資料が集めてから執筆するというのは、律儀さの表れにほかならないが、
 作業効率が悪くて、いつまで経っても書き上がらないという事態に陥りかねない。
 資料が揃っていようといまいと、さっさと仮説を立てて書き始めた方が良いというのが、
 本書で一貫されている主張である。

 なお、本書の姉妹書として、次のようなものもある。

 内田和成
 『論点思考 BCG流問題設定の技術』
 東洋経済新報社、2010年

 こちらの文献では、主に「問いの立て方」を扱っている。
 仮説を立てるのはよいとしても、その立て方が悪いと、無駄な努力ばかりが重なり、
 思うように作業が進まなくなってしまうことも十分あり得る。
 問いを正しく立てることは、案外、難しいので、
 二冊を併読して、そのコツをつかめるようにしておきたい。