YS_KOZY_BLOG

History, Strategy, Ideology, and Nations

12月29日

2009年12月29日 | COLD WAR HISTORY
 国際政治学や国際関係論の教科書と言えば、
 おそらく次の文献が、最も要領良くまとまっていて使いやすい。
 
 Joseph S. Nye, Jr.
 Understanding International Conflicts: An Introduction to Theory and History
 New York: Longman, 2008

 すでに第七版を重ねるベストセラーで、邦訳も数年前に出された。
 若干、リベラル寄りの見方が目立つが、全体的にバランスのとれた内容となっている。
 各章ごとに、学習上の論点や further reading なども示されており、
 初めて国際政治学を学ぶ人たちに対する親切な配慮が嬉しい。
 従来、この分野では、異なった立場の理論やアプローチを相互に検討していきながら、
 ディシプリンの地図を自分で作っていかなければならなかったため、
 そのことが初学者にとって大きな壁になっていたのだが、
 この教科書が登場したことで、そうした手間がかなり省けるようになった。
 もちろん、これはあくまでも入門書であるから、
 研究者を志す人は、いずれ自分で理論家や歴史家の業績を直接、検討することが求められるが、
 最初の一歩としては、これで十分であろう。

 実を言うと、以前から冷戦史研究の分野においても、
 こうした使い勝手の良い教科書があれば良いのにと思っていたのだが、
 先日、冷戦史の講義方法に関するエッセイの中で、一点、取り上げられていたので、
 以下に紹介しておきたい。

 Jussi M. Hanhimaki & Odd Arne Westad, eds.,
 The Cold War: A History in Documents and Eyewitness Accounts
 New York: Oxford University Press, 2003

 本書の特徴は、時代ごとに重要な演説や文書を列挙していきながら、
 冷戦史全体の流れを描いてみせようと試みている点である。
 こうした形式を採用した理由として、本書の序文で述べられているように、
 米ソ冷戦がソ連崩壊によって一つの歴史的事象として扱えるようになったこと、
 ならびに、西側諸国だけでなく、東側諸国や第三諸国の史料公開が大きく前進したため、
 冷戦史解釈が大きく修正される可能性に配慮したことなどが挙げられる。
 二人の研究者の名前がクレジットされているが、
 著者ではなく、編者となっているのも、そうした点を加味したからであろう。
 
 各章とも、冒頭部分で、取り上げたトピックの要約が示された後、
 関連資料が並べられ、章末に10個程度の設問が掲載されている。
 全19章で構成されていて、好きなところから読めるようにもなっており、
 初学者以外でも、冷戦資料集として使うこともできる。
 なかなかお買い得なので、一つ揃えておいても良いだろう。