RADIX-根源を求めて

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健常者幻想について

2012-07-15 14:14:48 | 障害論



健常者幻想について




最近でも発達障害・ダウン症などの知的障害児のお母さん達と直接面談したり、ブログでの

記事・コメントを 読むときに違和感を感じることがあります。

それは本音なのでしょうが自分と我が子の運命を心配しての繰言です。

『何故に自分の子供に限って障害児としてこの世に生まれてきたのか』

『自分は何か悪いことをしたのか、何の報いでこの様な運命を背負わされるのかが理不尽だ』


縷々あれこれ理屈を言わないで大西赤人さんの文章を紹介します。

読後に生命観に少しでも変化があれば幸いです。





五体満足”の幻想 大西 赤人    

「障害」及び「障害者」という言葉について、多くの人々が、一定のパターン化したイメージを抱いているように思う。例えば、松葉杖をついて歩く、車椅子に乗っている、身体の部分が変形している、あるいは欠けている、動きが鈍い、不自由、言葉が不明瞭――そのような人間が、いかにもそれらしい「障害者」として人々の頭の中に浮かび上がることだろう。

もちろん実際のところ、障害は外見で判る物ばかりではなく、一見どこにも支障がないと思われる人でも、その内面に重篤な障害を抱えていたりする。つまり、障害者とは案外に曖昧な表現で、定義がハッキリしない。これと対比されるのは健常者や健全者という存在だが、まるで水と油のように分別されるにもかかわらず、二つのグループの間に境界線など見つかりはしない。両者は、黒と白とのような差異はなく、同じ灰色の中で、連続的な濃淡があるだけのことなのだ。

ところが、やはり健常・健全なる概念は強固で、特にそれは“五体満足”という言葉に典型的に現われている。この言葉がとりわけ用いられるのは、子供の誕生に際してではないかと思う。出産前後の芸能人に対するインタヴューを見聞きしていると、「お子さんに何を望みますか?」という類の質問に「五体満足でさえあってくれれば……」と答える光景にぶつかる。また、初めて我が子を見た時に「まず手足の指がチャンとついているかどうか確かめました」などと満面の笑みで語る親も少なくない。

このような親としての感情は、もちろん芸能人に限った物ではなく、世間一般のごくありふれた気持ちだろう。しかし、「五体満足でさえあってくれれば……」という決まり文句は実に欺瞞的――親が子供に関して希望や期待を抱かないことなどあり得ない話――だし、同時に、“五体満足”即ち無欠な健常者の存在を幻想している。生まれたばかりの赤ん坊にとっての“五体満足”とは一体どういう物だろうか?

生まれてきた子供の指を数え、外見上の異状がないことを確かめてホッとしたところで、それが子供のいわゆる“五体満足”の証明になりはしない。僕の血友病という先天的体質にしてみても、オギャーと生まれた途端に判ったわけではないのである。ましてや後天的に発生する様々な形でのハンディキャップについては、全く見当もつかないのだ。

僕には、今年で満三歳になった娘が一人居る。その子が生まれる際、僕は「五体満足でさえあってくれれば……」と願ったり、手足の指を数えたりはしなかった。そういう幻想は捨てようと思ったのだ。

問題は、最初に還って「障害者」の捉え方である。もちろん僕は、人間にとって病気や障害が好ましい状態とは考えない。同時に、障害なんて屁でもないとばかりに居直ろうとも思わない。CP(脳性麻痺)も筋ジストロフィーも、僕自身の血友病も含めて総ての障害や病気がなくなれば(治れば)、どんなにいいだろうという気がする。ただし、広くそれらの「障害者」について、人間としての存在価値や権利が欠けると見做すことだけが間違っているのだ。

生まれた時、一見どこにも悪い所がなく、手足の指が五本ずつついていればと“五体満足”の幻想を抱き、誕生の瞬間から「健常児」と「障害児」とを選別し、厳然たるレッテルを貼ろうとする――そんな親としての(世間的には言わば“当り前”の)想いを僕は忌避したかったのである。そして、このような“五体満足”幻想による選別は、ここで改めて触れるまでもなく、誕生以前――胎児あるいは遺伝子――の段階へドンドン遡って行く……。

人間なんて、生きている間には、プラスと思われた物がマイナスになったり、マイナスに見えた物がプラスに転化したりするにもかかわらず、「障害」という概念は、人に全く一方的なマイナスのイメージを押しつける。その一つの象徴である「五体満足でさえあってくれれば……」という言葉は消え去ってほしいと思うのだ。

http://www.asahi-net.or.jp/~HH5Y-SZK/onishi/hyor8711.htm

(『共生の理論』1987年11月より抜粋)



転載元記事 http://blogs.yahoo.co.jp/rhmfm385

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