浜を代表するカメラマン森日出夫さんの写真集「わたし」が完成した。
有名、無名にかかわらず、森さんが自分の琴線に触れた人を撮ったもの。
(昭和二十年八月十五日以前に生まれた人限定)
風景写真は言うまでもないが、森さんの人物写真はほんとに素晴らしい。
私もプロフィール写真を撮っていただいている。
特別な化粧もせず、普段通りに「ついで」という感じで森さんのスタジオに
行き、「あ、来た? じゃ、そこ坐って。はい、終わり」という感じで、五分
もかからずに終わってしまう。
でも出来上がったものは、「ねえ、修正した?」「してないよ」という問答を
毎度繰り返すほど素敵に撮れている。単に、「きれいに撮れてる」というのでは
なく、その人の一番いい角度、いい表情がしっかり表現されているのだ。
ゆうべはその出版記念パーティー。さまざまな分野の人が赤レンガホールに
集まった。有名人の顔もたくさんあったが、カメラを持って行かなかったので、
残念ながらここには紹介できない。
重くて大きな写真集を、帰宅してから開いた。
箱を開けるとまた箱。表紙には細長い鏡が……。丁寧で凝った造りになっている。
そこに登場する人物は、当然ながら浜ゆかりの人が多い。
知人、友人の顔がいくつも……。
中でも繰り返し眺めたのが、もう亡くなってしまったこの二人。
シャンソン歌手の永登元次郎さんと作家の平岡正明さんである。
永登元次郎さん

元次郎さんは大ヒットしたドキュメンタリー映画「ヨコハマメリー」に
ハマのメリーさんとともにもう一人の主役として登場している。
いまから14、5年前、私は浜にまだ友達が一人もいなかった。
あるシンポジウムにパネラーとして出たのだが、その際、浜には
「メリーさん」と呼ばれる元街娼の老女がいて、白塗り、白いドレス
という姿でいまも関内や関外あたりをさまよっている……という話を耳にした。
ぜひそのメリーさんを見てみたい、とシンポジウムの担当者に言ったところ
紹介されたのが、メリーさんの写真集を出していた森日出夫さんだった。
森さんに案内され、浜の風俗街である福富町を歩き、一軒のビルの
エレベーターホールで椅子を二つ並べて寝ているメリーさんを目撃した。
その夜のうちに、メリーさんの面倒を親身になって見ている人、として
元次郎さんを紹介された。元次郎さんのシャンソンを聴いたのもその時が
初めてだった。
後日、元次郎さんが経営するシャンソニエ「シャノアール」へ行った。
そこに置いてあった本が、平岡正明・編の「ヨコハマB級譚ーハマ野毛
アンソロジー」だった。
これがいままでお目にかかったjこともないようなおもしろい本で
私はアンソロジーではなく、すべてを読みたくなった。そして発行元
である「野毛まちづくり会」に電話をした。
平岡正明さん

そこから、私の浜が始まった。すべてはこれがスタートだった。
元次郎さんにも平岡正明さんにも、ほんとうによくしてもらった。
二人とも、正直でやさしくて勇敢で、周囲への愛に溢れていた。
時々、「わたしはひとりぼっちだ」という気分になって落ち込むが
それは傲慢というものだろう。これまでどれだけ、いろんな人にやさし
くしてもらったことか、森さんの写真集があらためて思いださせてくれた。
掲載した写真は二枚とも、森日出夫さんの写真集のページを、私が
デジカメで写したものです。ぜひ実物を本物の写真集でごらんください。
税込み3万円と、少々お高い値段ではありますが、間違いなく横浜史
に残る写真集です。
お問い合わせはフイルムハウス 045-201-4876