不安な戦争の時代、彼女の歌声と生来の美貌は
人々に大きな癒しを与えました。
「支那の夜」「蘇州夜曲」「何日君再来」など、
中国を舞台にした歌はことに大ヒットし「チャイナメロディーの女王」
と呼ばれました。
終戦時、慰問先の奉天で捕虜として拘束されますが、
無事に帰国し、幸せな結婚をして一児を得ます。
その後も「桑港（サンフランシスコ）のチャイナタウン」が
大ヒットし、昭和5１年の紅白歌合戦では、紅組のトリをつとめました。
が、華やかな表向きとは異なり、彼女の心には大きな憂いがありました。
戦争中、自分は軍の依頼で何度も戦地を慰問に訪れた。
兵士達を歌で鼓舞し、戦争へと送り出した。
軍の依頼は命令に等しかったとはいえ、あの戦争に、
自分がなんの責任も負っていないと言えるだろうか……と。
多くの人が、「自分ではない誰か」のせいにしていた戦争責任。
渡辺はま子という一人の女性は、誰に責められたわけでもないのに
みずからその重荷を背負ったのです。
昭和26年、フィリピンのモンテンルパにあるニュービリビット刑務所に
１００人を超す日本人戦犯がいることを、彼女は知ります。
フィリピンで戦争犯罪を犯したとされるＢＣ級戦犯達です。
死刑、あるいは無期懲役を宣告され、実際、次々と死刑が執行されて
いたのですが、その刑を決めた裁判は、決して公平とは言えないものでした。
敗戦国日本は、その裁判結果に従うしかなかったのです。
はま子は即座に、戦犯達と文通を始めます。
のみならず、戦犯の家族達と会い、励まし続けます。
ある日、戦犯達からひとつの歌が、はま子のもとに届きました。
日本への望郷の念を詠った「ああ、モンテンルパの夜は更けて」
作詩も作曲も、音楽には素人の戦犯です。
はま子はレコード会社に働きかけ、その歌をレコードにしました。
素人が作った暗い歌なんか……という、おおかたの予想を裏切り、
歌は大ヒットしました。
その年のクリスマス。はま子は直接、戦犯達を力づけるべく、
国交がなかったフィリピンへ旅立ちます。
灼熱の刑務所で、故国の大歌手を迎え、その歌を聴いた108人の戦犯達。
はま子の勇気は、戦犯達に希望を取り戻させたばかりでなく、
当時のフィリピン大統領キリノ氏や、その周辺をも大きく動かしました。
そしてついに、奇跡が起きたのです！
この芝居の初演は、2000年（平成１２）のことでした。
私にとっては初めて手がけた舞台脚本です。
渡辺はま子を演じるのは、横浜夢座を率いる五大路子さん。
当時、「戦犯」達から届いた、おびただしい数の手紙を読み、
その時代に思いを馳せながら、私も自分自身に、なにかを
突きつけられた思いがしました。
芝居は多くの人達の協働作業ですが、たいへん好評だったのは
ほんとうに嬉しいことでした。
あれから14年。
夢座15周年記念として来年１月に、この舞台が再演されることになりました。
来年は終戦から７０年。
芝居は演出の遠藤吉博さんの手によって、素晴らしいエンターテイメントに
仕上がっておりますが、楽しみながらも、戦争とはなにか、戦争責任とは？
ということを、どこかで考えていただけたらと願っております。
役者さんもがらりと変わり、新演出も加わっています。
初演をご覧になった方も、また別な感慨を持って観ていただけるはず。
浜公演が終わったら、６月には東北各地での公演も予定されています。
日時 平成２７年１月２４日（土）～３１日（土）
会場 ランドマークホール （ランドマークタワー５Ｆ）
料金 一般前売り５５００円（当日６０００円）・学生前売り３５００円（当日４０００円）
チケット取り扱い 浜夢座事務局 ０４５－６６１－０６２３
チケットぴあ ０５７０ー０２－９９９９ Ｐ－４４０－５８３
ローソンチケット ０５７０－０８４－００３ Ｌコード：３４１２０
カンフェティ ０１２０ー２４０－５４０
公演日程
１月２４日、２５日、２６日、２８日、２９日、３１日は１４時からの昼公演のみ。
２７日は昼が貸し切りで一般は１９時からの夜公演のみ。
３０日は１４時、１９時の二回公演。
お問い合わせはこちらに。
浜夢座事務局 ０４５－６６１－０６２３
夢座サイト http://www.yumeza.com/
