

昨年の11月末、出雲の荒神谷博物館で
「銅鏡研磨セット」を購入した。
小皿くらいの大きさ。
古代の祭祀に使われた銅鏡をミニチュアにしたもの。
銅鏡はいつも裏面が話題になる。
その模様によって作成年代や国などが推定されるからだ。
でも他に鏡にできるものがなかった時代には
やはり歴史上のセレブ女性など、銅鏡を鏡としても
使用していたのではないだろうか。
楊貴妃とかクレオパトラとか卑弥呼とか……。
なんてことを想像しながら、セットに入っていた
五種類のペーパーで、せっせと表面を磨いてみた。
いやあ、こりゃなかなかたいへんだわ。
きれいに光ってはくるのだが、最後のペーパー仕上げをして
覗き込んでみても、ぼうっと、顔らしきのっぺらぼうが映るだけ。
実物の銅鏡は中皿くらいの大きさだが、
おそらく、当時の職工達がもっと時間をかけて磨いたのだろう。
クレオパトラは化粧が濃そうだけど、これで
アイラインなんかきっちり描けたのかしらん。
天の岩戸に隠れた天照大神は、外で歌い騒ぐ声を聴き
思わず戸を開けて覗き見た。
そこへさっと、鏡が差し出された。
これが現代の鏡なら、「やだ、あたしじゃない、これ?」
と、気づいたかもしれないが、ぼんやりと人の顔が
映っている程度だったから、「誰、この人」と思わず
身を乗り出したのだろう。
そこをすかさず引っ張り出されてしまったのだ。
というわけで手鏡にはならないが、あれこれと
古代の物語を空想するよすがになる。
そのうち不思議なものが見えてくるかも……。