私の煙草嫌いは周囲によく知られている。
仕方がない。
あの煙を吸うと喉と目が痛くなる。
体調が悪いときは頭痛になり、吐き気に襲われる。
嫌煙権なんて言葉すらなかった頃は、ほんとうに辛かった。
いまは会食の際など、そばで誰かが吸おうものなら
はっきり言ってしまう。
「すみませんが外で吸ってください」
愛煙家からすれば、さぞかしうざったい存在だろう。
暑いにつけ寒いにつけ、屋外へ追い出されたのでは
癒しも半減するに違いない。
でも、私だって決して気分がいいわけではない。
ある時、4人で食事に行ったら、私を除く3人が喫煙者だった。
3人揃って店から出て行き、外で楽しそうにお喋り。
1人、席に残された私はいたたまれなかった。
愛煙家はまだまだ多い。
いまからでも煙草に慣れようかしらん。
気の弱い私はそう考える。
思い切って、吸ってみよう……と。
コンビニへ行って、レジのうしろにある煙草の棚を眺めた。
「どれにしますか?」
レジのおねえさんが、早くしろとばかりに言う。
私は焦り、頭に浮かんだ唯一の煙草名を口にする。
「マ、マイルドセブンをひとつください」
「年齢確認のボタン、押してください」
押しました。
おどおどしてはおりますけどね、還暦を過ぎた大人なんです。
うちに帰り、さっそく一本取り出してベランダへ。
やっぱり室内ににおいが残るのはいやだから。
一服、二服……。
あら、おいしいでないの!
やだ、私ってば、いまごろになって「煙草の似合う大人の女」
になっちゃう?
しかし、おいしいのは二服までだった。
三服、四服で、もうお手上げ。
鼻孔と喉がひりひりと痛みだし、口内はいがらっぽさでいっぱい。
あわてて室内へとってかえし、キッチンで水をかけて煙草を消した。
追いかけて頭痛、吐き気。
迷わず、一本しか吸ってないマイルドセブンを箱ごとゴミ箱へ。
あれから何時間もたつが、まだ頭痛が残っている。
哀しいが、煙草の似合う大人の女にはなれなかった。
体育座りする不良高齢者にもなれない。
いいんです。
会食の際は私を置いて外で楽しくやってください。
1人でお茶飲んで泣いてますから。
