冬桃ブログ

こんな大金をもらっても……

 インターネットの中には、無料で遊べるゲームがわんさとある。
 私もいくつか簡単なものをやっていて、朝、パソコンを立ち上げ
メールチェックを終えるとさっそくとりかかる。
 ジグソーパズル(細かいのをやってすっかり目を悪くした)とmixiのアプリ。
 
 中でもはまっていたのが、比較的最近始めた「はじめようマイ・バー」。
 ウェブの中で自分の店を創り上げていくというものだが、最初はささやかに
店員一人、バーテンダー一人くらいから始める。
 マイ・ミクと呼ばれるmixi仲間が同じゲームをやっていれば、彼らを店員に
雇うことができる。
 クレジット決済でお金を出せば、最初から立派なバーができるようだが
私は無料ゲームしかやらないので、現実のお金は決して使わない。
 ゲームの中のバーチャルなお金だけ。

 そのお金を得るにはお客さんに来てもらうことなのだが
ぽつんとカウンターがあるだけの淋しいバーだからなかなか儲からない。
 そこはよくしたもので、お金を得る手立てはほかにもある。
 ひとつはマイ・ミクさんのバーへ行って、そこの掃除をすること。
 ゴミを一つ拾うごとに金貨一枚、もらうことができる。
 さらにはそのバーの外へ出て街中の木や人や猫などをクリックする。
 すると、金貨が飛び出してくることがある。
 
 私のマイ・ミクさんは十人ほどいるから、毎朝、十軒ほどのバーを回って
中の掃除、外の宝探しをするわけだが、なんとこの作業に一時間くらいは
ついやしている。

 こうしてささやかにお金が貯まると、少しずつ内装を充実させていったり
店員に可愛い浴衣など買ってあげたり、外観も変えてみたりして、ひとりで
喜んでいた。

 しかし日々の稼ぎは少なく、ちょっとしたことでなくなるのでいっこうに
貯金が増えない。これではいけない。いずれ店を拡張して立派な設備を
整えるためには、そのための資金がないと……。

 そうした時、「設備」の中にあるスロットマシーンが目についた。
 私の店は落ち着いたカフェバーだ。カラオケだのスロットマシーンだのは
決して入れたくない。雰囲気が壊れる。
 
 そう思っていたのだが、儲かりそうだからちょっとの間だけ、そう資金を
貯める間だけ、と自分に言い訳し、持ち金はたいて二台買った。

 これがほんとうに儲かる。客がいつもマシンにとりついてる。
 そのうち、客がマシンを使わなくても、一定の時間がたつと勝手に
マシンの上にお金でいっぱいになった袋が出現するようになった。
 私はがぜん、金儲けに走り、もう二台購入した。
 上品で静謐な店……というポリシーからはあっというまに外れてしまったが、
貯金ができるという誘惑には抗しがたかった。

 そしてようやく5万円貯まった。嬉しいな、もっと頑張って、せめて
十万円貯めなきゃ……と張り切り、私はいっそう、よそのバーのゴミ拾いに
精出したのだ。

 なのに、なのに……。
 昨日、とつじょとして預金が増えた。その増え方がハンパじゃない。
 五万円台だったものが、いきなり七千万円台!

 数日前、mixiのサーバがダウンしてつながらないというトラブルが
あったが、この大盤振る舞いは、お詫びの意味もあるのだろうか。
 まあ、しょせんバーチャルなゲームなのだから、どれだけバーチャルな
数字を上乗せしようがmixiのふところはまったくいたまないだろうが。

 けど、その多額な数字を前にした私は、しばし茫然となった。
 ともかくこんなにあるんだから、いままでみたいにけちけちしないで
ぱっと使わなきゃ。

 店の内装を総取っ替えし、店員の浴衣も新しいものに替えた。
 テーブルや椅子は前に買って仕舞ってあったものを使った。
 こういうところに生来の貧乏性が出る。
 でもスロットマシンは二台に減らした。

 これだけ使っても貯金は減らない。まだ七千万円代。
あとは使い道がわからない。 

 嬉しいはずなのに、なんだか突然、つまらなくなった。

 考えてみれば、朝晩、よそのバーへ行ってひとつひとつ床のゴミを拾い、
金貨を一個ずつもらうのは、私の大きな楽しみだった。
 街中の木をクリックして、そこから金貨が五枚も落ちてくれば欣喜雀躍だった。
 でもこんなにお金持ちになったからには、そうして小金を稼ぐことになんの
歓びがあるのか。
 毎朝、一時間くらいもこの作業についやすことを、これまではちっとも
無駄だと思わなかった。でもいまは意味がない。
 あと、やることは、このお金で、たいして欲しくもないものを買うことだけ。

 宝くじで一億とか三億とか当たったら……なんて話を冗談でするが、自分の
才覚以外のところで大金を得ても、案外、どぶに捨てるような使い方しかできない
のかもしれない。

 しかしまあ、こうなったからにはゲームにはまってないで、もうちょっと仕事に
精出すべきでしょう、私も。
 現実世界では、小金を貯めることすら難しい気もするが……。
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