冬桃ブログ

加害の歴史~731部隊

 S村滞在中、信濃毎日新聞を読んでいた。
 そこに731部隊の特集連載があった。
 私は興味深く読み続けていたが、飯田市には平和祈念館があり、
そこでも特集展示を開催していることをこの記事で知った。


 満蒙開拓団として旧満州へ移住した人の数が、
長野県は全国一だったという。
 下伊那郡阿智村には満蒙開拓平和記念館があり、
私も一度、そこを訪れたことがある。
 なぜそれほど多くの人が日本を出て満州へ渡ったのか。
 昭和初期における農村経済は疲弊しきっていた。
 だから政府が大宣伝を行った満州の大地に、
人々は希望を託した。
 が、飯田市平和祈念館で解説を聴きながら展示を
観たおかげで「貧困」にプラスして別の大きな要因
もあったことを知った。

 長野は大正時代から自由主義教育が盛んで、昭和に
入ってからも、教員や労働者を中心に、左翼的な
教育運動が拡がっていた。
 ところが満州事変が勃発し、軍国主義が台頭すると
こうした運動に対する締め付けが急激に強くなった。
そして昭和8年2月4日から、治安維持法を盾にした
大検挙が半年間にわたって行われた。
 長野の歴史に残る「二・四事件」がそれである。

 国際的な批判を浴び、孤立しながらも、日本は強引に
中国を侵略し、満州に傀儡国家「満州国」を建立した。
 「王道楽土」という華々しいスローガンの下、より良い
暮らしを約束された(はずの)人々が、こぞって渡満した。
 「二・四事件」を目の当たりにし、 「お国のため」に、
という教育がより強く行われたこの地では、満州こそ
自由と希望の地だったのだろう。
 満蒙開拓青少年義勇団として送り込まれた幼い少年達を
含むその方たちの半数が期待を裏切られ、栄養失調や
戦闘のため、帰国できないまま命を失ったという。

 731部隊は満州にあった関東軍の組織である。
 細菌兵器の開発や、捕虜を使った人体実験がここで行われていた。
 この夏、逝去された作家・森村誠一さんの大ベストセラー
「悪魔の飽食」で、初めてその残虐無比な内容を知った人も
多かっただろう。
 信濃毎日の特集によれば、当時の名簿の分析により、
731部隊に所属していた県内出身者が107名。
 内、上伊那郡出身者が17名いたことがわかった。
 その方たちの中には、あえて名前も顔も出し、ここで
何が行われていたのか話したい、という方もおられたそうだ。
 誰だろうと、たとえそれが軍政下の命令で行われたことであろうと、
アウシュビッツさながらの残忍行為に自分が加担したことなど
世間に知られたくはないだろう。しかも何も知らされないまま、
そこへ配属された人も多い。
 しかし戦争という事態になるとこういうことが起きることを
事実として話しておきたい。しかも自分の名前も顔も出して……
という方がおられたのだ。

 残念なことにその展示は、昨年、教育委員会の配慮で見送られた。
 刺激が強すぎる、ことに子供たちに対して……ということらしい。
 そして今年、ようやくその一部が公開された。
 所属していたある方が持ち帰った物が展示されている。
 医学書などに混じって薬品らしきものもあった。


 松本清張さんは、昭和23年、東京都豊島区の帝国銀行で
銀行員ら12名が殺害された「帝銀事件」を、小説の
かたちをとって731部隊とからめて書かれた。
 持ち帰られた品々を観た私は、その小説を思い浮かべ、
背筋を凍らせずにはいられなかった。

 横浜に帰ると、溜まっていた朝日新聞に、この展示の
ことが紹介されていた。NHKでも放映されたようだ。
 朝日新聞では、日本軍が(というより日本が)、阿片を
中国に売りつけ、資金源ににしていたという記事も
大きく出ていた。
 私も以前、オールド上海と称された戦前・戦中の上海、
及び旧満州だった大連、長春へ行き、当時の歴史を
学んだことがある。
 松本にできたばかりの川島芳子(東洋のマタハリ
と呼ばれた女性で清朝の皇族)記念室も訪れ、そこで
会った芳子の親族にあたる人から「上流社会ではみんな
お茶を飲むように阿片を吸っていた」という話も聞いた。
 庶民向けの阿片窟も無数にあったようだ。
 (川島芳子のことは「歴史を騒がせた❝悪女たち❞」(講談社)
という拙著、評伝集の中で書いた)

 戦争の歴史はたくさん語り継がれている。が、こうした
自国が他国の人々に行った「加害」の歴史はあまり語られてこなかった。
 でも、絶対に避けて通ってはいけないことだと私は思う。

 詳しいことは以下のサイトでぜひ! 
 
NHK長野WEB特集
https://www.nhk.or.jp/nagano/lreport/article/000/61/

信濃毎日新聞デジタル(有料)
731部隊の記憶
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023080801172

朝日新聞デジタル(有料)
(満州 阿片でできた〝理想郷〟)阿片にまみれた傀儡国家。
https://www.asahi.com/articles/DA3S15718500.html
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「雑記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事