(日活映画100年の青春)
その中に「密航0ライン」というのがあり、昔の黄金町が
出てくるというので観に行った。
1960年(昭和35年)の映画で監督は鈴木清順。
主演は長門裕之、小高雄二。
ライバル関係にある新聞記者二人が、麻薬の密輸ルートを
探っていくというストーリー。
映画が始まってしばらくすると、両岸にバラックが林立する
汚い川が出てきた。
その前のシーンは東京。そこから横浜へ……という
説明が何もないので、前もって「横浜の大岡川が
出てくる」と聞いていなければ、当時を知らない私など
そうとはわからなかっただろう。
この頃の大岡川、黄金町付近を写真で見たことはあるが、
動画で観るのは初めて。
昔の黄金町が出てくる映画といえば黒澤明監督の
「天国と地獄」が有名だ。
麻薬中毒者や娼婦が薄闇の中でうごめいているという、
文字通り地獄のようなシーン。
でもあれはセットだろう。
「密航0ライン」はロケだ。
川に突きだしたバラック、中から人が次々と出てくる
だるま船……すべて本物。
よくここで撮影できたものだと感心する。
桜木町近くの大江橋や中華街も登場するが、
まだまだ焼け跡を引きずっているかのような混沌とした様相。
この時代の横浜を実際に見たことがない私には
とても新鮮で興味深かった。
シネマ ジャック&ベティのサイト
http://www.jackandbetty.net/
東京のシーンでは美容整形専門の病院が出てきたのに驚いた。
美容整形って、この時代からそんなに盛んだったのだろうか。
「香港に女が売られていく」という台詞もなんだか懐かしい。
昔、若い女性が行方不明になったりすると、
「香港に売られたのかも」なんてことが囁かれたものだ。
いまは外国の女性が人身売買で日本に送り込まれてくるが、
この頃の日本はまだ貧しかった。
女性が香港に売り飛ばされても不思議ではなかったのだ。
偶然だが数日前、「喜劇 にっぽんのお婆ちゃん」
という映画を観た。1962年の公開。
今井正監督の松竹映画で、最近、WOUWOUで放映された。
主役は北林谷栄とミヤコ蝶々だが、他にも飯田蝶子、
浦辺粂子など、お婆さん役で有名な女優がこぞって
出演している。
北林谷栄は養老院住まい、ミヤコ蝶々は息子夫婦と同居の身。
どちらもそこに居づらくて、抜け出してきた。
宛てもなく浅草をぶらつくうちに知り合い、
一日、一緒にいることに。
「喜劇」と銘打ってはいるが、笑える話ではない。
社会の中で居場所をなくした年寄り二人、互いに
自分の寂しさ、寄るべなさを打ち明けられないまま、
一緒にとぼとぼとさまようのだ。
観てて切なくなる。
驚いたのは、ミヤコ蝶々が65歳という設定だったこと。
私の年齢ではないか。
でも腰は曲がってるし、よぼよぼしてるし、80歳くらい
の役かと思った。
70歳過ぎという設定の北林谷栄に至っては、
どう見ても90歳超えてるでしょうという感じ。
そう、だからこの頃、日本は貧しかったのだ。
貧しいと、人は早く老ける。心もすさむ。
ミヤコ蝶々が同居する息子の家は普通のサラリーマン家庭。
でも、「三丁目の夕日」に描かれたような
ほのぼのとした人情など漂っていない。
年寄りが大切にされている様子もない。
個人の家庭も養老院も、ギスギスしたいがみあいばかり。
これはこれで現実だろう。
いまは65歳だろうと70歳だろうと、
昔ほど外見も当人の意識も老けてはいない。
でもそれで幸せかというと、そうともいえない。
「アンチエイジング」なんて言葉もあるとおり、
いつまでも若く元気であることを強いられる。
これはこれで、素直に年取りたいと思う私などは辛い。
かといって、昔のように早々と年寄り扱いされても
気分の良いものではないし……。
結局、人間はどうあっても満足できない動物なのかも。
(いや、これは人間というより個人の問題かな)
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