「ゆり子さんの家に行きませんか? 藤の花があと二、三日で終わっちゃいそうだから」
ああ、いま仕事がきついところで……と思ったが、ゆり子さんの家ならなにを置いても
いかねばならん。私のパワースポットのひとつだから。
約束の時間より一時間早く行って、まず横浜市こども植物園へ(南区)。
名称に「こども」がついているからといって、遊園地もどきを想像してはいけない。
ここは小麦の研究や種子植物の染色体発見、種なしスイカの開発などで世界的に有名
な遺伝学者、木原均博士の研究所があったところである。木原生物研究所は横浜市立大学
に移ったが、貴重な研究の場となった自然環境は横浜市が受け継ぎ、「こども植物園」と
いうかたちで保存されているのだ。
起伏のある広い敷地内には巨木が茂り、薬草園や野草園、さまざまな品種の柿の木な
どがあり、まさに植物の宝庫だ。
市があまり宣伝していないせいか(ここのホームページのそっけなさったら!)、
休日でも人はそんなに多くない。まあそのおかげで静かな散策を楽しむことができる。
ゆり子さんは木原均博士のお嬢さんである。何度かお宅に伺わせていただいたが、
木々と花に囲まれた家は、ちょっとした異次元空間。
決して豪華なお宅ではなく、古いカントリーハウスといった感じの、むしろ質素な家
なのだが、大きな窓いっぱいに広がる緑、覚えきれないほど多種類の花、鳥の声、風のそ
よぎ、そして部屋の隅々にまでいきわたったゆり子さんのセンスで、私にとってはなん
とも居心地の良い非日常空間なのである。
家の前に群生しているカモミールの花を摘んで、カモミール・ティーをいれてくださ
った。S氏とその友人も合流して笑いっぱなしのお喋り。
いつまでも、ここでこんな時間を過ごしていたい気分だったが、ほどよいところで切
り上げ、またそれぞれ現実の世界へ。
仕事は遅れたけど心身ともにリフレッシュ……といい気分で帰宅したら、もう季節は
過ぎたはずの花粉症が再発。鼻はかゆいわ、喉は痛いわ、眼はしょぼしょぼするわ……。
まあ、花の精がうちまでついてきてくれたんだと思うことにしよう。
ボリジ。ハーブの一種。ワインに浮かべたり砂糖漬けにしてケーキに飾ったりする。
「マドンナブルー(聖母の青)と呼ばれる青い花がよく知られているが、これは白。

カモミールの群生

ベランダ

庭の一部
