冬桃ブログ

ザンジバルの革命家

 先日、本牧の「ジャスリン」で会食した中に、初対面の島岡強さん
という人がいた。痩身で背が高い(180センチ)。鷹のように尖った顔、
鋭い眼差し。一度会ったら忘れられない風貌である。
 
「先憂後楽」という言葉が座右の銘だと彼は言った。
「ああ、なるほど」と私は頷いた。「先にあらゆる心配をしておけば
後から、ああそれほどでもなかったと楽な気持になれるわけですね」
 「ちがうよ!」と、彼は叫ぶように言った。
 こいつ、ほんとに作家か? と呆れたに違いない。
「世の中の誰よりも先に憂い、誰よりも後から楽しむ」という意味だという。
「俺は革命家だから」と、彼は付け加えた。
 奥さんが一緒だった。由美子さん。彼女も背が高い。穏やかできれいな人。
 二人はもう23年間もアフリカのザンジバルで暮らし、漁業、運送業、
アフリカ製品の輸出という仕事をしておられるという。島岡氏は柔道の師範でもある。
 それでなぜ革命家なのか。後日、由美子さんの著書を読んでようやく理解した。
 
 ともかくその夜は、どういう人なのかよくわからないまま食事をして
雑談していたのだが、「男の魅力」といった話になった時、島岡氏が
昂然と言い放った。
 「男に魅力がなきゃ、女がついてこないのはあたりまえだよ」

 妻を横に置いて堂々こういうことを言える男性に初めてお目にかかった。
 20数年も夫婦でいて、妻からいまだに「魅力的だ」と思われている自信が
よほどある男性でないと、妻同伴の席でこんな台詞は吐けない。
 たいていの男は外でどんなにもてようと、妻の前では偉そうな口など
きけないものだ。
 でも彼は、(いい意味で)少年がそのまま40代になった男の口調で
「あたりまえだろ!」と繰り返した。

 その日の食事代は割り勘という暗黙の了解があったのだが、いざ、お金を
払う段になると、島岡氏が「飯代は男が払うもんだ。女に払わせることは
できない」と言い張った。女は彼の奥さんを入れてそこに四人いたのだが
彼は断固として払った。
 おまけに、私の帰りのタクシー代(3000円)も、さっと運転手に渡した。
 由美子さんは何も言わず、そばで微笑していた。

 由美子さんが書いた本があるというので、さっそくアマゾンで探してみた。
 どういう人達なんだろ、この夫婦、という好奇心にかられたのだ。
 その本は2003年に朝日新聞社から出ていた。「我が志アフリカにあり」。
 もはや古本しかなかったが、さっそく注文した。

 いやあ、おもしろかった! 夢中で読んだ。

 自分で「革命児」を名乗る島岡強氏との出会い、「革命は武力で政権を
ひっくりかえすことだけじゃない。その国の人がよりよい方向に向かって
生きられるよう改善していくことだ」という強氏の信念、そして彼にとっての
「その国」は、差別と貧困にあえぐアフリカであることを知ったが、ほんとの
意味で理解しないまま結婚したこと。
 親は当然ながら危惧し、あろうことか強氏の父親には「息子には革命の志がある。
あなたは邪魔になるだけだ」とまで言われたのに、彼女は彼についていったのだ。

 どこかの国を支援しようとする時、多くの人はNPOだのNGOだのを
つくり、寄付金や補助金を募る。けれども島岡氏は違った。
 なんの援助もなくザンジバルに住み着き、地元の人達とまったく同じ
暮らしをすること、そしてみずから一次産業につくことから始め、一人で
「革命」に取り組み始めたのだ。
 由美子さんは彼を愛していたものの、文化や風土の違いに苦しんだ。
 来る者拒まずという夫のせいで、家にはアフリカ人も日本人もたえず
出入りし、お金も払わない。あたりまえのように世話を受ける。
 由美子さんは怒り、ヒステリーを起こすが、夫の信念はかたときも
揺るがない。どんな困難が降りかかろうと、「志にそって生きてる者に、
天が味方しないわけはない」と応じる。人に裏切られようが国外退去命令を
受けようが誰も恨まず、泣き言を言わず、「革命」に邁進していく。
 そうするうちに由美子さんは重度のマラリアにかかり、あやうく命を
落としそうになる。
 そんな目にあえば、「やっぱりこんな人についてアフリカなんかに
来るんじゃなかった」と思うのが普通の女だと思うのだが、彼女は違った。
 熱に浮かされながら、「ちゃんと信念を聞かされ、その上でアフリカに
来ていながら、夫を心から理解していなかった自分がいけなかった」と
深く反省するのだ。
 マラリアを克服してからようやくほんとうの夫婦になれた、と由美子さんは
述懐する。行間から夫に対する愛と信頼が溢れるようで、読んでいて
じつに気持がよかった。
 島岡氏の、「男に魅力がなきゃ女はついてこない」という言葉、そして
由美子さんの静かな微笑のわけが、読後、私にもようやく理解できたのである。

 彼らはアフリカのアーチスト紹介にも取り組んでいる。
 もうすぐ「アフリカン現代アート ティンガティンガ原画展」が
開催されるそうだが、私もぜひ出かけてみたいと思っている。
 横浜は4月24日から5月6日まで。
 中区日本大通14の「ギャルリー・パリ」にて。(入場無料)
 ギャルリー・パリ
http://www.galerieparis.net/guide.html 



 



 
 

コメント一覧

冬桃
革命家を夫にすると
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
冬瓜さん

 革命家は絶対、よき夫になれないと思うのですよ。
 由美子さんも苦労なさったようですが、それ
を乗り越えた時の絆は素晴らしいものがありますね。
冬瓜
すごい人ですね
全く知らない人だったので、ネットでいろいろ調べてみました。
こんな日本人がいたんだ、と嬉しくなりました。
なんだかキリスト教的なものも感じます。
さっそく本を読んでみたいです。
いい話を教えてくれて、ありがとうございました。
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