ミッドナイトヴァージン Production Note

WEBノベル『ミッドナイトヴァージン』の本条靖竹のブログです。

「面白さ」という謎

2008年03月14日 18時32分54秒 | Weblog
「面白さ」ってなんだろう?

これは私が一貫して考えてきた事です。テーマといってもいいです。
多分、高校生の時に、初めて演劇のシナリオを書いた時から考えていたと思います。
(ここでいう面白さって、もちろん笑ったりするだけじゃなくて、奇抜さや悲しさも含めた総合的な、「目が離せないっ!」て感じでしょうかね)

人が貴重な時間を割いて、演劇や映画やアニメを見るのは、面白さを感じたいからですよね。だから自然と、作る側の人間は「面白さという謎、秘密」を解明しようと、核心に迫ろうとするはずです。そうじゃないと嘘です。
言い換えれば、作り手は「面白さ」という謎に挑んでいるミステリーの登場人物のようなものだと思っています。
(もしかしたら賢い「読み手」も、観客としてそのミステリーに参加しているのです)
作っている側の人間で、そういうことを考たことのない人は、私には信じられません。(けっこういるんですけどね……)

そしてたぶん、面白さを保証する十分条件はありません。

はい、いきなり結論がネガティブですね(笑)。色んな流行はありますが、これさえあれば傑作、っていうのはないと思います。
あの宮崎駿監督のアニメでさえ、最近の評価は芳しくありませんよね。あの天才的でマルチな才能をもってしても、必ずしも傑作にはならない。保険なんてビタ一文きかないのです。どんな優れた脚本家でも、外れはありますね。なぜなのか?

当たり前なんですけど。作画が乱れてない事だったり、派手なアクションでバンバン銃を撃ったり、かわいい女の子がいる事はいいことだけど、それをもってして傑作とはならない。お話がいい、だけでもダメな気がします。名作だけど地味な作品って、あんまり読まれないでしょ? 結局はいろんなものの複合で、「いい具合に化学反応」が起きている時に傑作が生まれるんでしょうね。それに面白いだけでいいのか? もっと現代社会に切り込むテーマ性が……なんていう問題も発生したりするかもしれません。考えるたびに、混沌としてしまいます。

一つ注意したいのは、理詰めで作品を作っても、面白くはならないだろうという事です。
こういう理論でつくった、みたいな作品って、ちっとも面白くないんですよ。
私もそうですが、左脳派の人が陥りやすい罠だったりします。

例えば、「起承転結」とか「序破急」だとか、「漫画入門」「ハリウッドシナリオ構成術」だとかをベースにして、流行やマーケティングをもとにした、理屈でそつのないお話を作ることはできるんですよ。
過去の名作映画とか古典を参考にしたりして、主人公やヒロインが活躍して、綺麗にまとまる、みたいな。
映画だったら大体90分以内にまとめて、何分おきにアクションシーンがあって、みたいにある程度王道パターンがあります。
でもそれだけじゃ、愛される映画にはならず、「歴史のゴミ箱」行きになると思うんです。

勿論、そういった理論的なテクニックをトレーニングすることはとっても重要だと思います。自分だって、学生時代から今まで、古今東西のありったけの作品にできるだけ触れて、記憶や資料をストックしています。

評論家で漫画原作者でもある大塚英志さんは、形式的に物語を作るテクニックを本にしてらっしゃいますけど(『キャラクター小説の作り方』、『物語の体操』)、やっぱりそれだけじゃあ、物語を読んだり書いたりする動機にはならないんですよ。大塚さんはもちろんそれを知って書いてらっしゃますね。だって、そんな技術で作った作品なんて、どっかで見たようなキャラと作品になるに決まっています。大事なのはなにか「飛び抜けたもの」があって、それを見せるためのテクニックでなくては本末転倒です。

あー、どっかで見たようなお話だなぁー、っていうのは、それで多少の生活費は稼げるかもしれないけど、面白くはない。業界内でも注目されないし。そもそも見ている人が夢中になったり、いいもん見たなって思ってくれる作品を作るために業界に入ったりするわけですよね。どっかで見たような劣化コピーを作るために業界に入ったわけではないのに。

だからといって、理屈を考えなくていいのかっていうと、そんなことはありません。構成力や筋の通った展開は大切なことだと思います。きちんと考えた上で、もう一つ作品をドライブしていく「何か」が必要だと思うのです
才能のある知り合いの漫画家さん達を見ていると、とてもカンが良いというか、こういう風につくればきっと面白くなるだろう、という直感が優れている人が多いですね。

ちょっと話の焦点を絞りましょう。
私の関心は、やっぱりシナリオと演出にあります。なぜって、自分は絵が描けないからです。音楽も作れないし。
絵が描けない、描かない人間は、作り手としては、それ意外の部分で頑張らないと存在を許されません。

そして困ったことに、誰でも文章は書けるから、文章書きになりたい人は多いと思います。
それでも「面白い作品とは何か」って事がわかってものを書いている人は少ないと思います。(「これをやりたい」っていう人は多いと思いますけど)
『ヒカルの碁』で言うところの「50年やってもわからない神の一手」みたいなものかもしれません。

さらに、シナリオの良さって評価されにくいのです。
業界の平均ギャランティや印税も驚くほど安いし。1KB(500字)あたりいくら、とか原稿用紙で何枚、っていう換算ですし、自然と水増しされた無駄な文章が多い、ギャルゲーみたいに長大で複数のストーリーを分担したりすると、混乱したシナリオになりやすい仕組みがあります。
(そもそも文章なんて短いほうがいいに決まっています。簡単な事を難しく書いたり、長ったらしく記述するなんて下手な人のすることです。)

売り上げはどうしても原画や音楽といった部分で決まるから、お客さんを呼べるライターなんて片手で数えられるくらいじゃないでしょうか。

そのわりに、アニメやゲームを見ていて、絵はいいけどもうちょっとシナリオが……なんてことが多すぎると思います。多少の作画の崩れなんて、まぁ残念ではあるけど、かわいいものです。初代ガンダムなんて作画ひどい回ありますよね。でも目が離せない。シナリオや演出、声優の芝居などが的確だからなんです。そして、演出も声優の芝居も、良いシナリオがあってこそでしょう。

もうちょっと、シナリオについて考えてもいいんじゃないかね、なんて、思うんです。

一応、MVはそういった自分の考えの成果物として、作っているつもりです。結果はというと、できてる部分もあるし、うーん、道半ばという感じでもありますね。

自分は物語が好きなんです。そして、物語作りを考えることって、物語を読むことと同じくらい、スリリングで面白い事だと思うんです。

……面白いですか?(笑)

次回から、自分が何を気にしているのか、という観点から、主にアニメ作品を取り上げてみたいと思います。勿論作画や演出、音楽についても言及します。
これらは、誰もが認める傑作ではないのかもしれませんけど、自分にとっては考えてみたい作品です。

・まなびストレート!
・アイドルマスター XENOGLOSSIA
・シムーン

(逆に、誰もが認める傑作っていうのは、『天元突破グレンラガン』とか『時をかける少女』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』とかですよね。そういうのは、まぁ、他の人が語っているでしょうから……)

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (moja)
2008-03-14 22:51:24
僕も今学校で文化祭の映画作りに携わってます。脚本って大変ですよね。ここで書かれた様にいわゆる流行の作品には僕もしたくないと思いながらも、それがいかに難しいかを実感しながら試行錯誤に追われる日々です。靖竹さんも大変かと思いますが頑張って下さい。連載が再開されるまで楽しみに待ってます。
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Unknown (八塚)
2008-03-14 23:29:32
>理詰めで作品を作っても
素人がテキトウに書きますが、例えばハリウッド映画とか、本当に理詰めで作ってるんですかね?
キチンと盛り上げ、伏線を回収し――なんてやっている映画って、かなり少ないように思います。
あるいは、前半は風呂敷を広げてインパクトを強くし、後半はアクション&恋愛で伏線放置の方が『面白い』というロジックがあるのかも知れませんが。

脈絡ありませんが、MV冒頭のシーン。
アレって結局どういう意味なの? とわくわくしながら待ってますので、いつの日か回収をばお願いします。
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Unknown (大橋リテイ)
2008-03-15 00:08:02
今回の日記の話してる範囲が広すぎて、ちょっと理解不足な私がおります。
全て本条さんの持論に帰結されている形ですから、傑作の定義が気になる所です。作品は、商業上の売り上げや、評判に関わらず、傑作と言った時点で傑作です。
人それぞれの嗜好で、かなりぶれるんじゃないでしょうか。
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レス1です (靖竹)
2008-03-15 00:51:45
mojaさん

>僕も今学校で文化祭の映画作りに携わってます。脚本って大変ですよね。ここで書かれた様にいわゆる流行の作品には僕もしたくないと思いながらも、それがいかに難しいかを実感しながら試行錯誤に追われる日々です。

「ガンダム」の富野監督が言っていました。「流行に乗ってさえいれば飯は食える」と。
そして彼はそれができる能力を持っていながら、流行に反した作品を作り続けていますね。
流行はもちろん意識しますが(あまりにズレていると、誰にも見てくれさえしないと思います)
作品を作る動機がそれだけというのも寂しい話です。
映画作りいいですね、頑張ってください!(私も大学生の時にやりましたよ)

八塚さん

>素人がテキトウに書きますが、例えばハリウッド映画とか、本当に理詰めで作ってるんですかね?

全ての作品がそう、とは勿論言い切れませんが、大予算の作品については、日本の作品に比べて非常に注意深く作られていると思います。何度も改訂を繰り返し、優れた脚本の権利は高額に取引されています。例として挙げるなら、「ダイ・ハード4」「ボーン・アイデンティティ」といったアクション映画を挙げてみたいと思います。

大橋リテイさん

>今回の日記の話してる範囲が広すぎて、ちょっと理解不足な私がおります。

はは、そうですね。一回目ということで、話を大きくしてみました。自分の問題意識はそこにある、ということです。

>全て本条さんの持論に帰結されている形ですから、傑作の定義が気になる所です。作品は、商業上の売り上げや、評判に関わらず、傑作と言った時点で傑作です。人それぞれの嗜好で、かなりぶれるんじゃないでしょうか。

私は個人の趣向という観点から、傑作という言葉を用いません。ヒットすることも重要だし、後年何度もかえりみられる作品であることも重要です。多くの人間の感情を揺さぶったり、技術的に目を見張るものがあるという点も重要でしょう。

つまり、傑作という言葉は大橋さんの言う「商業上の売り上げ」「評判」といった基準をクリアーする事が前提になります。安易な主観論には陥りたくはない。(といいつつ、私の主観を今後書き連ねていく予定ですが……(笑)。私は評論家になりたいわけではなく、アマチュアの作り手にすぎません。できるだけ、作っている人にとって考えるきっかけになるお話をしたいと思っています。)

私がこの言葉を使うとしたら、個人の趣向を問わず「歴史のゴミ箱入りしない」という意味合いが強いです。
アニメでいうと「ルパン三世 カリオストロの城」「機動戦士ガンダム」「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」あたりは、誰もが認める傑作だと思うのです。
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自己レスです (靖竹)
2008-03-15 00:58:18
あ、誤解があるかもしれません。
「ダイ・ハード4」や「ボーン・アイデンティティ」は理詰めで作ったゆえにつまらない作品ではありません。

シナリオは高度に計算されていながら、とっても面白い作品です。キャラもいいし。

言いたかった事は、理屈から面白いプロットは生まれないんじゃないか、ということです。

MVのプロット作成時でも、意識的に、理屈からキャラクターを動かすという事は意図して避けています。むしろ妄想や閃きの中で、良さそうなものをチョイスしているという感じです。
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Unknown (ミッドナイトブルー)
2008-03-15 19:17:42
面白さってやっぱり笑える方が第一印象にありますよね。
友人に、苦労している知人の話を聞いていて「もっと面白い人たちいないの?」と聞いた時の話ですが。
一緒に聞いた他の友人が面白くないだろと反論されてしまいました。
僕は、興味深い・のめり込めるような話は面白いということでもあると思います。

シムーンは一風は変わった作品でしたが良作だったと思います。
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Unknown (靖竹)
2008-03-22 09:13:07
ミッドナイトブルーさん
>シムーンは一風は変わった作品でしたが良作だったと思います。

ええ、シムーンは名作ですよ。変わってるのがすごいんです。
あんな変わってる作品を作りきった!ことに感動してしまいます。
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