ミッドナイトヴァージン Production Note

WEBノベル『ミッドナイトヴァージン』の本条靖竹のブログです。

『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』の奇妙さが気になる

2008年03月31日 01時59分13秒 | Weblog
とてもヘンな作品です。
好意的に解釈することもできるし、様々な不備と思われる部分を指摘して批判することも容易な作品です。
ただスタッフのこだわりはハンパないですね。生き生きと動きまくる作画は素晴らしいし、SF的設定やOPのキャッチーさ、音楽や次回予告の雰囲気も斬新なものでした。
新しいアニメを作ろう、という意気込みをびんびん感じるのです。

私がなぜこの作品を取り上げたいかというと、完成度の高い作品ではないかもしれないけど、個性的で気になる作品を分析し、面白さとは何か、というテーマを探求していきたいからです。以下は感想メモみたいなもので、答えは出ないかもしれないです。

※作品を未見の方へ。作品内容の魅力を損なうことはないと思いますが、ネタバレ回避したい場合は(2)を飛ばしてください。

(1)あらすじ
価値観の多様化が進んだ近未来が舞台となっています。多くの若者はアルバイトをしていて、学校に出席する意義が失われつつあります。生徒会も光香(みか。ニックネームはみかん)たった一人。

転校生・まなびは、転校早々生徒会長に立候補し、学園祭を盛り上げようと奮闘します。そこにきっと、「わくわく、きらきら」があるから。次第に生徒会に人が集まってきます。
しかし学園は経営状態の悪化から、大きな姉妹校である愛光学園に吸収合併、文化祭は意義がないとして取りやめに。憤る生徒会は、署名を集めて文化祭を復活させようと署名運動を開始しますが、生徒達の関心は薄く……というもの。

ストーリーは「中学生日記」的で、ところどころ学生運動的なテイストもある、古典的なものですね。
学園ものとしてあらゆる意味で完成度の高かった「ハルヒ」と違うのは、作品全体に、妙なちぐはぐ感があるのです。(「エヴァンゲリオン」に対する「ナデシコ」みたいな印象があります)
そのちぐはぐ感を列挙してみます。

(2)シナリオに飛躍が多い点

例として重要と思われる点を二つ挙げます。

ドラマのキモである第10話、ついに文化祭の署名を集めることに成功するエピソードの流れ

(A)生徒会室近辺にある時計台の爆発事故 → (B)まなび達、旧生徒寮を新生徒会室へ改装する → (C)他の生徒たちが自然発生的に手伝いはじめる → (D)共同作業の楽しみを知る → (E)文化祭復活への署名が集まる

まず、(B)→(C)の流れがちょっと理解できない。誰かがお菓子を持ちよったからそれにつられて? それまでの生徒会への奮闘ぶりを知っていて助けてあげようと思っていたから? 秘密基地を作るみたいで楽しそうだから? 推測しても、それが納得できるかたちで演出されているようには見えない。

さらに最も作品のキーとなる(D)→(E)への流れがドラマとして描写されず、事後的に語られるだけである。そもそも(A)時計台の爆発っていう事件そのものが、伏線もなく唐突すぎる。これをご都合主義と呼ぶか、ギャグとして笑うか、その発想はなかったわ、と感心すべきか……。いわゆる「超展開」。

署名が集まっていく過程をアニメで描いても面白くないから省いた? やはり肩すかしを食うシーン。この作品は超展開と超演出の力業で乗り切り、些細なことにこだわらない方針かも。それもそれで一つの方法論?

次に最終話。生徒会メンバーの進路が語られるエピソード。

光香は「自分を変えたい、自分から変わりたい」としてアメリカ留学、まなびは「学生はやりつくしたから、今度は徹底的に働きたい」としてフリーターという将来を選択する
→唐突感。まなびのフリーターはともかく、光香はなぜアメリカ? 伏線なし。
そこで何をするのか? やはり了解しにくい。ただ「自分を変えたい」という意気込みだけは伝わる。

この「意気込みだけは伝わる」というのが全体を覆っている。
普通に考えると、せめて光香がアメリカ行きのチラシを持っていたとか、ちらっとでも伏線的カットを入れておくべき
→その意外性がある種の疑問符や興味を引くのは確か
→それをOKとするか?
→若者はバカで無鉄砲でいいじゃない!っていうメッセージ?
→最終回として、アメリカへの旅立ち、そして再開っていう感動のシーンに持って行きたかっただけ?
→アメリカ、という突飛な結論に、「なんとなく、わかる」という不思議な感想を導くために伏線を省いた? 確かになんとなくわかるような気がしないでもない……。

シナリオ・演出の基本は親切にわかりやすくすること。ただの不備なのか、あえてそこをずらしているのか……。感想としては、まぁ、おもしろいような気がする。

(3)演出における問題

OPで、愛校精神ある生徒会メンバー達が、なぜか缶スプレーで学校にラクガキ(!)
→ムック本『DIRECTORS' WORKS』によると、反抗精神を表しているらしい?
→しかし魅力的な映像になっている

「見たい映像」を優先的に作ったのではないかと思わせる。確かに自然だけど面白くない映像よりは、理解しきれないけどなんか面白い映像のほうがよっぽどいい。だが視聴者に作品全体に疑問符を浮かべさせるのはどうだろうか? スタッフがやんちゃな印象。

(4)設定の問題

四~五頭身のデフォルメされたルックスと、リアルなストーリー、リアルな芝居、リアルな背景美術の不一致(そのくせ、教師陣や愛光学園の生徒会長は頭身が高い! まなび達だけチビなの?)
→別にこの作品に限ったことではないが、やりすぎ感あり
→それってアリ? う~ん……

主人公の記述不足
まなびという主人公とその家庭環境(謎多いお兄さんと、出てこない両親)の詳細が描かれない
まなびは生徒達には必ずしも自明ではない、「文化祭は楽しいに決まっている」というテーマを最初から獲得している。そこに何故?はない。やればわかる、そういうキャラクター。第一話ですでに「まなび星人」と揶揄されているように、違う星から来た人のような雰囲気が最後まで抜けなかった。
加えて海外の危険地帯を転々とした、ギャグみたいな引っ越し遍歴
→やはりまなびのキャラクターを、やや意図的に了解不可能な、非リアルなまなび星人として描いた
→苦肉の策や諦めかもしれないけど、後半は主人公が光香に移り変わったからOKなのか?

未来という時代設定
おそらく学校というものに若者が集う意義を描くために、未来を設定した?
エアボード、電子生徒手帳、液晶ディスプレイ表示のバス亭といった小道具は面白い。
そのくせ、後半はちょっと古い街並みや、郷愁を誘うシークエンスが目立つ(ミスドや旅館)
→未来という設定を生かし切れたのか、というと疑問が残る

(5)作画・芝居
アニメーションにおける日常芝居の動き、カメラアングルを意識したレイアウトへの執拗なこだわり。
この点に関しては一流。声優の芝居もおおむね良かった。
これが一種の生々しさ、リアル感を作っているのは確か。
記号的キャラクターなのに、妙に生き生きしている
→いわゆる「作画アニメ」?
→むしろ生き生きとしているキャラクターが、記号的・お約束的世界を逸脱しようとしている?

OPや次回予告のPV的洗練と、お遊び感のあるEDの人形アニメ
文化祭校歌ロック版のPV的完成度の高さ
→不幸にもハルヒが先んじてしまったが、これはこれで素晴らしい映像。(文化祭シーンの制作開始タイミングはハルヒ放送前だそうです ※資料参考)
また何度か見られる、実験的映像の超演出
→ただ、それぞれ全く伏線らしきものがなく唐突感。あのバンドメンバー何者?みたいな。
→毎回、ノリでプロットを作っているような。「感動させるための積み上げ」が足りない。(例えばハルヒのライブシーンでは、事後的にハルヒの意外な行動を納得させるエピソードがあった)
→その積み上げない、ざっくりとした進展が不思議なテイストになっているような気もする

(6)まとめ
この作品の特徴である監督の不在
→同年代のスタッフによる学生映画的なノリ?
たくましく生きていく若者を描く作品としては良作? 文化祭や最終回はジーンと来るものがある。

シナリオの出来が悪い、と切り捨てるには捨てきれない、何かがあるような気がする。
スタッフの妥協なき作り込み、思い入れ溢れる映像になっている。

このアンバランス感、奇妙な感じ
あれは一体なんだったんだろう? と思う。

記号的お約束で作られた作品は忘れやすい。
関心を引くフック(鈎、釣り針)がない。
この作品は、気になるフックだらけ。不完全な魅力?
各シークエンスで、キャラクター達がこの後なにをするのか予測がつかない。空気を読まない(笑)、突飛な行動をする面白さ。
芽生の過去エピソードのように、リアルに内面を記述するのかと思えば、重要かと思われる部分をはしょるアンバランス。
出来がいい作品とは思わないけど、好きな作品ではある。1カット1カットが面白い。

自分のアンテナに引っかかる作品の一例。
あまりにパターン化された完成度を誇る作品よりも、変わったことをしてやろう、という意志が見える
そしてほとんどは失敗に終わる。まぁそれはいいんじゃないか。なんにせよ、【愛しい作品】なんだから。
おそらく、若いスタッフ達にとって、美少女アニメという枠組内で、やりたい事をやってみよう、新しいスタイルのアニメを作ろうと思っていたのではないか?

文化祭の前日、誰もいなくなった暗がりの校舎を探検する時のドキドキ感。
苦難を分かち合った友達たちとの夏休み鈍行列車の旅。
こっそり家を抜けだして、深夜のミスドでこっそり友達とおしゃべりをするワクワク感……。

そういったカットの一つ一つがとってもいい。気持ちが入ってて。
そのくせ、一番大事なはずのシナリオがはしょられていたり、超展開・超演出・オーバーアクションだったり。妙に舞台がSF未来だったり。へんな作品ですよ、これ。
思うに、魅力的なシーンを作りあげることに夢中だったのかな、とも思います。

この作品は単にシナリオ・演出が不親切と言うこともできるし、新しい何かをやろうとした作品とも受け取れそう。積み上げた物語ではなく、スケッチを並べたような。
自分は、こういうアンバランスな作品が、バランスのいい作品よりも、気になるのです。
制作者の方にいろいろお話を聞いてみたいな、と思わせるのです。少なくとも効率重視で作られた、大量生産型の美少女アニメではありませんから。

ただ期待感が多少裏切られた点を指摘させてもらうと、結末は視聴者に「文化祭の熱気、かけがえのない青春時代の一体感」を追体験させるという、わりとありふれた結末になってしまったこと。
(よくある、『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』もしくは『王立宇宙軍』の縮小版にすぎないんじゃないか)
ひとつの結論としては妥当なセンだし、いいのですが……。もう一つ大きな狙いがあるのかな、と思わせて、そうでもなかった感じ。

あと、夏休みの睡眠不足エピソードのカオスっぷりは必見です(笑)

参考:アニメスタイル編集部『まなびストレート! DIRECTORS' WORKS』

なんだか長くなってしまいましたね。
次回は「シムーン」 を取り上げてみたいと思います。

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5 コメント

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Unknown (1ROW)
2008-04-01 06:08:22
初めまして。
僕も感想は概ね同意です。
確かに作品中で解決できていない未完成な印象を受けます。
しかし、DVD7巻と『まなびストレート! DIRECTORS' WORKS』をよく読むといくつかの疑問は解決すると思いますよ。
最近購入して読みふけりました。
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まなびの言い足り無さ (靖竹)
2008-04-03 03:39:56
>1ROWさん

初めまして。
「まなび」は面白い作品だと思います。
演出や間も独特で、なにか可能性を感じるんだけど、同時にバランスの悪さも感じる……。その「言い足り無さ」が、むしろいいんじゃないかって思うんです。うまくまとまった作品よりも。

DVD7巻とアニメスタイルのムックは私も一通り目を通しました。若いスタッフが身を削って作った作品なのですね。アニメーションは見るのはすぐだけど、膨大な時間と労力がかかっている、ということを忘れてはいけませんね。
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アイドルマスター (地方局アニメ好き中学生)
2008-04-06 11:56:06
以前録画したアイドルマスターのビデオをたまにみます。ぼくがアニメにはまったのはこの作品を見てからです。双海姉妹の亜美が好きです。性格が良さそうに見えるけど裏では春香のことをリボンをした変な人と言ったりしているそう言うところが良いですね。
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Unknown (root)
2008-04-08 21:22:54
はじめまして。
MV・ブログ共に楽しく読ませて頂いています。
特にブログの方は、物書きさんはこういう視点で作品を見ているんだな~と感心させられっぱなしです。

しばらくはアニメ作品について触れられるようですが、時間があったら小説等についても触れていただけると個人的にうれしいです。

それでは、お体に気をつけて製作等頑張ってください。
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レスです (靖竹)
2008-04-10 06:58:41
>地方局アニメ好き中学生さん

アイドルマスターゼノグラシアは世間での評価以上に凄い作品だと思っています。その良さをどう説明するとわかりやすいのか悩んでいるところです(^_^;)

>rootさん

小説ですか。そうですね、関心のある作品があれば、いずれ……。
来月から某所で連載される予定の「ツインゴースト」を楽しみにしてほしいです。
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