生まれてこのかた18年、初めて二日遅れの筋肉痛を経験して己の老いを思う今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ほんとに筋肉痛って時間差で来るようになるもんなんですね!!迷信だと思ってました(・ω・;)
…で、今日はどうしようかな。
実は最近ネクタイのデザインコンペに応募しようと目論んでおりまして。しかし昨日言われて明日ラフスケッチ提出としろか…なかなか無茶ですぜ(@_@;)
まぁそんなわけでちょっと忙しいので、また短編小説です(-ω-)
二年前に書いたもので、途中まで戦後っぽい文章になるように頑張った形跡がありますけど、途中でくたばってますね。まぁいつものように生暖かい目でご覧下さい。
ちなみにこのタイトルは後付で、元々は「ウロボロス」というタイトルでした。誤解を防止するために和訳しています。
――――――
仮に僕の名を田中としておく。
とくに深い意味はない。知人に数人いるってだけだ。
僕は昔、新聞記者をやっていた。戦後…そう長くは経ってない時、ある奇妙な話を聞いたんだが、その話がどうにも頭を離れないんだ。まあ、ちょっと君も聞いてほしい。
あの頃は、だいぶ生活が苦しかった。もっとも、その以前と比べれば良い方だったけども。新聞記者をやっているだけではあまりにも余裕が無いから、あっちこっちの短期の仕事にも手を出して、なかなか上手いこと立ち回っていた。
ある日僕は、ちょうど仕事が一区切りついた祝いに、行きつけの居酒屋に行った。
名前は…そうだ、『コヅツミ』だ。変った名前だなと思っていたが、親父さんがああいう名字だったんだろう、きっと。あすこのヤキトリはすこぶる旨かった。
ああと、話がそれたな。あの日、店内には先客が一人いた。職業柄、僕はこっそりその人物を観察したんだが、服装やら何やかやから見て漁師か何かに見えた。
ごま塩頭で肌は日に焼けて、眉は太く目はぎょろりとしている。鼻だけは妙に品が良くて、その下にある大きな口は両側に笑い皺が刻まれているといったあんばいだ。全体にどうにも均整が取れていないんだが、これがどうしてなかなか愛嬌がある。
そちらさんはまだ生酔いといったところ、追っかけでちびりちびりとやりながらヤキトリを食べている。僕の視線に気付くと、その大きな口でもってにいっと笑った。笑うと、顔全体の印象がぐっと若くなる。
僕はいそいそと席を移動すると、一夜限りの話し相手兼飲み友達と洒落込んだ。
「やあやあ、おめぃさん、今晩は嫌に涼しいね」
母音を口にする時、妙に間延びした声で彼は言う。
「もう秋なんでしょうかね」
「秋ってぇ季節は嫌いじゃねぇ。うん。夏は暑い、冬は寒いってぇと、やっぱり秋や春はいいなぁ」
それから彼は、自分の名を名乗った。残念なことに、僕は今では彼の名前をすっかり忘れてしまっている。彼の様子や声なんかは思い出せるのだけれども。
そうさな、彼のことは仮に庄三と呼んでおこうか。なあに、この名前にも深い意味は無い。知り合いに数人いる名なのだ。
「おらぁ、りょうしだ。海の漁師、山の猟師と、季節によって変るんだがな。今は海の漁師、もうじき山の猟師になる」
僕は、自分の予想が当たったことでちょっと愉快になった。
「田中君よ、おめぃさんは何の仕事してるんだ?」
「新聞記者をやっています」
「ブン屋さんかぁ?へぇ、あんた若ぇのによくやるなぁ」
庄三のじいさんは大げさに驚いてみせた。
「だったら、おらぁおめぃさんに面白い話ができると思うんだがなぁ」
「面白い…?」
「おぅよ。なにしろ奇妙な話なんでな、信じてもらえないでも仕方ない。どうだ、酒のサカナに一丁」
普段だったら、酔っ払いの長話に付き合うのなんざご免こうむると思ったことだろうが、僕自身も機嫌がよかったし、庄三じいさんは人当たりが良いしで、僕はその「奇妙な話」に耳を傾けることになった。
「さぁさぁお立会い。世にも不思議なほんとぉの話、おれの髪が真っ黒だった頃の話だ…」
「…ぞう、もぅ…ぞぉ」
「なにぃー?」
「ひ…雨くるぞぉっ」
「あぃあぃ」
「ばかやろうっ!さっさと帰って来いっ」
庄三の父は、大声で怒鳴った。空には怪しい雲が立ちこめ、風はいたずらを仕掛けた子供のように無邪気な様子をしている。
父の声は、波の音にかき消されてよく聞こえなかった。それに、庄三のほうは聞く気がなかった。父は心配しすぎる、と庄三は思った。まだ平気だ。それなのに、少しばかりの風で大騒ぎして。
「お…っ!」
急に舟が大きくゆれて、庄三は危うく舟縁を飛び越えそうになった。急に、無邪気な子供の顔をしていた海風がその本性を現したのだ。
庄三は慌てて道具を押しのけると、櫂を鷲づかみにして勢いよく漕いだ。日頃自分たちが家族のように親しんでいる海が、獰猛に牙を向いている…庄三の胸に、言い知れぬ恐怖がどっと沸き起こった。死をかいま見た人間の背筋をひやりと駆け上る、あの感覚である。
必死で舟に噛り付く小さくて物知らずな人間を、海は容赦なく襲った。庄三は漕ぐことすらできなくなり、舟底にしがみついて何とか嵐が過ぎ去るのを待とうとした。海はそれすら許さない。
「んぐっ…がほっ…」
辛い塩水が、あの海の妖怪…海で死んだ者達の幾千もの手のように、庄三の鼻と口を覆った。
息ができずにもがく庄三に、追い討ちをかけるように舟が転覆した。無我夢中でもがけばもがくほど、徐々に意識が薄れてゆく。
とうとう、転覆した舟の上にうつ伏せになったまま、庄三は気を失った。
(後編につづく…)
ほんとに筋肉痛って時間差で来るようになるもんなんですね!!迷信だと思ってました(・ω・;)
…で、今日はどうしようかな。
実は最近ネクタイのデザインコンペに応募しようと目論んでおりまして。しかし昨日言われて明日ラフスケッチ提出としろか…なかなか無茶ですぜ(@_@;)
まぁそんなわけでちょっと忙しいので、また短編小説です(-ω-)
二年前に書いたもので、途中まで戦後っぽい文章になるように頑張った形跡がありますけど、途中でくたばってますね。まぁいつものように生暖かい目でご覧下さい。
ちなみにこのタイトルは後付で、元々は「ウロボロス」というタイトルでした。誤解を防止するために和訳しています。
――――――
仮に僕の名を田中としておく。
とくに深い意味はない。知人に数人いるってだけだ。
僕は昔、新聞記者をやっていた。戦後…そう長くは経ってない時、ある奇妙な話を聞いたんだが、その話がどうにも頭を離れないんだ。まあ、ちょっと君も聞いてほしい。
あの頃は、だいぶ生活が苦しかった。もっとも、その以前と比べれば良い方だったけども。新聞記者をやっているだけではあまりにも余裕が無いから、あっちこっちの短期の仕事にも手を出して、なかなか上手いこと立ち回っていた。
ある日僕は、ちょうど仕事が一区切りついた祝いに、行きつけの居酒屋に行った。
名前は…そうだ、『コヅツミ』だ。変った名前だなと思っていたが、親父さんがああいう名字だったんだろう、きっと。あすこのヤキトリはすこぶる旨かった。
ああと、話がそれたな。あの日、店内には先客が一人いた。職業柄、僕はこっそりその人物を観察したんだが、服装やら何やかやから見て漁師か何かに見えた。
ごま塩頭で肌は日に焼けて、眉は太く目はぎょろりとしている。鼻だけは妙に品が良くて、その下にある大きな口は両側に笑い皺が刻まれているといったあんばいだ。全体にどうにも均整が取れていないんだが、これがどうしてなかなか愛嬌がある。
そちらさんはまだ生酔いといったところ、追っかけでちびりちびりとやりながらヤキトリを食べている。僕の視線に気付くと、その大きな口でもってにいっと笑った。笑うと、顔全体の印象がぐっと若くなる。
僕はいそいそと席を移動すると、一夜限りの話し相手兼飲み友達と洒落込んだ。
「やあやあ、おめぃさん、今晩は嫌に涼しいね」
母音を口にする時、妙に間延びした声で彼は言う。
「もう秋なんでしょうかね」
「秋ってぇ季節は嫌いじゃねぇ。うん。夏は暑い、冬は寒いってぇと、やっぱり秋や春はいいなぁ」
それから彼は、自分の名を名乗った。残念なことに、僕は今では彼の名前をすっかり忘れてしまっている。彼の様子や声なんかは思い出せるのだけれども。
そうさな、彼のことは仮に庄三と呼んでおこうか。なあに、この名前にも深い意味は無い。知り合いに数人いる名なのだ。
「おらぁ、りょうしだ。海の漁師、山の猟師と、季節によって変るんだがな。今は海の漁師、もうじき山の猟師になる」
僕は、自分の予想が当たったことでちょっと愉快になった。
「田中君よ、おめぃさんは何の仕事してるんだ?」
「新聞記者をやっています」
「ブン屋さんかぁ?へぇ、あんた若ぇのによくやるなぁ」
庄三のじいさんは大げさに驚いてみせた。
「だったら、おらぁおめぃさんに面白い話ができると思うんだがなぁ」
「面白い…?」
「おぅよ。なにしろ奇妙な話なんでな、信じてもらえないでも仕方ない。どうだ、酒のサカナに一丁」
普段だったら、酔っ払いの長話に付き合うのなんざご免こうむると思ったことだろうが、僕自身も機嫌がよかったし、庄三じいさんは人当たりが良いしで、僕はその「奇妙な話」に耳を傾けることになった。
「さぁさぁお立会い。世にも不思議なほんとぉの話、おれの髪が真っ黒だった頃の話だ…」
「…ぞう、もぅ…ぞぉ」
「なにぃー?」
「ひ…雨くるぞぉっ」
「あぃあぃ」
「ばかやろうっ!さっさと帰って来いっ」
庄三の父は、大声で怒鳴った。空には怪しい雲が立ちこめ、風はいたずらを仕掛けた子供のように無邪気な様子をしている。
父の声は、波の音にかき消されてよく聞こえなかった。それに、庄三のほうは聞く気がなかった。父は心配しすぎる、と庄三は思った。まだ平気だ。それなのに、少しばかりの風で大騒ぎして。
「お…っ!」
急に舟が大きくゆれて、庄三は危うく舟縁を飛び越えそうになった。急に、無邪気な子供の顔をしていた海風がその本性を現したのだ。
庄三は慌てて道具を押しのけると、櫂を鷲づかみにして勢いよく漕いだ。日頃自分たちが家族のように親しんでいる海が、獰猛に牙を向いている…庄三の胸に、言い知れぬ恐怖がどっと沸き起こった。死をかいま見た人間の背筋をひやりと駆け上る、あの感覚である。
必死で舟に噛り付く小さくて物知らずな人間を、海は容赦なく襲った。庄三は漕ぐことすらできなくなり、舟底にしがみついて何とか嵐が過ぎ去るのを待とうとした。海はそれすら許さない。
「んぐっ…がほっ…」
辛い塩水が、あの海の妖怪…海で死んだ者達の幾千もの手のように、庄三の鼻と口を覆った。
息ができずにもがく庄三に、追い討ちをかけるように舟が転覆した。無我夢中でもがけばもがくほど、徐々に意識が薄れてゆく。
とうとう、転覆した舟の上にうつ伏せになったまま、庄三は気を失った。
(後編につづく…)