習近平は経済政策でも主導権を李首相からもぎ取る腹づもり
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成27年(2015)5月20日(水曜日)
通算第4545号
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中国の新経済政策「海と陸のシルクロード」は、中味より習近平の人事
どうやら李克強首相から経済政策の主導権を取り上げるつもりらしい
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中国の矢継ぎ早やな新経済政策は、あきらかに党主導に移り、従来、経済政策立案、実践の責任を負った国務院から主導権をもぎとったかたちに変化している。
つまり改革開放路線の根幹にあった自由競争、市場経済、規制緩和とは逆の方向へ習近平は舵取りをかえ、中央集権的な「計画経済」への復帰が濃厚なのである。
「マクロ経済の調整と経済コントロール」が党主導へ復帰する。
この路線修正の中軸は習近平の考え方が強く反映されており、つぎつぎとつくられた経済政策専門委員会には改革志向の強い団派が少数派となっている。
顕著な変化は「一帯一路」にまつわる多くのプロジェクトの中味である。
私企業の軽視、市場経済度外視。そして国有企業の参画、そのプロジェクトと予算配分の全容を見れば、国務院のすすめる産業再編という大きな方向性が軽視され、もうひとつ重大なことは国務院が進めてきた「規制緩和」は無言の裡に無視され、むしろ党主導で「規制強化」の方向にむかっていることである。
「自由競争」ではなく、「国有企業の強化」が、習近平の「一帯一路」プロジェクトの内容に濃厚に現れた。
たとえば国有企業大手のCSCEC(「建設技術協力公司」)は、過去、116ヶ国で6000件のプロジェクトを担当してきた。おなじく国有大手のCCCCL(「通信建設公司」)は各地のハイウェイ、橋梁、商業港などを建設した。
CAMSE(中国エンジニア集団)は露西亜、アフリカ、東欧諸国でのプロジェクトを担当してきた。この三つの国有企業建設集団は、「一帯一路」の発表に平行して株価が高騰している(ジェイムズタウン財団発行「チャイナブリーフ」、15年5月15日)。
▼地方政府にも露骨な格差
付随して通信大手のフアウエイ(華為技術)とZTE(中興通訊)も、プロジェクトに付随する通信施設、機器類の入札を有利に進め、殆どを生産することになる。
もっと驚くことに「一帯一路」の責任者は李克強首相ではなく、政治局常務委員の張高麗がトップとなって、この人事ではじめて習近平の露骨な狙いが判明した。
張高麗は江沢民の腰巾着、露骨なごますりで出世した政治家である。
また中国各地の地方政府にとっても、この一帯一路で潤うのは新彊ウィグル自治区と福建省であることが浮き彫りとなった。地方政府のコントロールにも、一帯一路プロジェクトが政治的利用され、習近平政権への収斂がなされている。
新彊ウイグル自治区や福建省が、一帯一路の輸送拠点となるからだ。
他方、置いてきぼりの地方政府の筆頭は江蘇省で、ついで煙台、青島、威海衛などの良好をかかえる山東省、山岳のチベット自治区なども、恩恵にあずかれそうにない。また置いてきぼりになる懼れが強いのは東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)である。
遼寧省は大連が国際貿易港としても機能しており、黒竜江省はロシアとの鉄道、パイプライン並びに木材のトラック輸送のアクセスとして繁栄しているが、とりわけ吉林省が取り残される。
吉林省の東端にある王軍春(ホウチュン)にはロシア国境に工業団地がはやばやと建設され、ロシアのポシェット港とをつなぎ、日本と米国を結ぶ最短ルートとして開発が決定され工事もほぼ終了した。
にもかかわらず実際には本格稼働に至らず、また中国の一帯一路は、日本とアメリカを向いてはいない。
http://melma.com/backnumber_45206_6209754/
◆誰も信じられない 国家主席を悩ます刺客の影
2015/5/20 日本経済新聞
その日、中国国家主席、習近平の表情は疲労の色が濃かった。まぶたは腫れぼったく、睡眠が不足している。年に1度の晴れ舞台が始まるのに、上の空と言って良い。
「心ここにあらず。別の重大事を考えているように見えた」
習ら最高指導者らがずらりと並ぶ人民大会堂のひな壇に近い席に座っていた中国の代表の声である。
3月初旬から北京で開かれた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)と全国政治協商会議。北京に駐在する外国人記者らにとって「チャイナ・セブン」の表情をじっくり観察できる貴重な機会だ。約2週間の開会中、ひな壇には繰り返し習、首相の李克強、規律検査担当の王岐山ら政治局常務委員7人が長時間、並ぶ。
■女性スタッフを見つめる鋭い視線
おかしな事は他にもあった。ひな壇の中央に座る習。彼が会議中に飲むお茶用の蓋付き茶わんは、着席する直前に単独で運ばれてくる。他の政治局常務委員6人とは違う特別扱いだ。大役を担うのは、容姿端麗なえりすぐりの女性サービススタッフである。彼女は恭しくお湯を注いでから蓋を閉じ、両手で茶わんを運ぶ。この日、女性スタッフの動きをじっと見つめる鋭い視線があった。2人の黒服の男性要員が左右から監視したのだ。女性スタッフの一挙手一投足も見逃さないというように。
こうした男性要員が、目立つ形で登場したのは今回が初めてだ。会議の途中、着席している「チャイナ・セブン」が飲む茶のわんに、後ろから湯を足す役割も、これまでの女性スタッフではなく、男性要員が担った。彼らには、お茶のサービスだけではない特別の任務があった。
「毒を盛られないように始終、監視する役割だ。万一、壇上に暴漢が現れても訓練された男性なら対処できる」
北京の事情通がささやく。男性要員は身分を隠しているが、習らに極めて近い信頼できる人物である。逆に見れば、お茶くみの女性といえども今の習には信用できない、ということになる。大量に捕まえた軍、公安・警察などの関係者が紛れ込んでいる可能性を排除できないのだ。
2週間にわたって日々、ひな壇を観察していると、小さな変化に気が付く。女性スタッフのお茶運びを直接、監視する男性要員は終盤になると2人から1人に減った。
一連の動きは何を意味するのか。実は3月初旬、全人代の開幕のころ共産党内部で緊張が高まっていた。謎を解くカギは、習らの警備責任者の相次ぐ交代にある。習は3月にかけて中国版シークレット・サービスを束ねる共産党中央警衛局長と、北京市公安局長の交代を決め、実行した。不安に駆られて追い込まれた、と言っても良い。
■政敵側の人物が自らを護衛
習ら最高指導部メンバーの北京での執務、居住区は「中南海」と呼ばれる。特別地区の警備、要人の警護を担当するのが中央警衛局だ。中央警衛局は、共産党中央弁公庁と人民解放軍総参謀部の直属組織で、多数の警護官は軍人である。
ただ、警衛局の人事を仕切るのは中央弁公庁主任になる。この役職には時のトップの側近が就任する慣例がある。日本でいえば内閣官房長官のような立場だ。
歴代の中央警衛局長で有名なのが文化大革命の「四人組」逮捕で大きな役割を果たした汪東興だ。汪は1976年当時、中央弁公庁主任も兼ねていた。このポストに信頼できる腹心を据えなければ、いざ政局が動いた際、迅速な措置をとれず、戦いに敗れてしまう。警衛局長はそれほど権力闘争の現場に近い重職と言える。
今回の問題は、更迭された前任の中央警衛局長らの人事を事実上、取り仕切ったのが、習が先に摘発した前中央弁公庁主任、令計画だった点だ。令は前国家主席、胡錦濤の側近である。現在の中央弁公庁主任、栗戦書は習が信頼する側近中の側近。とはいえ習の安全に責任を持つ現警衛局長が、捕まえた政敵である令と万一つながっていれば、夜もおちおち眠れない。
しかも令は「新四人組クーデター」を画策したと噂される。服役している元重慶市党委員会書記の薄熙来、起訴された前最高指導部メンバーの周永康、軍の元制服組トップ級だった徐才厚(摘発後、3月に死去)と組み、習政権誕生を阻もうとしたと言うのだ。
習は不測の事態を恐れていた。命を狙われる危険を含めてだ。この1年間で習は各地を何回となく視察している。その際、いったん配置した警備要員を信頼できず、自らが到着する5分前になって突然、数百人を入れ替えた異例のケースもあった。
このほど登用した新しい中央警衛局長、王少軍は昨年12月に習が江蘇省を視察した際、その左右で身辺警護をじかに指揮していた。
■「大虎」は公安の親分
「この数年、習主席は20回近くも命を狙われる可能性を指摘される場面があった。中でも最も危ないのが江蘇省。捕まえた大虎、周永康の本拠地だからだ。しかも周は公安、武装警察の親分だった」
周永康・前政治局常務委員(左)と、徐才厚・前中央軍事委員会副主席(2012年11月)
関係者が懸念していた江蘇省入りで王少軍を用いたのは、習が信頼している証拠である。
警備責任者の交代は当然だったが、摩擦、混乱も大きかった。それは習が中央警衛局長だけではなく、令計画につながる中央弁公庁や警衛局の人員の大量更迭にも踏み切ったからだ。
党統一戦線部の部長を務めていた令の摘発公表は、昨年12月22日だった。翌年3月の全人代まで2カ月半もなかった。しかも2月には旧正月の長期休暇もあった。極めて短期間で人員を大量に入れ替える必要がある。異例の事態だった。当然、仕事は滞る。それは全人代の準備を含めた混乱を生み、習自身に跳ね返ってくる。
自ら仕掛けた「反腐敗」という名の権力闘争。その副作用が身辺の安全への不安だった。晴れ舞台を前に十分眠れない。それは中国トップにとって大きな負担である。(敬称略)
◆アメリカとの対立も辞さない習近平 「米中冷戦時代」の到来か
2015年05月22日 石 平 WEDGE Infinity
先月末から今月中旬までの日米中露の4カ国による一連の外交上の動きは、アジア太平洋地域における「新しい冷戦時代」の幕開けを予感させるものとなった。
まず注目すべきなのは、先月26日からの安倍晋三首相の米国訪問である。この訪問において、自衛隊と米軍との軍事連携の全面強化を意味するガイドラインの歴史的再改定が実現され、日米主導のアジア太平洋経済圏構築を目指すTPPの早期締結の合意がなされた。政治・経済・軍事の多方面における日米一体化はこれで一段と進むこととなろう。
オバマ大統領の安倍首相に対する歓待も、日米の親密ぶりを強く印象付けた。そして5月1日掲載の拙稿で指摘しているように、アメリカとの歴史的和解と未来志向を強く訴えた安倍首相の米国議会演説は、アメリカの議員たちの心を強く打った。この一連の外交日程を通じて、まさに安倍演説の訴えた通り、両国関係は未来に向けた「希望の同盟関係」の佳境に入った。
もちろんその際、日米同盟の強化に尽力した両国首脳の視線の先にあるのは、太平洋の向こうの中国という国である。ある意味で、日米関係強化の「裏の立役者」は習近平国家主席その人なのである。
「アメリカとの対立も辞さない」という中国のメッセージ
2012年11月の発足以来、習政権は小平時代以来の「韬光養晦戦略」(能在る鷹は爪隠す)を放棄して、アジアにおける中国の覇権樹立を目指して本格的に動き出した。13年11月の防空識別圏設定はその第一歩であったが、それ以来、南シナ海の島々での埋め立てや軍事基地の建設を着々と進めるなど、中国はアジアの平和と秩序を根底から脅かすような冒険的行動を次から次へと起こしてきた。
習主席はまた、「アジアの安全はアジア人自身が守る」という意味合いの「アジア新安全観」を唱え始めたが、それはどう考えても、「アジア人」ではないアメリカの軍事的影響力をアジアから閉め出そうとするための理論武装である。「米国排除」を露骨に訴えたこのようなスローガンを掲げることによって、習政権はアメリカとの対立姿勢を明確にしている。
その一方、習主席はアメリカに対して、「太平洋は広いから米中両国を十分に収容できる」という趣旨のセリフを盛んに繰り返している。上述の「アジア新安全観」と照らし合わせてみると、中国の戦略的考えは明々白々である。要するに、太平洋を東側と西側にわけてその東側をアメリカの勢力範囲として容認する一方、太平洋の西側、すなわちアジア地域の南シナ海や東シナ海からアメリカの軍事力を閉め出し、中国の支配地域にする考えだ。
つまり、「太平洋における両国の覇権の棲み分けによって中国はアメリカと共存共栄できる用意がある」というのが、習主席がアメリカに持ちかけた「太平洋は広いから」という言葉の真意であるが、逆に、もしアメリカがアジア地域における中国の覇権を容認してくれなければ、中国はアメリカとの対立も辞さない、というのがこのセリフに隠されているもう一つのメッセージである。習近平は明確に、アジア太平洋地域における覇権を中国に明け渡すよう迫ったわけである。
もちろんアメリカにしてみれば、それはとてもできない相談であろう。アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは、世界大国としてのアメリカの国際的地位の最後の砦であり、死守しなければならない最後の一線である。近代以降の歴史において、まさにそれを守るがために、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争という3つの対外戦争を戦い、夥しい若者たちの血が流れた。そうやって確保してきたアジア覇権を、今さら中国に易々と明け渡すわけにはいかない。
実際、オバマ政権になってからアメリカが「アジアへの回帰」を唱え始めたのも、2020年までに米海軍と空軍力の60%をアジア地域に配備する計画を立てたのも、まさに中国に対抗してこの地域におけるアメリカのヘゲモニーを守るためである。そういう意味では、アジア地域から米国を閉め出して中国の覇権を確立しようとする習近平戦略は宿命的に、アメリカとの対立を招くこととなろう。
経済面でもアジア支配の確立を目指す
さらに、習政権は経済面での「アメリカ追い出し作戦」に取りかかっている。2015年の春から、アメリカにとって重要な国であるイギリスを含めた57カ国を巻き込んでアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の構想を一気に展開し始めた。これは明らかに、日米主導のアジア経済秩序を打ち壊して中国によるアジアの経済支配を確立するための戦略であるが、アメリカの経済的ヘゲモニーにまで触手を伸ばすことによって、習政権は米国との対立をいっそう深めたと言える。
ここまで追い詰められ、流石にオバマ政権は反転攻勢に出た。そうしなければ、アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは完全に崩壊してしまうからだ。前述の日米関係の空前の強化はまさにその反転戦略の一環であろうが、日米両国による軍事協力体制の強化とTPP経済圏の推進はすべて、「習近平戦略」に対する対抗手段の意味合いを持っている。
そして、4月下旬の日米首脳会談を受け、日本が先頭に立って中国のAIIB構想に対する対抗の措置を次から次へと打ち出した。
まずは5月4日、アジア開発銀行(ADB)は、アジアでのインフラ整備に民間企業が投資しやすくするための信託基金を設立したと発表した。その中で、日本は4000万ドル(約48億円)を拠出。カナダ、オーストラリアの各政府とADBからの拠出分を足して計7400万ドル(約90億円)を集めた。
さらに5月21日、安倍晋三首相は第21回国際交流会議「アジアの未来」の晩さん会で演説した。「質の高いインフラをアジアに広げていきたい」としてADBと連携し、アジアのインフラ整備に今後5年間で約1100億ドル(約13兆2000億円)を投じると表明した。それは明らかに、中国主導のAIIBへの対抗措置であると理解すべきであろう。このように、経済面での日米同盟の対中国反撃は着々と始まっているようだ。
それを受け、中国は今度、ロシアとのいっそうの関係強化に乗り出した。5月初旬に「主賓」としてロシアで行われた戦勝記念日の軍事パレードに参加し、プーチン大統領との親密ぶりを演じてみせる一方、地中海におけるロシア軍との合同軍事演習にも踏み切った。また、経済面においても、中露両国がそれぞれ主導する新シルクロード経済圏構想と、「ユーラシア経済連合」の2つを連携させることで一致したという。
おそらく習主席からすれば、日米同盟に対抗するためには、軍事と経済の両面におけるロシアとの「共闘体制」を作るしかないのだろうが、それによって、1950年代の日米VS中ソの冷戦構造が習主席の手により複製されたと言えるだろう。
日本は、迷うことはない
その数日後、米軍は南シナ海での中国の軍事的拡張に対し、海軍の航空機と艦船を使っての具体的な対抗措置を検討し始めたことが判明した。アメリカはようやく本気になってきたようである。このままでは、南シナ海での米中軍事対立は目の前の現実となる公算である。
こうした中で、ケリー米国務長官は今月16日から訪中し、南シナ海での盲動を中止するよう中国指導部に強く求めた。それに対し、中国の王毅外相は「中国の決意は強固で揺らぎないものだ」ときっぱりと拒否した。中国はもはやアメリカとの対立を隠そうともしない。自らの覇権戦略を進めていくためには、アメリカを敵に回しても構わないという強硬姿勢を示した。一方でケリー国務長官と会談した習主席は相変わらず「広い太平洋は米中両国を収容できる空間がある」とのセリフを持ち出して、アメリカに対して太平洋の西側の覇権を中国に明け渡すよう再び迫った。
そして21日、米国防総省のウォーレン報道部長は記者会見の中で、中国が岩礁埋め立てを進める南シナ海で航行の自由を確保するため、中国が人工島の「領海」と主張する12カイリ(約22キロ)内に米軍の航空機や艦船を進入させるのが「次の段階」となると明言した。
このような攻防からも、アジア太平洋地域における経済・軍事両面においての米中覇権争いがもはや決定的なものとなった感がある。対立構造が鮮明になり、新たな「米中冷戦」の時代がいよいよ幕を開けようとしている。今月20日、アメリカのCNNテレビが、南シナ海で人工島の建設を進める中国に対して偵察飛行を行うアメリカ軍機に中国海軍が8回も警告を発したという生々しい映像を放映したが、それはまさに、来るべき「米中冷戦」を象徴するような場面であると言えよう。
ベルリンの壁の崩壊をもってかつての冷戦時代が終焉してから26年、世界は再び、新しい冷戦時代に入ろうとしている。以前の冷戦構造の一方の主役はすでに消滅した旧ソ連であったが、今やそれに取って代わって、中国がその主役を買って出たのだ。
米中の対立構造がより鮮明になれば、日本にとってはむしろ分かりやすい状況である。戦後の日本はまさに冷戦構造の中で長い平和と繁栄を享受してきた歴史からすれば、「新しい冷戦」の始まりは別に悪いことでもない。その中で日本は、政治・経済・軍事などの多方面において、同じ価値観を持つ同盟国のアメリカと徹頭徹尾に連携して、アジア太平洋地域の既成秩序を守り抜けばそれで良い。ここまできたら、迷うことはもはや何もないのである。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4997
◆南沙諸島埋め立てで、中国は虎の尾を踏んだか
中国株式会社の研究(266)~安倍訪米後の米中関係
2015.5.19 宮家 邦彦 JB PRESS
米中外交は意外に分かりやすい、というのが筆者の持論だ。
ニューヨークで日米安保協議委員会(「2+2」閣僚会合)が開かれた4月27日から、訪中したジョン・ケリー国務長官が習近平国家主席と会談した5月17日までの3週間、米中関係は再び試練の時を迎えたのか、それとも急転直下改善に向かい始めたと見るべきなのか。
今回は、現時点での限られた情報に基づき、米中関係の行方について考えたい。
過去1週間の報道ぶり
いつもの通り、関連報道から始めよう。ここでは米中関係について報じられた米中関係者の主要な発言を幾つか取り上げ、これらを時系列順に取り纏めてみた。
(1)アシュトン・カーター国防長官はスプラトリー諸島で中国が埋め建て領有権を主張する人工島の12カイリ以内に艦船や偵察機などを投入することを検討するよう関係部局に指示した。
(Defense Secretary Ash Carter has asked his staff to look at options that include flying Navy surveillance aircraft over the islands and sending U.S. naval ships to within 12 nautical miles of reefs that have been built up and claimed by the Chinese in ... the Spratly Islands. 5月13日付WSJ報道)
(2)岩礁の上にいくら砂を積もうとも、領有権は強まらない。主権を築くことはできない。
(Ultimately no matter how much sand China piles on top of a submerged reef or shoal ... it is not enhancing its territorial claim. You can’t build sovereignty. 5月13日上院外交委員会公聴会、ラッセル国務次官補)
(3)我々は中国の行動のペースや性格が潜在的に地域の安全を崩壊させかねないと懸念している。中国の行動と拡大するプレゼンスは間違いなく事故や誤算がエスカレートするリスクを増大するだろう。
(We are concerned that the scope and nature of China’s actions have the potential to disrupt regional security. China’s actions and increased presence ... would certainly increase the risk of accidents or miscalculations that could escalate. 5月13日同公聴会、シア国防次官補)
(4)米国は中国による埋め立てのペースや規模を懸念している。中国に緊張緩和のため行動を取るよう求めた。
(We are concerned about the pace and scope of China’s land reclamation in the South China Sea...And, I urged China to take actions that will join with everybody in helping to reduce tensions and increase the prospect of diplomatic solutions.5月16日共同記者会見、ケリー国務長官)
(5)中国が自国の主権と領土を守る意志は岩のように固い。南沙諸島での建設は中国の主権の範囲内だ。
(The determination of the Chinese side to safeguard our own sovereignty and territorial integrity is as firm as a rock, and it is unshakable...the construction is something that falls fully within the scope of China’s sovereignty. 5月16日共同記者会見、王毅外交部長)」
(6)米国は領土問題で中立な立場を取ることを約束したはず。言動を慎むべきだ。中米関係と南シナ海の安定に利することをやってほしい。(5月16日、范長竜・中央軍事委員会副主席の発言)
(7)(米中関係は)全体的に安定している。新型大国関係は初期の成果を得ている。意見の食い違いを適切に処理し、両国関係の大局が妨害されるのを回避しなければならない。(5月17日、習国家主席)
(8)広々とした太平洋は中国と米国という2つの大国を収めるに十分な空間がある。(同)
(9)両国が同じ方向に向かい、よく意見交換と対話を通して、信頼を深め、不信を解消させ、協力を強化し、新型大国関係を構築するという正しい方向に向かって両国関係を前進させるべきだ。(同)
米中関係の現状に関する仮説
これらの報道にはいずれも詳しい注釈が必要だろう。外交関係、特に米中関係は往々にして各種対外発表の行間を正確に読み取る必要があるからだ。ここでは上記各報道の政治的・外交的背景について簡単な注釈を加えてみた。
(1)すべては5月13日のWSJ記事に始まる。米国防省の人工島周辺12カイリへの船舶・航空機派遣の検討状況が公表されるはずはない。さればこの記事は国防省筋の意図的リークだ。同日上院外交委の公聴会があったことも偶然ではない。米側は公式発言と情報リークで中国側にメッセージを送ったのだ。
(2)、(3)この国務次官補と国防次官補、両名とも筆者の旧友、優秀で日本語も堪能な米外交官だ。筆者の知る限り、彼らはハッタリなど言わない。ここは、ケリー国務長官訪中の直前、米国政府全体として、中国の人工島建設による南シナ海の現状変更は決して認めない、との強い立場を明確にしたと見るべきだ。
(4)ケリー長官が中国側に対し人工島をこれ以上拡大しないよう強く求めたことは十分想像できる。他方、現時点で米側が「人工島周辺への艦船・航空機の投入」を強行することもないだろう。各種報道から判断して、今バラク・オバマ大統領自身がそのような決断をするとは到底思えないからだ。
(5)そのことは中国もお見通しだろうが、王毅外交部長の発言に特別な意味はない。中国の外交部長には既存の政策を実施する権限しかなく、新たに政策を変更する権限などないからだ。ケリー長官もそのことはよく承知しているだろう。米中外相会談自体には期待していなかっただろうと推測する。
(6)この中央軍事委員会副主席の発言は中国お得意のいつもの「ハッタリ」だ。少なくとも、米側がそのような約束をしたことはないが、逆に言えば、中国側も今回ばかりはオバマ政権の態度が意外に硬く、何らかの対中政策変更を行った可能性を懸念しているのかもしれない。その可能性はあまりなさそうだが・・・。
(7)、(8)、(9)これら習近平の発言はいずれも中国国営メディアの報道によるものだが、実は肝心なこと、目新しいことは何一つ言っていない。これで米中関係が好転したなどと考えるのは無理だ。他方、中国に態度変更を強いるには習主席自身に直談判する必要があることを米側は既に学んでいるはずだ。
ケリー長官が、「人工島工事を中断しなければ、ネガティブな結果が伴う」程度の要求を習主席にぶつけた可能性は十分ある。だが、似たようなやりとりは2013年6月のカリフォルニアでの米中首脳会談でも見られた。習主席が今回も「ゼロ回答」を繰り返せば、米中関係に暗雲が立ち込める可能性はある。
中国は虎の尾を踏んだのか
国連海洋法条約第60条第8項は、「人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない」と規定している。
残念ながら筆者は海洋法の専門家ではなく、埋め立ての詳細も承知しないので、今回中国が作った人工島が同条約上いかなる取り扱いを受けるのかはよく分からない。中国は国連海洋法条約に基づく南シナ海に関する議論を拒否しているようだし、そもそも、米国は同条約の締結国ですらない。
ただ、1つだけ確かなことがある。最近の南シナ海での中国の現状変更の規模とペースは明かに米国の許容限度を超えつつある可能性がある、ということだ。なぜ中国はそんなに急ぐのか。将来の国際交渉に備え既成事実を積み重ねているとの説もあるが、元々中国には領土を交渉する気などないだろう。
軍事的プレゼンスを高めるためとも言われる。だが、かくも孤立した中途半端な規模の埋立地が軍事的に有用だとは思えない。さすがの人民解放軍も、補給、兵站などを考えれば、この人工島を中心に米空海軍の航空機・ミサイル・艦船と対峙することまでは考えていないだろう。
そうだとすれば、この埋め立ての最大の目的は南シナ海における中国の物理的プレゼンス拡大と政治的意志のデモンストレーションだと思われる。このことを正確に理解したからこそ、オバマ政権はようやく重い腰を上げ始めたのだろう。9月の訪米で習近平主席がいかに回答するかが大いに注目される。
日米ガイドライン改定からケリー訪中までの過去3週間は、中国の海洋戦略に歴史的転換を強いる可能性がある。習近平主席は自覚していなくても、今回の一件で中国が従来注意深く避けてきた米国の「虎の尾」を踏んでしまったかもしれないからだ。
すべては9月の習近平訪米の際明らかになるだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43828
だが米軍偵察機「P8Aポセイドン」は人工島偵察を開始した。中国海軍は南シナ海上空を飛行する米軍の偵察機に対し、20日だけで8回にわたって警告を発した。米軍は、次は支那の言う12海里の上空を飛ぶと宣告している。
◆中国に米副大統領が警告「たじろがず立ち上がる」
2015.5.23 産経ニュース
【ワシントン=青木伸行】バイデン米副大統領は22日、中国が南シナ海で人工島を建設していることなどを列挙し、「公平で平和的な紛争の解決と航行の自由のために、米国はたじろぐことなく立ち上がる」と述べ、中国に警告した。メリーランド州アナポリスの海軍士官学校で行われた卒業式の演説で語った。
バイデン氏は「こうした原則が、南シナ海における中国の活動によって試されている」とし、「米国が(中国の)領有権の主張に特権を与えることはない」とも強調した。
http://www.sankei.com/world/news/150523/wor1505230015-n1.html