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その腕もて闇を払え第3回クロス・クライストは、20年ぶりに地球に降り立つ。すぐさまコーヘンの傭兵につかまり、リチャード・コーヘンから子供のカレン・コーヘンの救出の提案がなされる。

2021年06月17日 | その腕もて闇を払え
その腕もて闇を払え(1980年作品)クロスは、我妻と子を奪われコーヘン財閥に復讐を誓う。20年後隕石に落下、地球生態系が変化。疫病が、デスゾーンで研究中の娘カレンを助けにクロスが呼び戻される。
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その腕もて闇を払え第3回クロス・クライストは、20年ぶりに地球に降り立つ。すぐさまコーヘンの傭兵につかまり、リチャード・コーヘンから子供のカレン・コーヘンの救出の提案がなされる。
 

その腕もて闇を払え第3回

(1980年)「もり」発表作品

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

 

■2071年、10月、地球、ニューヨーク。カーゴースポートZ27。

 外宇宙から帰ってきた宇宙船が林立している。

といってもオンボロな荷物船ばかりだ。

ここは大宇宙空港の片隅である。

 

 エアーカーが停止する。

 

 「ハンク、ここまでで本当にいいんだな。な

んならシティまで乗せて。いってやるぜ」

 

 「いいんだ。エド。俺は久しぶりの地球の土って奴を踏みしめていたいんだ」

 

 「そうだったな、ハンク。お前、もう20年近く。地球へ環っていなかったんだな。それじ

夕気をつけろよ。地球は変っているぜ。総てがな。あ、そうだ。デロスという病気に気を

つけろ」

 「何だ。そりゃ」

 「まあ、そのうちわかるさ、じゃあな」

 「ああ」

 

 エドは、エアカーを飛ばし、家族の待つシティ中央部へ向かつていく。

 

 一人残ったハンクはゆっくりと久しぶりの地球の空気と大地を楽しむように空港ターミ

ナルの方へ歩き始めた。

 

3人の男が、ハンクと呼ばれた男を、船が着陸した時から様子をうかがっていた。近く

の駐車場のワゴンの中から高性能の望遠鏡で姿を追っている。

 

「どうやら、あの男に間違いなさそうだな」

「顔はこの映像とかなり違っているぞ」

 

「この男は少なくとも10数回、我々の手から逃れるために整形手術を受けている」

「他の身体的特徴は右手がサイボーグ化していることだな」

 

「これも決め手にはならんだろう」

 

「外宇宙ではかなりの宇宙マンがサイボーグ手術を受けているからな。少なくともあの男

は10数年、この地球には近づいていない」

 「そして、我々の蒔いた餌に飛びついたわけか」

 

「そう自分の娘のためだからな」

「ようし、ウィリー、車を出せ。とにかくあの男を掴えてみよう」

 

ハンクは後から着けてくるワゴンに気がついている。ゆっくり歩き続けていたが、倉庫

の角を曲って急に歩みの速度を上げた。

 

 ワゴン車は急激に近づいてきた。

ハンクは後を振り返る。ワゴンの中の男の顔は見えな

い。車ごとぶつかって来た。ハンクは振り向きざま。車体の前部ドアを右手で把んでいた。

 

速度をあげてきた車のドアは、ハンクの右手の中でぶっちぎれてはじき落ちる。

 

「くそっ、パラライザー(麻酔銃)を使え」

車の中の男が叫んだ。

 

車をターンバックさせようとした瞬間、ハンクは後から、ダッシュする。右手を体の前

に迫り出し、体ごと車の中へジャンプする。

 

捨て身の戦法だった。

 

リアウインドウはバラバラに砕ける。

手刀をパラライザーを構えていた男の手に振り落とす。

 

「グウッ」その男の右腕は。パラライザーの発射寸前、折り切られている。

 

もう一人の男がパラライザーの銃身でパンクの頭をなぐりつけようとする。ハンクは右手でそれを受ける。パラライザーの方がつぶれた。

 

 車を運転していた男は倉庫の右側の壁へ車を急激にターンし、叩きつけた。車をパウン

ドし、反転し、あお向けにころがる。

 

 ハンクは車の内部へ叩きつけられた。他の二人も気絶している。

 車を運転していた男も半死の状態である。

 

男は苦しい息の下で、マイクを取り上げ、ゆつくり言った。

「こちら、ウィリー、救援を頼む」それだけ言うと気を失なった。        

 

 

ハンクが目ざめると。

老人が大きな机の後に座っているのが見えた。うしろをむいている。背景の窓には大魔天楼群が下の方に見え。

 

さらに灰色の空が窓の大きな部分を占めている。

ハンクはゆっくりと体を起こす。ソフ″の上だった。部屋を見渡すと、ドアの前に屈強な男達が2人立っている。二人共ゴリラのような体付きをしている。ゴリラ護衛かとハンクは思う。

机の後の男は白髪で威厳があった。目をつぶっている。ハンクはその男の顔を眺めた。 

 

「気がついたのか.クロス・クライスト」老人は静かに言った。

「クロス・クライスト?俺の名はハンクだぜ。人違いするな」

 

老人は額に片手をやりゆっくりとしゃばる。

「往生際が悪いぞ。クロス・クライスト。君が気を失なっている間、体と心を総て調べあげた。骨格、声紋、その他全てをな。あきらめるんだな、クロス・クライスト」

 

クロス・クライストと呼ぱれた男は顔色を変えた。

 

「わかった。コーヘン。すると、ここはコーヘン=タワーの中というわけか」

 

 コーヘン・タワー。現代地球に存在する最高の建物である。権力の象徴でもあった。

 

 コーヘン財閥は一つの王国だった。あらゆる地球の工鉱業。通信業、商業、銀行。サー

ビス業を支配する大複合企業体である。

 

 「丁寧なお迎え、ありがとうございます」

 「ふざけている場合ではない、クロス・クライスト。本来ならば、君と対面できるのはモルグの中のはずなのだ。火星でのな」コーヘンの表情には何の変化もない。

 

 「命を助けていただいてありがとうと感謝すべきというのかね、え、お義父さん」

 わずかに老人の顔に怒りの表情が見える。

 

 「私は君を一度たりとも。娘ジャネット=コーヘンの夫だと認めた事はない」

 

 「それを言うだけにここに連れて来たわけではありますまい」クロス・クライストは立ち上った。ゴリラ護衛の1人が銃を抜いている。銃口はクロス・クライストを向いている。

 

「やめろ、サム。この男は唯一の頼みの綱なのだ」

「何の事だ」

「カレンの事だ。そう、カレン。私の最後の肉親ジャネット=コーヘンの子供。カレンだ」

 

「最後の肉親だって。あんたには4人ものりっぱな息子がいたじゃないか」

 

「君は、最近、この地球に生じた阻石の落下と、それに端を発するデロスと呼ばれる大疫

病の蔓延を知っているだろう」

 

「小耳にはさんだだけだ」

「一番上の息子アドレーは、世界経済通商委員会に出席していた。が家族も一緒に。現在

のデス=ゾーンにいたんだ。

 

次男のエリックは丈夫な奴だったが。マレーシア、サラワクに石油の事業で滞在中、デロスにやられた」

 

「東アジア地域の疫病はひどかったらしいな。全人口の63%が死亡したと聞いている」クロス・クライストの言葉をコーヘンは聞いていないようだった

老人のくり言のように思える。とても世界の大財閥の長。リチャード・コーヘンとは思え

なかった。彼はぶっぶつと言葉を続ける。

 

「三男のグラハムは生きているが、かなりの精神障害で入院している。彼は独身だった。

 

四男のデリーは、デスーソーンに出かけていって行途不明だ。地球連邦軍の一員どしてな」

 「それじゃコーヘン・ファミリーは全員、、」

 

 「そうだ。私とカレンを残してな」

 

 「カレン、カレンはどうしたんだ」先刻までハンクとなのり、外宇宙から20年ぶりで帰ってきた男は、クロス・クライストとなっている。

 

 カレン、クロス・クライストの愛娘。クロス・クライストは彼女に会うた

めに地球に戻ってきたといえる。それが罠と知りつつも。

 

 

 

その腕もて闇を払え第3回

(1980年)「もり」発表作品

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

 



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