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源義経黄金伝説■第70回鎌倉、大江広元の前に静の母親、磯禅師が現れて、秘密を打ちあける。その秘密とは、源義経の遺児は。

2021年10月30日 | 源義経黄金伝説
源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第70回鎌倉、大江広元の前に静の母親、磯禅師が現れて、秘密を打ちあける。その秘密とは、源義経の遺児は。
 

源義経黄金伝説■第70回

 

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・Manga Agency山田企画事務所

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■ 1198年(建久9年)鎌倉/大江広元屋敷

 

「危ういところであった、文覚が鬼一を処分してくれたとしては」

大江広元は呟く。が、広元は疑心に捕らわれる。

 いかん、もし、、、

 

「よいか、至急に牢を見て参れ」と雑色に命ずる。

「源義行殿、牢におられませぬ」

 雑色が顔色を変えて報告した。

「何と…、そうか、あの磯野師めが」

 

大江広元は、禅師の控え部屋にいく。

「禅師、お主、義行殿を逃がしたな」

声高かに叫ぶ広元に対して

磯禅師は、ゆっくりとお茶をたしなんでいる。

 

ふくいくたるお茶の香りが磯禅師のいる部屋にたちこめている。

 

「大江様、どうかお許しください。あの者、最初からこの世には存在せぬもの

です」

「磯禅師、お前、静と連絡をとっていたのか。静はまだ生きていると聞く。あ

の義行を静の元に走らせたのか」

 

大江広元は、ある事にはたと気づく。

苦笑しながら言う。

「そうか、磯禅師、お主、西行に惚れておったのか。それを見抜けなんだのは

、私が不覚。西行の想いが、自分の黄金である源義行を逃しよったか。くくっ、まあ、良い。 いずれは、静のところに向かうであろう」

源義行は、磯禅師にとっては孫にあたるのだ。

 

大江広元は憎々しげな表情で、磯禅師を見つめる。

禅師は、まさか広元が静の居場所を知っているとは、思っている。

 

恐るべき情報能力を持つ男だった。大江広元 は付け加えた。

 

「よいか、禅師。もし何かことがあれば、お主もろとも滅ぼす。無論、京都

大原にいる静もだ」

 

脅しの言葉であった。が、禅師も負けてはいない。

「しまし、大江様。大江様もこのままでは済みませぬぞ」

「何だと」

「頼朝様の暗殺を知っておられたこと、鎌倉腰越にて書状に認めてございま

す」

「何という書状を…、嘘じゃ」

 

「北条政子様は信じますまい。いや、本当のことをご存じでも、その書状を

利用し、京都から来た男である大江様を、鎌倉政権の座から引きずり落とすでし

ょう」

「むむっ、お前。この俺を裏切りおるか」

大江広元は憤怒の形相で、磯禅師ににじり寄った。

 

「これでも禅師は、この源平の争いの仲を生き残ってきた者でござい ます。裏の手、裏の手を考えておらねば、生き残ってはこられませぬ。そこは 私、禅師の方が広元様より、一枚も二枚も上手ということでございましょう」

 

大江広元を見返す禅師のまなじりには力がこもっていた。

おまけに源義行は、禅師の孫なのだ。

 

今の今まで生きながらえて、この官僚あがりの田舎貴族と対峙

して、勝てなければどうしよう。経験の量が違うのだった。

 

「うむっ…」

大江広元も押し黙ってしまう。ここは禅師を怒らせぬ方がよいかもしれぬ。所

詮は女だ。変に怒らせて、今までの広元の苦労を水泡に帰すこともあるまい。

 

「大江様、大江様はこの鎌倉殿の政庁を作り。歴史書に御名前が載りましょう。

が しかし、大江広元様ではなく、中原広元様にかも知れませんね」

 

「禅師、お前何を企むか」

「いや、お隠しめされるな。先年なくらられし西行様も、同じことをされました」

 

「‥‥」

「家の筋目のことでございます」

 

「西行法師様も、佐藤家の本筋ではございませんでした。佐藤家は源平の戦い、屋島の戦で、

滅んでおります。それゆえ、西行様も佐藤家御本流として、後の歴史にのこられるでしょう。

これは大江様も同じことをされる機会でございましょう」

 

大江広元も、また西行もそのそれぞれの家の本流、本家ではない、と禅師はいうのだ。

 

「禅師、お前は、、」

「いや、皆まで申されますな。

 

大江様の御母君様は、大江家の出。母方さまの御本流をのってるおつもりではございませんでしたか。

本来の苗字、中原の名前を隠し、大江の本流の方々をすべて死においや り、

大江広元の名前は、歴史にのこりましょうぞ。さすれば、名高き学者、大江匡房の 曾孫としてはづかしき事無く明法博士の御名前を朝廷からいただけましょう。これ でも禅師には、つてがございます」

 

大江広元はしばしの間、頭を垂れていた。が、ゆっくりと顔を禅師に向ける。

「、、で、禅師、そのお方とは、、」

 

禅師は、広元もまた、京都のためにからめとった。

 

「わかった禅師。このこと不問にしよう」

「では、源義行様のことはいかが記録されます」

「事件とはかかわりあいのない雑色だったということにしようか」

 

「それを聞いて安心いたしました。 それでは、京都から鎌倉にこられる僧たちのことよろしくお願いいたします」

 

栄西、法然をはじめ、新しい教条を手にに、鎌倉武士のために

京都から僧侶が送られてくるのだ、その手配方を、大江広元に頼もうというのだ。

 

昔、京都において、平家陣営の諜報少年部隊、赤かむろの束ね者でもあった、磯禅師は、深く頭をさげた。

 

(続く)20210429改訂

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