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義経黄金伝説●第15回

2005年01月18日 | SF小説と歴史小説
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■義経黄金伝説■第15回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/
第3章 一一八六年(文治2年) 平泉■■ 一一八六年(文治2年) 平泉
■■1  一一八六年(文治2年) 多賀城   
 西行は、多賀城にある吉事屋敷をでて平泉に向かう奥大道を歩いていた。前
を歩く小者と従者をつれた女性が静であるとに気付き、呼び止める。
「静殿、静殿ではござらぬか」
「ああ、西行様」
静は西行に気づいている。静も平泉を目指していると言う。
「お子様のこと、誠にお気の毒でござる。が、御身が助かっただけでもよいと
はせぬか」西行はなぐさめようとした。
「我が子かわいさのため、あの憎き頼朝殿の前で舞い踊りましたものを。あ
あ、義経殿の和子を殺されました。ああ、くやしや」
「その事を確かめるのも、みどもの仕事であった。後白河法皇さまから、言わ
れておったのじゃで、静殿、この後はどうされるおつもりじゃ」
静は、少し考えて言った。
「行く当てとてございません。母、磯禅尼とも別れたこの身でございます」
「禅師殿とのう。さようか、そうなれば白河の宿の小山家(こやまけ)まで行
ってくだされぬか。我が一族の家でござる」
西行の一族、藤原家はこの板東に同族が多い。その一の家にとどまれと西行は
いうのだ。
「白河の関。まさか、義経様がそこまで…」
「はっきりしたことは言えぬ。が、義経殿に会える機会がないとも言えぬ」
「私が、西行様と同道してはならぬとお考えですか」
「ならぬ。儂の、この度の平泉への目的は、あくまでも東大寺の勧進じゃ。秀
衡殿から沙金を勧進いただくことじゃ。女連れの道中など、目立ち過ぎる。鎌
倉探題の義経殿に対知る詮議も厳しかろう。それに、いくら私が七十才を過ぎ
た身なれば、何をいわれるかわかり申さぬ」
静は、ある疑念をぶつけてみた。
「ひょっとして、西行様。わが母、磯禅尼とはなにか拘わりあいが、若き時
に」
静は、つねから、疑問に思っていたのである。
「これ、静殿、年寄りをからかう物ではない」
が、静は自分の疑問がまだ広がっていくのを感じた。
 西行は、自分と乙前があったあの神泉苑で、その思い出の場所で、この若い
二人が、義経と静が、出会うとは思っても見なかった。縁の不思議さを感じて
いる、やがて西行は意を決して言葉を発した。
「これは義経殿よりの便りじゃ」
「えっ、どうして、これが西行のお手に」
「儂がこのみちのくへ旅立つ前のことじゃ。実は、儂の伊勢にある草庵に、義
経殿の使いの方がこられて、これを鎌倉のいる静殿に渡すよう頼まれたのじ
ゃ。あの鎌倉では危のうて渡せなんだ」
「西行さま、義経さまとは」
「たぶん、平泉であえるだろう」
「平泉。どうか、私もお連れください」
「それはならぬ。頼朝殿の探索厳しい、そのおりには無用じゃ。この地にある
小山氏屋敷に止まっておられよ。きっと連絡いたそう。これが私の紹介の書状
じゃ。儂の一族がこの地におる」
「きっとでございますよ」静は祈念した。

 西行と分かれ旅する静たちに気付く数人の騎馬武者がいる。遠く伊賀国黒田
庄に住まいしていた悪党、興福寺悪僧、鳥海、太郎左、次郎左を中心とする寺
侍、道々の輩の姿の者どもが板東をすぎる途中に、十四人に膨れあがってい
る。その一行である。
 黒田庄は東大寺の荘園であり、東大寺の情報中継基地の一つであった。大江
広元からの指示を得て、西行のあとに追いついてきていた。そこでめざとく静
をも見染めている。
「おい、あれは静ではないか」鳥海がつぶやいた。
「おお、知っておる。見たことがあるぞ」
「あれは京一番の白拍子と謳われたのう。が、確か義経とともに吉野へ逃げ
て、どうやら頼朝が離したらしいのう」
 鳥海が付け加えた。
「ふふう、ちょうどよい。ここでいただこうぞ」
「おう、そうじゃ。女子にもとんとご無沙汰じゃのう」
「よき話。幸先がよいのう。静は西行へのおさえにもなろう」

 なかの三人はゆっくりと、旅装の静たちを追い越し、一定の距離で止まって
いる。静は何か胸騒ぎを感じた。
 騎上の三人がこちらを見ているのが、痛いほどわかる。それも好色な目付き
で、なめ回すように見ている。首領らしい三人とも、普通の武士ではない。
加えて、心の荒れた風情が見えるのだ。この戦乱の世でもその人間の壊れ具合
が静には手に取るようにわかる、
「そこなる女性、我々の相手をしてくれぬか」
静たちは無視して通り過ぎようとした。
「ほほう、耳が遠いと見えるわ」
「いや、違うだろう」
「義経の声でないとのう、聞こえぬと見えるわ」
すわつ、鎌倉探題の追って、静は思った。
 静は走り出していた。が、三人は動物のように追いかけて捕まえている。小
物と従者はその場で切り捨てられいる。
「ふう、どうじゃ。我が獲物ぞ」
「兄者、それはひどいぞ」
「次郎左、よいではないか。いずれ、西行が帰って来るまで、こやつは生かし
ておかねばならぬからのう」
「それも道理じゃ。ふふ、時間はのう、静、たっぷりとあるのじゃ」
 ひげもじゃの僧衣の男がにやついている。静の顔をのぞき込んでいる。

 街道の近くにある廃屋の外にひゅーっと木枯らしが吹いていた。
 可哀想な獣たち。
 静は、太郎佐たちを見てそう思った。
 きっと、この戦乱が悪いに違いない。静は舌を咬んで死のうかと思った。
が、万が一でも、義経様に会えるかもしれない。この汚れた体となっても、義
経様はあの子供のような義経様は許してくださるに違いない。
 静はそう思い、いやそう念じていた。この獣たちと生きて行くが上の信仰と
なっていた。 この獣たちは、静の体を弄ぶとき以外は、非常に優しかった。
静という商品の価値を下げてはいけないという思いと、以外と京の白拍子とい
う、京に対する憧れが、静を丁寧に扱わせているのかもしれなかった。

「おい、鳥海。あの笛、止めさせぬか。俺はあの音を聞くとカンが立つ」
太郎左が言う。 静が廃屋で、源氏ゆかりの義経からもらった形見の薄墨の笛
を吹いているのである。
「よいではないか、兄者。笛ぐらい吹かせてやれ」
「次郎左、お前、静に惚れたか。よく庇うではないか」
静は、我が体が死しても義経に会わなければならなかった。こうなった今はな
おさら。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/

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