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人間が後世に遺すことのできる、ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。
それは何であるかならば、「勇ましい高尚なる生涯」であると思います。これがほんとうの遺物ではないかと思う。他の遺物は誰にでも遺すことのできる遺物ではないと思います。
そうして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと、私がここで申すまでもなく、諸君もわれわれも前から承知している生涯であります。すなわち、この世の中はこれは決して悪魔が支配する世の中にあらずして神が支配する世の中であるということを信ずることである。
失望の世の中にあらずして希望の世の中であるということを信ずることである。この世の中は悲嘆の世の中でなくして歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中の贈り物として、この世を去るということであります。 (内村鑑三)