自分には会社に5つ上の先輩がいた。
当時、他部署とはいえ、同じ構造設計という業務を同じくしていた彼は
自分にとって、一番身近で目標としていた人だった。
同じ会社の寮の、廊下を挟んだ向かいで暮らしていたこともあり、
ほぼ毎日、お互い終電ギリギリまで仕事をし、帰りの電車では会社の愚痴や
構造に関してのお互いの意見をぶつけ合っていた。
自分は彼に対してまだまだ未熟だったが、常に切磋琢磨できる存在だった。
いつか、肩を並べて仕事をする日が来ると思っていた。
2年半前、そんな彼が会社を休業することになった。
もともと抱えていた持病の治療に専念したいということだった。
命に関わるような病気ではなかったが、薬治治療を希望しており、
数ヶ月間、会社を休むという話だった。
その彼が一週間前、還らぬ人となった。
彼の命を削る筈の無い病が、死に到る病を引き寄せたのか
先の見えない治療に彼の精神が支障をきたしたのか
原因は不明だった。
告別式には、
当時、無知でどうしようもなかった自分を、
『 おまえ、そんなこともしらんのか? 』
と笑い飛ばしていたあの笑顔はどこにもなく、
長い闘病生活に、苦しみ続け、疲弊しきった顔がそこにあった。
彼が病と闘い続けた2年半は 自分が彼の背中を追い続けた2年半。
自分は少しは彼に近づけたのだろうか。
今となってはもう誰にも、自分ですら分からない。
もともと信心深くも無い自分だから、彼の為に祈るつもりは無い。
その代わり誓おう。
この仕事を続けて、努力し続けることを。
もう届かない背中を追い続けて