『別に東京まで連れ出してくれ、って頼んだ訳じゃないんですけどぉ。
何か、シュンくんのお姉さん?が、東京にいるって言うから、付いて来ただけでぇ…』
"シュン"とは、先週明けから行方不明になっていた、我が愚弟の名である。
その弟を"シュンくん"と称し、彼氏とするこの娘は、"リカ"ちゃんと言う、らしい。
そして何の因果か、彼らは今、
私の狭いワンルームに鎮座している。
心無しか、リカちゃんの口調が阿呆にしか聞こえないのは、私の偏見か否か。
『姉ちゃん、悪かったなぁ。今回は連絡も無しに、押し掛けてもて』
『あぁ、全く』
昨日、と言うか、今日。
警察と名乗る男性から、
"貴方の弟を預かっています。確認の為、いらして下さい"、との通達があり、
11㎞程、眠い目を擦りながら駆け付けたのが、AM2:30前後。
小さな署のドア越しには、あら不思議!
『声優に、俺はなる!』と母宛に書置きして消えた弟が、
女連れで、佇んでいるではありませんか!
訊けば、彼女であるリカちゃんが、
『どうしても家が嫌なの!私を連れ出して!』と、
我が愚弟に懇願したのが、事の始まり。
18歳。たった今高校を卒業したような小娘に、逃避行への資金は無く、
恋人であるシュンを頼ったのだが、当然ニートの経済力など当てにならず、
結局真夜中、宿無しで途方に暮れていた所を、
巡回中の警官に補導されてしまった、との事。
そんな馬鹿者どもを、お仕事返上で引き取り、風呂に入れ、食事を与え、寝かせ、
起きたらまた食事を与え、挙句、洗濯までやってあげた次第である。
『兎に角、お姉さん、本当に助かりましたぁ!
でも、東京に住んでるなんて、カッコいいなぁ。リカも住んでみたい~♪』
まるで、観光気分である。
『まぁ、此処は都心の端だから、丁度良いかもね』
『としん?としんって?』
"都心"も知らんのか。
口調だけで無く、やっぱり根本から阿呆だったか。
『街の中心部っていう意味よ』
『へぇ~。じゃあ、家賃とか大変なんじゃないんですか?』
『そうね。でも働いているから、何とかね』
『どこでバイトしてるんですかぁ?』
『ソープランドよ』
『…え?ソープランドですか?風俗ですか?!
風俗なんて、汚い女が行くところなのよ!不潔だわ!!インモラルだわ!!
いやぁっ…、さっきこの人の作ったチキンライス、食べちゃった…!
性病になっちゃう!!慰謝料払ってよっ!!誰か…誰か、助けて!!』
…と、返答されると女の勘が告げるので、いつも通り偽る事に。
『家庭教師よ。掛け持ちで3人』
『ごめん。もうちゃんと帰るから…』
『そうして。
どうせお前ら二人とも、ハナっから何も考えてねぇんだろうし。
ところで、リカちゃんの実家に侘びはちゃんと入れたんやろうね?電話ででも、何でも』
シュンの隣で、安心しきった顔で眠るリカちゃんを見て、
徐々に例え様の無い苛々が湧いてくる。
元来、私は年下の女の子には特に優しいのだ。
鍛え上げたハスキー声の所為で、凡その人間は一歩引いてしまうからだ。
自分で言うのも何だが、そんな私を、よくもここまで呆れさせてくれたわね。
時刻はとうに、PM4:00を過ぎている。
お前たち二人に問いたいわ。
"このコのどこに惚れたの?"
『…いや、まだ』
『死ね』
『………。』
財布を取り出し、諭吉を数人取り出す。
これ以上、馬鹿者どもと同じ空気を吸うと、馬鹿が伝染るわ。
『今すぐ帰って、リカちゃんのご両親に土下座してこいや』
『あ、でも、家出はリカが言い出した事だし…』
『ボケが。立派な誘拐犯やろが。
けど、お前が未成年だった事と、捜索願が出されてなかった事が幸いだったな。
今なら、まだ許して下さるかもね』
『え、何で、捜索願が出てないって分かったん?』
いよいよ、立腹が最頂に達する。
『そんなん出てたら、私が警察署からお前らを引き取れた訳無いやろ!』
怒鳴った拍子に、リカちゃんがハッと目を開ける。
『リカ、そろそろ帰ろ?帰って、俺、謝らないと』
『…え?誰に?誰に謝るの?』
『リカの、親父さんとお袋さんに。
"家出の手伝いをしてしまって、ごめんなさい"、って』
『それは…、嫌!帰りたくない!
お姉さんお願い!お願いだから、もう1日だけ、泊めて下さい!!』
『いいえ。私まで、君の内情に巻き込まないで頂戴』
『じゃあせめて、お金下さい!10万でいいです!!』
………。
理性、理性。自制心、自制心。
女の子だもん。殴っちゃ、駄目。
『ねぇ。そんなに、お父さんとお母さん、嫌い?』
『大っ嫌いですよ!あんな奴ら!!』
『どうして?それは、家を出た理由とイコールなの?』
『…私、フリーターになりたいんです。
何か進学して、また勉強するのも嫌だし、だからって就職だって、今、無理なんでしょ?
フリーターだって、頑張れば稼げない訳じゃないって、みんな言うし。
それをね、親が毎日叱るんですよ。就職しろって。
それがもう、ウザくてウザくて。だから、鬱病になる前に、家を出ようと思って…』
まぁまぁまぁ、幸せな鬱病ですこと。
ソクラテスの云う【無知の知】のある人間なら、暖かく手を差し伸べてやるものの、
なかなか、面倒臭そうだ。この、自分大好きリカちゃんは。
最終的にそう判断した私は、
ご丁寧にも最寄駅まで搬送して、決別。
彼女とは、二度と遭遇する事も有るまい。
…それとも、今時の感覚って、こういうもの?
初対面、それも目上に人間の目前で、寝れる?洗濯を頼める?金をせびれる?
ジェネレーション・ギャップを痛感した、貴重な1日でしたとも。
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弟さんの彼女が、非常識で無知で在るかどうかは、判断しかねますが、とりあえず、失踪中の弟さんが見つかった、という事でメデタシ、メデタシ…な訳ないか?
なんだか、「最近の若者は…」なんて言いたくなっちゃいますね。
フリーターでもニートでもヒッキーでも、苦悩のない人間はダメだと思うよ。
愛さん、ナイスジャッジです!(・∀・)9 おうっ!
と、某アニメの名ゼリフを捧げたい気分ですね(-_-;)
特にリカちゃん…この人絶対!おかしい~~~
と、かれんは思います(怒)
愛さんも優しいですねぇ。
私だったら警察の時点で
「人違いです」
で済まして、弟は自分達の親、彼女はその親にそれぞれ迎えに来させますが☆
でもほんと、よくがんばりましたよ!!
どうかゆっくり休んで下さい。そして二度と、弟くんがトラブルを起こさないように、かれんも微力ながら祈っております。
ともかく、弟さんが見つかってよかったです。
弟は今回のこの逃避行で貯金を使い果たし、
リカちゃんはご実家に閉じ込められる事でしょう。
私的には、平和ですね
一応、メデタシ、メデタシ…でしょうか??
kazejiro様は、いつも私の心中を代弁して下さいますね
本当に、苦悩の無い人間は駄目です!!
はぁ…。
弟は勿論、他人ながらリカちゃんの将来も、
非常に心配ですわ
警察の時点で、『人違いです』って断っておけば、
こんなに苛々する事も無かったんですよね
はい…。まさしく、『いっぺん、死んでみる?』の世界です
弟も馬鹿ですけど、リカちゃんも負けず劣らず…。
はーー二度と会いたくないですねぇ
弟…。
こんな厄介者が付いてくるなら(弟も同じく大場かですが)、
いっそ、行方不明の方が…。
いやいや、見付かって何より、です
はぁ…